第19話 10日目:ポーション投擲
『く、そ……主人よ! 許してくれ!! 貴方をお守り出来ぬ我が身の不出来を! 妾はここで、悍ましい厄王の信徒にこの身を解体されるらしい! ああ……! 我が父祖よ! 炎王"メルマス"よ!! どうか妾の肉と魂を代わりに我が主人を助けたもうて』
凄い喋るな、このワイバーン。
どうしよう、なんか壮大な勘違いをされてそうな……
「あー、あの……ワイバーンさん? ちょっと話を……」
『くっ!! なんという悍ましさ……小鬼共を瞬殺した業といい、かなり上位の信徒……いや司祭……まさか、厄王軍の、福音魔将……!?』
ダメだこいつ。
人の話を全く聞かないタイプのワイバーンぽいぞ。
『お、お、おのれ、妾は怖くない、怖くないぞ! 例え貴様が、神をも恐れぬ厄王軍だとしても!! 妾には、炎の加護がついている!! おお。父祖よ! 炎王よ! 厄王の毒から妾を守り給え!』
ワイバーンが、翼を大きく広げる。
あれ、なんか涙目になってね?
にしても、厄王の信徒……。
どこかで聞いた事のある言葉だな。
もういっそ、ノリを合わせるか。
信徒に、司祭……福音魔将ってのはよくわからんが……。
あいつからすると俺は何かの怪しい宗教関係の人間に見えているようだ。
なら……。
らしくしてみるか?
いちいち疑いを晴らす手間が惜しい。
「……ごほん。聞け、強き竜よ。汝の命運、未だ終わらず」
……いや、何をやってるんだ、俺は。
恥ずかしい、いい歳をして。
ロールプレイで状況が打開出来る訳がーー。
『何!? どう言う意味だ! 答えろ! 小さき者よ!』
行けたわ、意思疎通。
この話し方でいいんかよ。
「……ゴブリンは去った。答えよ、竜、貴公に何が起きた?」
『グルルルルルるるるる』
あれ……また威嚇に戻っちゃった。
なんか気にでも障ったか?
さっきはあんなに食いつきが良かった――。
……まさか。
「ごほん、
『おのれ!! 手負いと思って舐めるなよ! 神に叛逆せしまつろわぬ者よ!! 小鬼共を掃ってくれた事には礼を言おう! だが、妾はここで、貴様と話している場合ではないのだ!!』
はいはい、君のツボがわかってきましたよ。
よく見ると、こいつ身体は震えているし、涙目だし。
あんま怖くねえな。
「ほう……それは貴女の背の鞍が空である事に関係があるのかな」
『……貴様!! ああ、その通りだ! 我が月光の君が、妾の気が飛んでいた間に小鬼共の巣に連れ去られた!! おのれ、おのれ、薄汚い小鬼共!! 早くいかねば、妾の月の光が、小鬼共の下卑た欲望に穢されてしまう!!』
ワイバーンが、ボロボロの身体をもたげる。
しかし、傷口が大きすぎる。
ぼたぼたと青い血がこぼれ、みるみる間に草地を青に染めていく。
『がは……』
ワイバーンが倒れこむ。
自重を保つ体力すらないらしい。
このままでは、命すら危ういだろう。
――だいたい事情は分かった。
このワイバーンには乗り手がいる。
墜落の際にはぐれ、今はゴブリンに捕まっているらしい。
ファンタジーのお約束で、ゴブリンの巣に持ち帰られた者がどんな目に遭うか……。
ワイバーンのセリフ的に、女性っぽいしな。
時間はなさそうだ。
『くそう……動け、動かんか……役立たずの翼よ、ウロコよ……ああ、我が君、妾の月よ……あんまりじゃないか……己の世界から迷い込んだ身で、同胞の為に勇気を出した結果が、小鬼の慰み者など……あんまりじゃないか……』
「遠き世界……? 待て……ごほん! 強き竜よ……貴女の乗り手は、まさか……転移者だったりしないか!?」
『何……? いや、我が君は……ぶい、ぶいちゅーばーで、ある。転移者など、知らぬ……』
「うわ、やば」
非常にまずい!!!!!
ぶいちゅーばー……今、Vtuberと言ったよな!
竜の乗り手は転移者、Vtuberで!
ゴブリンの巣に連れ去られたという事だ!
俺の設定が原因で、竜が撃ち落されたせいで!!!!
俺のせいじゃん!!
気分、悪っ!!
いや、まずい。
非常に宜しくないぞ!
「……強き竜よ、答えよ、貴公の主の連れ去られた巣はいずこにある?」
『き、さまには教えられない。厄王……神をも恐れぬ大逆の輩……世界に禁じられた薬をばらまこうとした破戒者……それの信奉者を、我が主には合わせられぬ。それに、目がかすみ、鼻も効かぬ、妾は、ここ、まで……」
ワイバーンが目を閉じる。
待て待て待て!
なんか、こいつ、イベント死しようとしてないか!?
ゲームでよくあるイベント導入の為に死ぬキャラの死に方じゃあないか!
させるか!
これは現実だ!
お前が死ぬとゴブリンの巣を探すのに時間がかかる!
「”薬師のかばん”!」
俺は、肩にかけている薬師のかばんに手を突っ込む。
ある種の四次元ポケットみたいになっている収納アイテム。
その中から取り出すのはこの1週間、隙間時間を見つけては作りに作った――。
「回復薬だ!! 喰らえ!!」
『え』
「ソォィ!!!!」
かばんから取り出した緑色の液体がなみなみ入った空き瓶。
それを、ワイバーンめがけて投げ付ける!
ぱりん!!
ワイバーンの顔面に回復薬瓶が直撃、緑色の薬液が竜の鱗に吸い取られる。
『グァァァァァぁァァ!! あ、熱い! おのれ! 厄王の信奉者! 正体を現したな! 妾の鱗か!? 牙か!? それとも目か! 貴様らの作る怪しい薬の材料になってたまるか!!』
「うるせえええええええええ!! 怪我竜が! 黙って薬を飲め!!」
もがくワイバーンの傷口めがけて、また回復薬を投げつける。
良かった、投げつけて! 近付いてたら、大暴れしているワイバーンの翼か尾に殴られてお陀仏だ!
『グルルルルル! ――待て……貴様、何を、した……!?』
ワイバーンの動きが、急に穏やかになった。
どうやら、気付いたらしい。
『我が、傷が――!?!?』
じゅわあああああああ。
一気に治癒していることに。
『あ、あ、あ、あり得ぬ……ここは治癒の神の聖堂でもない。聖職者もおらず、神紋も、祈りの言葉も、何もない……』
ワイバーンが口を、開けて……。
『き、貴公、一体、何者だ……』
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