第5話 初日:犬を救え
なんとなく森の奥から嫌な気配を感じる。
良い感じに身体を潜める事が出来そうな茂みに身を隠した。
しばらく、そこで息を潜ませていると……。
「わんっ……」
犬の声?
茂みの隙間を覗くと。
「クソ犬が。まだ見つからねえのか」
「あの商人に10000000Gも払って買った分は働いてもらうヨ」
「まあまあま、お二人とも落ち着いて。”墓所”さえ見つければ簡単に回収できる金額です
なんだ、あれは……。
黒い西洋騎士鎧を着込んだ男達と……犬?
抹茶色をした大型犬を連れている。
シベリアンハスキー……?
いや、オオカミか?
異世界という事を考慮すると……本物の狼という事もありうる……。
鎖の首輪でつながれて苦しそうだ……。
犬をあんな重々しい鎖で繋ぐとは……
絶対にあいつらはロクな人間ではない……。
「……ぼふっ」
「っ……」
茂み越しにわんちゃんと目が合った。
まずい、あのわんちゃん……俺に気付いている……!
え、これ、隠れてるのバレたらやばくないか?
「……」
しかし、あの犬……。
なんて、くりくりした可愛いお目目……!
でも、どこか悲しそうな……。
違う、それよりも、このままじゃあの犬の扱いの悪い外道共に見つかってしまう……。
「……」
わんちゃんが身じろぎもせず、こちらを見つめ続ける。
あの犬、やはり――。
かしこ~い!!
俺に気付いてるのすごいねえ~!
お鼻が利くのね~!
いや、いかん、こんな所で犬に感心している場合じゃない。
あのシュミの悪い髑髏の鎧、嫌な感じがする……。
どう見てもヤンキー、半グレよりの人種だ……!
「……ぼふ」
「……え」
大きなわんちゃんがそっぽを向いて、俺とは反対側の方に……。
まさか……あの犬……。
俺をかくまってくれたのおおお~!?
普通あんなストレス状態で俺みたいに隠れている奴を見かけたら吠えたりしてもいいものを!!
あの子は、一切吠えもせず……!
なんて賢いわんちゃんなんだ……
飼い主のしつけがさぞよかったに違いない……。
俺は茂みの中で静かに感動して。
「ッ――キャイン!!」
「――は?」
悲鳴だ。犬の。
茂みの隙間から様子を確認っ――。
「てめえ!! いつまでだらだらこの辺をうろついてんだ!! いい加減にしろ!!」
髑髏騎士が、棒で犬を叩いた。
犬は、その場にうずくまっている。
怖がっているのだろう。
耳をぺたんと下げて、尻尾を脚の間に挟むように隠す。
「お前、さぼってるアルか? いい加減にするネ」」
ばしっ!!
今度は別の男が鞭で犬を叩く。
黄色い光……電気のような稲妻をまとう鞭が犬の背中を叩く。
「キュィン……」
その牙で襲い掛かってもいいものを、犬は決して反撃などしない。
小さく鳴くだけで、じっと耐えるように目を伏せて
「……あ」
気付いた。犬は小刻みに震えていた。
本気で怖がっているのだ。
やめろ、やめろ、やめろ。
ふざけるな、何をしているんだ、こいつらは。
止めなければならない。こんなの許されるはずがない。
~~~~
外敵の察知・発動
危険、危険、危険、隠密行動の継続を推奨
~~~~
だが、理性とスキルが囁く。
身体が、勝手にこの茂みにいようと動かない。
自分には関係ない、危険な目に遭う必要はない、見過ごすのが正解だ、と。
確かにその通りだ。
逆に俺が出ていった所で出来る事は何もない。
ここは大人しく隠れてやり過ごすのが正解だ。
かたかた、俺も気付けば震えている。
恐怖。
怖い、武器を持った鎧の男達の威圧感は、現代で遭遇する人間とは比べものにならないものだ。
ヤンキー、半グレ、ヤクザ。
現代日本でも、アウトローはいる事にはいるが、目の前の奴らはそれ以上の……。
「……こんな時、小説の主人公だったら……」
駄目だ……。
俺は主人公じゃない。
何故か、昔のことを思い出す。
小学生の頃、近所の道に捨てられていた子犬を見つけた。
段ボールの中で、雨の中、震えていた犬。
俺は、一瞬、それを拾い上げようとして、やめた。
見て見ぬふりをした。
傘を置いていくのが精いっぱいで――。
自分には飼えない。
どうせ親が許してくれない。誰かが拾うだろうって、逃げた。
走り去る俺の背中に届く、あのか細い声は今も耳から離れない。
「おい、起きろ!! この役立たずの害獣が!!」
「……きゅ~ん」
~~~~
外敵の察知、危険危険危険危険逃げろ逃げろ逃げろ
~~~~
あの子犬はどうなったんだろう。
それは、もう今の俺には分からない、どうしようもない。
目の前の犬は、どうなるんだろう。
こいつらを放っておけば、犬はずっと叩かれるのか?
ずっとあんなに怯えたまま?
仕方ないのか?
「……ダメだろ、そんなの」
こんな時、主人公なら――俺は主人公じゃない。
でも、主人公じゃなくても――。
~~~~
嗜好:犬だいすき人間、適用
~~~~
――
「――見過ごせる訳が、ない」
「わふ……?」
気付けば、身体が勝手に動いていた、
突然出てきた俺を見て固まる髑髏騎士達。
わんちゃんは、俺の方に視線を向けて。
「い、いぬっ、犬を解放しろ!!」
声が引き攣る、怖えええええ……!
やっちゃったぁァァァァァァァ!
「あ?」
「……誰ネ?」
「おや……これはこれは」
髑髏騎士達の犬への攻撃が止まる。
犬は、かなり弱っている……横たわり、浅い呼吸を繰り返しながら、力ない目で俺を見ている。
「何者です?」
「――ッ! 犬を虐める奴らに名乗る名前はねえ!! その子を解放しろ!!」
スキル毒手! 解放!
人間に試した事はないが……いざとなれば、これを使う……。
異世界だろうがなんだろうが、知った事か!!
見捨てる奴には、もうなりたくない。
犬だけは、救わねば!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます