第5話 日曜日!~みんなで休日の満喫~
そして、朝の7時半・・・
「おにいちゃん・・・おにいちゃんってば。ほら、起きて~」
「んん・・・もう朝か~。毎朝、かわいい妹に起こされて幸せだな~」
「ま~た、そんなこと言って~。今日はみんなと遊びに行く日なんだから、私は準備できたから、お兄ちゃんも着かえて朝ごはん食べよ」
隆司は眠たそうにしながら着替えをして、食卓に向かうと家族全員揃っていた。
「おにいちゃん・・・なんで制服?」
「おぉ!寝ぼけて間違えた・・・まあ、朝ごはん食べたら着替えてくるよ」
朝食を食べると、隆司は急いで着替えを済ませて、美咲と待ち合わせ場所に向かっていった。
すると、すでにみんなが集まっていて、杏子は大荷物だった。
きっと張り切ってお弁当を作ってきたのだろう。
三紀子は大きめのカバンを手にしている。
恐らくは原稿が詰まっているのだろう。
「いや~、待たせちまったかな・・・わりぃ~な。おはよ~」
「あっ、おはようございますぅ~・・・って杏子先輩ってば凄い大荷物ですね~」
「あはは・・・張り切ってお弁当作ってきたから~」
杏子の後ろに、ちょこんといる三紀子に目が行くと。
「おっ!もしかして原稿か?何枚くらいあるんだ?」
「あ、うん・・・30枚描いてきたよぉ~・・・あと、同人誌も2作あるけど、ほんとにお願いしちゃっても良いのぉ~?」
「おぅ、任せとけって・・・一応、カバン持ってきたんだけど、そのまま預かるわ」
隆司は三紀子から原稿の入ったカバンを受け取ると、三紀子にクマが出来ているのに気づいた。
「おまえ、ほんとに徹夜して書いたんだな・・・ほれ、クマ出来てるぞ・・・あははは」
「やだぁ~・・・はずかしいぃ~・・・・朝の5時まで書いてたのぉ~」
と、杏子が小さめのバッグから何かを取り出していた。
「ほら、三紀子。こっち向いて」
パンパンパン・・・
「よしっ!おっけ~。ファンデと口紅・・・可愛いわよ~」
取り出したのはお化粧道具だった。
三紀子に軽めの化粧を施していた。
三紀子は化粧をするのがうまれて初めてで、ちょっと嬉しそうにしていた。
「ありがとぉ~。杏子ちゃん・・・私、お化粧するの初めてぇ~」
「おぅ!似合ってるぜ・・・じゃあ、早速行こうか~・・・まずは、三紀子の行きたがっていた画材屋さんからだ。俺もその店はよく使うから知ってるぜ。もしかして蜂合わせてたりしてな・・・あはは」
相変わらず蓮司は無口で一番後ろから着いてきていた。
何気に、杏子の荷物を持ってやっていた。
無口だけど、気の利くやつでみんなの相談役にもなっている。
歩くこと30分・・・ちょっとした電気街についた。
秋葉の小さいバージョンという感じでトレーディングカードやパソコンに同人誌なんかも売ってる。
がちゃがちゃ専門店なんかもあったりタピオカにクレープ屋さんやメイド喫茶なんかもある。
ここは三紀子も隆司も良くいくところだ。
同人誌の売っているビルは5階建てで5階にはコスプレやウィッグなんかも売ってる。
と、そうこう眺めているうちに画材屋さんが見えてきた。
ここも数階あってフィギュアを作る粘土なんかも売ってたりする。
「よーし、早速、画材屋さんに行くか~。俺も色紙とGペン買わないとな。スクリーントーンもついでに買うか~」
と、三紀子は目の色が変わっていた。
無理もない。ここにはBL本の中古の同人誌やホモゲーなんかも売っている。
三紀子は必死に我慢している様子がうかがえる。
隆司は、そんな三紀子に耳打ちした。
「おまえ・・・ホモゲー欲しいんだろ?・・・って、よだれ垂れてるぞ・・・・」
「えっ!えぇ~~~・・・やだぁ~、みんなには内緒だよぉ~」
みんなでお店に入り、エスカレーターに乗ると、同人コーナーを三紀子は、ジーっと眺めていた。
