第20話 10日目:その設定考えたの、俺です
「……言ったろ、回復薬だって」
落ち着いた様子のワイバーンに回復薬を2つ掲げ、手を上げるようにして近づく。
タボも尻尾をたれ下げ、ゆっくりと俺の横を歩いてくれる。
『――貴公、まさか……』
「こっちの1本は口から飲め。んで、こっちの1本はこれからお前の胸の傷に流し掛ける。いいな? 暴れるなよ。これ以上暴れるなら、麻痺させながら薬を永遠になげつけてやる」
『……妾を、治そうとしている、のか?』
「それ以外何が、あるんだよ」
『な、何故だ……妾の鱗や牙が目当てじゃないのか』
「いらんいらん。薬なんか水があったら作れんだから。それに――」
『……?』
「俺は薬師だぞ。薬持ってんだから、ケガ人にはわけてやるに決まってるだろ」
ワイバーンはしばらく深紅の瞳で、俺を見つめた後、急におとなしくなった。
『貴公……済まない……』
きゅぽん。
俺は。回復薬の蓋を開け、ワイバーンの傷口に薬液を流し掛ける。
深く胸に刺さった槍……いや、七色の尾羽がついている。
これは、矢だ。
うわぁ……ウッドエルフの竜狩り文化として創った大矢じゃん……。
そうそう、七色鳳っていう成層圏を飛ぶバカでかい鳥の羽を使う矢なんだよね。
この七色鳳を射る事がウッドエルフの成人の儀で、竜を堕とすのが誉っていう……。
いいよね、戦闘民族エルフ。
設定通りだわ。
『ぐ……おのれ、耳長め……奴ら、翼持つ者を見かければすぐにこれだ……。炎王が帰還した暁には、全て灰燼に……』
「静かに。少し、痛むぞ」
『無駄だ……奴らの矢は抜けぬ、獲物に刺さると体内で呪いが発生する。獲物の肉の中で――』
「ウッドエルフの大矢は、世界樹の枝を切り出して作られる者だ。刺さると、矢先が獲物の肉に食い込み、最終的には血管と同じ細さになって内部から確実に獲物を殺す魔術の矢」
エルフの中でも異端とされる種族だ。
やっぱこれくらいクソギミック戦法使ってくる奴らじゃないとね。
ワイバーンが、目をぱちぱち瞬きさせ、俺を見る。
『……詳しいな、貴公。そうだ、古の挑神戦争でも、多くの同胞が奴らの弓矢に……この矢は外せない』
「そう。絶対に死ぬ矢だ。……でも、ウッドエルフはバカだが、愚か物じゃあない。味方への誤射の際に対策を残している」
『……なんだと?』
ワイバーンの言ってた事は全て正しい。
なぜ、俺が正しい事を知ってるかって?
「この矢には誤射した場合の対策が仕込まれているって事だ」
――矢の設定を考えたも、全部俺だからな!!
「サギッタ《矢》 ラボア《労働》フィニス《終了》!」
『――え!?』
ワイバーンが目を丸くする。
しゅうううううう、大矢が煙を噴く。
かと思えば、一気に萎んで小枝ほどの大きさに。
解除呪文、良かった。これも設定どおりにつかえたぞ。
矢が抜け落ちた傷口に回復薬を追加で投げかける。
うん、さすがワイバーン、傷がみるみる塞がっていく。
『貴公……一体、何者だ……ウッドエルフの古代呪文を知る人間なぞ、いるはずが……』
「言ったろ、薬師だ。さて、次は、お前の主人だな」
『……! まさか、貴公。手を貸してくれるのか!?
ワイバーンがパァっと顔を輝かせる。
完全ドラゴンフェイスなのに、すげえわかりやすいぞ。
「……お前、主人がどこに連れ去られたか、わかるか?」
『小鬼共の巣、恐らく、森の奥だ、すまない、何故か、身体の感覚が鈍い、主人の香りが……追えぬのだ。それ以上は……』
なるほど、負傷の影響か。
さて、ならどうやってこいつの主人を探すか。
ゴブリンの巣と言っても心当たりが――。
「FUNFUN、わふ……すんすん」
「タボ?」
タボが、竜の背に乗っかって何か、匂いを嗅いでいる?
「わんわん!!」
『……貴殿、まさか、我の代わりに主人の香りを追ってくれるのか』
「ぼふ!!」
ワイバーンの背の上でくるくる回ってお座りするタボ。
あの少し、誇らしげな顔は……。
ええ~やだ~。
タボちゃんがワイバーンとお話してるゥ~。
可愛い~。
『貴殿……感謝する。その、偉容、さぞ名のある古い獣とお見受けするが、一体……』
「ぼふっ」
タボがぴょんとワイバーンの背から飛び降る。
ついてこい、とばかりにこちらを振り向き尻尾を振った。
犬、有能すぎる。
流石、人類の友。異世界でも必須ユニットだな。
「ぼふっ!」
『薬師殿……どうか、頼む。妾も連れていっておくれ……どうか……』
「その身体じゃ無理だ。強き竜よ。あなたはここで待っていろ。回復薬がじっくり傷を――」
『いや、待てぬ』
そういうと、ワイバーンの身体が急に赤く輝く。
あっという間に身体が小さくなり、気付けば、鴉くらいのサイズに。
『この大きさなら、貴公の邪魔にはならない……、どうか、頼む』
「マジかよ……いいよ、肩に乗れるか?」
『……感謝を、貴公』
ぴょんっと鳥みたいにワイバーンが俺の肩に乗る。
鋭い爪がちくっとしたが、まあ、問題はない。
「よし、タボ、案内頼む!」
「わふ!」
『待っていてくれ、主人……!』
犬と手乗りワイバーンと共に、俺は森を進む。
童話みたいなパーティーメンバーだな……。
しばらく走ると、森の奥に洞窟が見える。
うわ……洞窟の入り口に、なんか骨のオブジェ置いてある……。
「絶対、ゴブリンいるじゃん……」
「わふ……」
『主人! 今行くぞ!!』
やる気満々の妾ワイバーンが小さな火の息を吐く。
だが、ゴブリンの洞窟か……。
正直、敵の本拠に突っ込むには情報や準備不足は否めないな。
『どうした? 貴公、小鬼の住処は目の前だ! 主人を――』
「竜殿、1つ聞かせて欲しい」
『なんだ?』
「君の主人、身体は丈夫な方か?」
『我が主人は、”竜の騎士”だ! その肉体はまさに、竜を駆るにふさわしい強靭さ! 魔術にも長けた勇者だ! その血脈は竜の血が流れ――』
「OK、それだけ聞けたら十分だ」
俺は、洞窟の入り口に向けて手を向ける。
RPGゲームなら洞窟は隅々まで探索する派だが、これはリアル異世界。
故に。
「遊び無しで、ゴブリン狩りだ」
『え?』
「毒手――解放。麻痺毒+気化毒」
さあ、薬師の、いや――。
大人のゴブリン退治を始めよう。
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