第13話 2日目:スキル修行 "術"



「毒手!!」



 ごんっ!!


 2日目は結局、永遠に樹を殴り続けるだけで1日が終わった。


 不思議な事に、拳のダメージが少ない。

 頑丈になってる?

 回復薬も昨日は10本以上消費していたのに、今日はまだ2本しか使っていない。


 ~~~~

 スキル経験値:4950加算

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 夜。

 適当に味のしない果物と水で腹を満たし。

 タボと一緒に木の根元で浅い眠りにつく。


 仕事を辞めた後、1年放浪生活をしていたおかげで、野外でもよく眠れる。



「やあ、こんばんは、パパ。今日も1日お疲れ様」


 眠りにつくと同時に、また俺はあの植物園にいた。


 目の前には、家族を名乗る不審者が1名。


「早速、レシピ本を使ってくれたようで嬉しいよ」


 あの本を使った事をエルマも知っているようだ。


 捨てなくて良かった。

 何をされるか分かったものじゃない。


 考えてみれば……エルマに味覚薬の作り方を聞けば、わざわざ危ない連中の野営地にカチコミかける必要はないのでは?



「ああ。パパ。言っておくけど。僕にレシピの事を聞かれても困るよ。僕、そういうのは紙に書いておくタイプだから覚えてないんだ、それに――」



 エルマが紅茶を啜りながら、にこっと微笑む。



「あの子のパパたる君が、そんな詰らない真似はしないと信じている。君は僕達の家族なんだからね」


 もうこの女、色々怖い。

 味覚薬のレシピを聞くのは無理そうだ。


 後はお茶でも飲んでのんびりするかと思っていた所。


「そうだ、パパ。毒手スキルはどのくらい鍛えたのかな?」


「え? どのくらいって言われても……」


「ああ、いいよ、説明しなくても見たら分かるから……うん、既に”覚醒”してるんだね」


「覚醒?」


「そう、固有スキルは一定以上の修練を積むと、自分の解釈や選択により進化させる事が出来る。スキルツリーって言うんだけど、君はもうそれを知っているようだね」


「……ああ、まあ、うん」


「大変結構。”毒喰らい”スキルも持っているみたいだし。じゃあ、前回の約束通り、君に”毒手スキル”の本当の使い方を教えてあげよう」


「え?」


「これ、君にも使えるようになって欲しいんだよね」


 エルマが腕を構える。

 瞬間、また緑のオーラと毒液が彼女の右腕を覆う。


 まるで、ガントレットみたいだ……。


「これは、スキルツリーとは別のスキルの境地。ボクはこれを"毒術"と呼んでいる。魔力の性質を応用した毒手スキルだけの戦い方さ」



「あんたが考えたのか?」


「もちろん。この地には敵が多くてね。ふふ、楽しみだね、パパ」


「あ?」


「力とはつまり、自由の許可証に他ならない。ボクはね、君に自由にこの世界を楽しんで欲しいんだ」


「……昨日会ったばかりの俺にどうして?」


「家族だからさ」


「……」



 この後、エルマに毒手スキルを基にした戦闘術を習った。


 毒を手以外の場所に纏い、防御や攻撃に流用する”ソウ”。


 毒を自在に、体内、体外関わらず一か所に集める”シュウ”。


 毒の形を変える”ヘン”。


 他にもいろいろあるみたいだが、この3つが基本らしい。


 エルマの指示通りに試してみたが、なかなか上手くいかない。


 魔力? 

 俺には元々なかったその感覚がどうも掴めない。



「ああ、気にしないでいいよ。僕がこれをマスターするのに30年はかかったからさ。今後は毎晩、この場所で練習しよう」



 そういう事になった。


 いつまた戦闘が起きるとも限らない。

 護身のために戦う手段はあればあるだけありがたい。


 それとラッキーなことにだ。

 

 ~~~~

 スキル経験値2000加算

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 術の訓練をすると、スキルに経験値も入った。

 これ、もうかなりのポイントが溜まっているのでは?


「ふふ、順調に毒手のスキルを鍛えているみたいだね。まあ、あの薬を躊躇いなく飲む人間だ、それも当然かな」


「知ってたのか?」


「そういうスキルもあるのさ。そのうち、君のスキルツリーでも選べるかもよ?」



 なるほど。

 スキル経験値も結構溜まったし、明日は新しいスキルを覚えてもいいかも……。


 これからは、日中はスキル経験値稼ぎ、夜はここで戦闘術の訓練って感じが固いか?



「素晴らしい向上心だよ、パパ。ああ、そうだ。パラちゃんもたまには一緒に戦わせてあげてね? あの子、凄く強い子で、戦うのも好きだから」


「え? そうは見えなかったけど……」


「……ああ、あの死臭臭い死霊術師共につかまってた時の事かい? ――ああ、ダメだ、今思い出してもはらわたが煮えくりかえってくるな……」



 エルマの身体から紫色の光が輝き始める。

 外敵の察知スキルが凄い勢いで俺の身体を震わせていた。



「ふう、ごめんよ。あれはね。……パラちゃんは」


 エルマが紅茶をすっと飲んで。



「もしかしたらあのゴミ屑共が頭を撫でてくれるかもしれないって思ってたからなんだよ」


「は?」


「……パラちゃんは人が好きな幻獣でね。人間にいじめられても、それは人間のせいじゃなくて、自分が何かしてしまったのかも知れないって思っちゃうラブリー慈愛に溢れた生き物なんだよ……」


「……お前、それは、可愛いが過ぎるだろ。やばい、俺もうここ出るわ、今すぐ彼を撫でてやらんと気が済まない」


「――!! ああ、やはり君は僕の家族だ……! うう、僕の分までパラちゃんを撫でまわしてあげて……」



 エルマがハンカチで目元を拭いながら呻く。


 家族を名乗る変質者ではあるが、悪人とは思えない。


 犬を想って涙を流せる人間に、悪い奴はいてほしくない。



「……お前は、ここから出られないのか?」


「……君が、もう少し強くなったら教えてあげるよ。僕の話はね」


 エルマが静かにほほ笑む。


 月明かりが、植物園を青白い光で満たす。


 月光にさらされるエルマは、この世のものと思えない妖しい美を放つ

 女神とかがいたら、こんな感じなのだろうか。


 まあ、家族呼ばわりして、初手で不同意接吻してくる変質者だし


 ……顔が良いだけか。


 だが、いつか、もう少し余裕が出来たら。


 こんな美女を文章で書き表せれる時が来たら良いな……。



 俺の植物園での時間は過ぎていった。



 ◇3日目◇


「わふ!! ふご! ぼふっ!」


 とりあえず、起きた瞬間に、マイ抹茶色モフモフラブリーフレンドをめちゃくちゃに撫で回した。


 しっぽが千切れそうになるくらい振って、耳もぺたんとなっていて良かった。


 人間の手は、犬を撫でる為にあるのだ。

 決して、犬を殴るためにあるのではない。



 さて、3日目だ。

 朝日を浴びて、小川で水を飲んだら……


「今日はスキルツリー構成を考えるか」


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 スキル経験値:207910

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 ふふふ、今日はパァーっ使うか! 貯めにためた経験値!

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