5階に着くと数々の画材が売られている。
油絵具やらイーゼルなんかも取り揃えて、プロも御用達のお店だ。
「おし、Gペンから買うかな~。細めなのがもうないんだよな~・・・念のため、全種類買っておくかな。ライターは100均だな」
と、杏子が不思議そうに聞いてきた。
「え?ライターってなんか関係あるの?もしかしてタバコ??」
「いや、違うって・・・新品のGペンには油が乗ってるから使う前にライターで少しあぶるんだよ。な、三紀子」
「あ、うん・・・そうなのよ。ライターで焼かないとインクがうまく使かないのよぉ~・・・私も全部買っておこうかなぁ~」
杏子は知らない世界だから物珍しそうに色々見ている。
「そのGペンってペン先だけ売っているのね~」
「そうよ、杏子ちゃん。ペン先は使い捨てだから一袋に何個も入っているでしょ?」
杏子は万年室の先っちょと勘違いしているのだろう。
「このシールみたいなのは何?」
とスクリーントーンを持って隆司に見せてきた。
「漫画描く時とかなんかに効果としてよく使うんだよ。デザインナイフって言ってな。メスみたいなカッターで切って使うんだよ。種類も沢山あるんだぞ。三紀子は手描きだから、俺よりも持ってるんじゃないかな」
「私はいつも手描きだからたくさん持ってるんだよぉ~。隆司くんはあんまり持ってないの?」
「あぁ、おれはパソコンに取り込むからな。フォトショのオプション使ってるよ。おまえの原稿もフォトショで作ってやるよ」
と、なんだかんだ説明しながら買い物をしていると、いつの間にか1時間半ほど経っていた。
隆司と三紀子は買い物を済ませると、次なる場所へと向かった。
次は杏子の行きたがっていた店だ。
この電気街よりも少し離れた場所にある。
「あ、ここ、ここ。新しいの買おうかと思っててね~」
そのお店は水着専門店だった。
杏子は毎年、水着を買い替えている。
「おぉ、水着か~。杏子は毎年違う水着来てるもんな~。三紀子も買ってみたらどうだ?」
「そうよ!三紀子のも私が見立ててあげるよ~。スタイルいいから何着ても似合いそう」
「えぇ~!私は泳げないからぁ~」
三紀子は頭を抱えて困り顔をしている。
それでも杏子は勧めていて、三紀子の身体に色々な水着をあてがっている。
杏子は黒のビキニを手に取って、それに決めていた。
横が紐で縛ってある少し大胆な水着だ。
「うん・・・これなんか良さそう~。ビキニの水色!絶対に似合うわ。私がおごってあげるからさ」
「杏子ちゃんってばぁ~・・・悪いよぉ~」
無理やり試着室へ連れて行って杏子も一緒に試着室に入っていった。
「杏子ちゃん・・・自分で着れるから・・・あっ、そんなとこ触っちゃダメだよぉ~」
中からは杏子の笑い声と三紀子の困り声でいっぱいだ。
「うん・・・やっぱ似合うよ~」
「こんなの、はずかしいよぉ~」
試着を終えると杏子は気にせずに自分の水着と一緒にお会計に行ってしまった。
隆司は美咲に色々な水着をあてがって満喫している。
「可愛い美咲には、これを買ってあげよう!」
「おにいちゃんってば~・・・う~ん・・・」
隆司も後に続いて美咲の水着を買いに行ってしまった。
蓮司は、こういう女性向きのお店は苦手だから外で待っていた。
「おぅ、蓮司、おまたせ・・・蓮司の行きたい店ってどこだっけ?」
「あぁ、俺は新しい竹刀と木刀だよ。折れちまってな」
蓮司は部活だけは真面目だった。
対抗試合で負けたのを見たことがないくらい強い。
後輩のしごき方も厳しくて有名だ。
「場所は知らんから蓮司が案内頼むわ~」
「ああ、分かった。おまえも剣道部に入ればいいのによ。中学時代は同じだったろうが」
「生徒会長だから無理だな・・・職権乱用で漫研でも作るか~」
隆司の県道の腕前は、蓮司にも引けを取らないくらいだったので、蓮司は少しがっかりしていた。
と、そこで杏子が声を上げた。
「あっ!公園があるじゃん。そろそろお弁当にしない?なんかよさ気な公園だしさ~」
指をさした先の公園を見ると、池があって、良い感じの広さだった。
バスケが出来る場所もあり、テニスコートもあり、大きな公園だった。
適当な場所を見つけると、杏子は大きめのレジャーシートを広げてお弁当箱を数個並べ始めた。
「できた~。隆司の大好物のミックスベジタブルを混ぜた卵焼きもあるわよ~。それから、蓮司の好物のお好み焼きと美咲ちゃんの大好きなペペロンチーノにミネストローネ。それから、三紀子が前に好物って言ってた小籠包にチャーハン。あと、みんなが美味しいって言ってくれたゴボウとアスパラの肉巻きでしょ、それから、おにぎりも沢山持ってきたんだよ~。食べて食べて~」
「こりゃまた豪勢だな~。こんなに大変だったんじゃないか?」
と、隆司はずらりと並べられたお弁当にびっくりしていた。
「いや~、張り切っちゃって、いっぱい作ってきたの」
みんなで杏子の手料理を美味しく食べながら雑談をしていた。
そして、食べ終わると、またバッグから何かを取り出した。
「これは、デザートのプリン!それと、今日は紅茶をいれてきたのよ~。マリアージュフレールっていうの」
杏子は紅茶も多種多様と茶葉を持っている。
三紀子はどちらかと言えば紅茶派らしい。
「杏子ちゃん・・・それって、すごく高級な茶ばよねぇ~?確か・・・パリの超茶だったような~」
「おぉ~!よくわかったわね~。本当は入れたてが一番おいしんだけど、流石に道具までは持ってこれなかったわ~」
三紀子以外、誰も知らない名前の紅茶にびっくりしていた。
「いい香りがしますね~。杏子先輩・・・って、おいしい~!」
みんなも初めて飲む紅茶に驚いていた。
隆司がスマホで調べてみると無茶苦茶高い茶葉だった。
「たっけぇ~な!この茶葉・・・俺なんかスーパーで売ってるオレンジペコかダージリンしか知らんぞ」
すっかりお茶会になっていた。
三紀子はプリンを手に取り、一口食べると驚いていた。
「んんっ!杏子ちゃん・・・すっごい濃厚なプリンだねぇ~。ほっぺがとろけ落ちそう~」
みんなも本格的すぎる紅茶にプリンに驚いていた。
褒めちぎられた杏子は照れ笑いをしながら、プリンと紅茶をたしなんでいた。
「いや~、食った食った。美味かったぞ杏子~」
「うんうん、ほんとに美味しかったわぁ~。杏子ちゃん」
隆司と三紀子に続いて、他のみんなも同時に美味しかったと杏子に言っていた。
三紀子も美咲も、「今度、料理を教えてね」とお願いしていた。
「最後は、美咲ちゃんの番ね~。一体どこへ行くの?」
「あっ、はい。今度の読モの応募用の写真撮影ですよ~。衣装も持ってきました。スタジオは15時から予約を入れてあります~」
杏子は間食された弁当箱なんかを片付けながら美咲に色々なことを聞いていた。
隆司と美咲は次なる計画の話し合いをこっそりと話し合っていた。
「写真を取ってくれるお友達とはスタジオで待ち合わせをしているんですよ~」
「スタジオだなんて、本格的なんだね~。どんな感じのスタジオなの??」
杏子は、より興味津々に美咲に聞いていた。
美咲は、杏子に毎回の撮影のことを色々と話していた。
「スタジオを借りるのは、今回が初めてなんですよ~。お化粧室なんかもあるんですよ。メイク道具も貸してくれるんです。ファンデーションや口紅、それにアイラインとかたくさんあるんです。でもスタジオは高いから、いつもは別の場所で撮影してるんですよ~」
「へぇ~、そうなんだ~。なんか、わくわくしてきちゃった~」
美咲に場所を聞くと案外近くにあるらしい。
荷物をまとめると、早速、スタジオへ向かうことになった。
公園から歩いてすぐのところにバス停があって、そのバスに乗って一つ行ったところの近くにあるとのことだった。
そして、バスを降りてしばらく歩くと美咲が手を振って大声を上げた。
「あっ!美優ちゃーん!おまたせ~。待たせちゃったかな~?」
美咲が小走りで同級生のところに向かった。
どうやら、その美優という子がカメラ好きでいつも撮ってもらっているらしい。
「美咲・・・そちらの方々は??」
大勢で押しかけた形になり、美咲はみんなの自己紹介をしていた。
「初めまして、みなさん、今日はよろしくお願いします・・・美咲、今日の撮影は二人だったっけ?」
美優のその問いに隆司と美咲以外は不思議がっていた。
そこで、隆司が杏子の背中に手をまわして、美優の前に押した。
「おぅ、もう一人は・・・知ってると思うが生徒会の副会長の杏子だ。よろしく頼むよ」
「えっ?えぇ~~~!!わたし?聞いてないわよ~」
杏子はかなり動揺していたが、それをよそに美咲が杏子の手を引いて、美咲と美優が入っていくビルの中へ連れていかれた。
そして、隆司たちも続けてビルに入って、みんなでエレベーターでスタジオの中に入っていった。
自動ドアが開くとみんな入っていき、中にはコスプレイヤーさんが数人いた。
「おぉ~!あのレイヤーさんの衣装ってあのアニメのやつか~・・・あっちはあの魔法少女のアニメのやつか~」
隆司と三紀子は有名なアニメのコスプレ衣装を着た女性にくぎ付けだった。
隆司と三紀子の共通点はアニメでもある。
男装コスをしている人もいて、その衣装は三紀子がBL化したアニメの主人公だった。
「うわぁ~・・・あの男装コスの子、今日持ってきた原稿にも入ってるアニメのだぁ~・・・えへ・・・えへへ」
「おぃ!変な想像して変な笑い方すんなってば」
隆司は三紀子の頭を軽く叩き、三紀子が我に返った。
そして、杏子はというと、美咲に連れられてメイク室に入ると杏子がかなりの化粧品の多さに驚いていた。
「すっごーい!美咲ちゃん、これって使い放題なの?あっ!あの人はプロのメイクさんかな?凄いメイクのテクニック・・・色んな人がいるのね~。アニメのコスプレイヤーさんに、読モの人もいるのかな?」
「このスタジオには読モさんもいっぱい利用しているんですよ~・・・そして、これが杏子先輩の衣装なのです~」
美咲が見せてきた衣装に杏子が困り顔になった。
「えっえっ!私もやるの?無理むり~。私、写真で撮られると意識しちゃって表情が硬くなっちゃうから~。それに、こんな可愛いいしょうなんて似合わないわよ~」
「あら、あなた・・・可愛いわね」
そこへ30代くらいの女性が杏子に声をかけてきた。
その女性は品定めをするように杏子の全身を見回していた。
それに気づいた杏子は恥ずかしそうに青を赤らめていた。
「あっ、どうも、こんにちわ。こちらは学校の先輩なんです」
どうやら美咲の知り合いらしい。
杏子は、美咲に耳打ちして「この人は誰なの?」と聞いていた。
「杏子先輩、こちらは・・・えっと、あの有名なファッション誌の編集さんなんです。杏子先輩も読んでるあの雑誌の」
「えぇ~~~!!うっそ~・・・あっ!初めまして、毎月楽しみに読ませてもらっています」
杏子はほぼ棒読み状態で挨拶すると編集さんは、杏子の固まった様子に少し笑いながら名刺を差し出してきた。
杏子が名刺を受け取って、まじまじと見ると編集長という肩書に更に固まってしまった。
「こちらが美咲ちゃんの学校の先輩なんですね・・・聞いていた通り可愛いわね~。うちの雑誌に応募するのかな?」
「あっ、はい・・・内緒で連れてきちゃいました。先輩は恥ずかしがり屋さんなので言っちゃうと絶対に来ないんですよ」
固まっている杏子を隆司が見ていて、にやりと笑って「杏子、がんばれな~」と声をかけて杏子の反応を楽しんでいた。
一方、三紀子は例の男装コスの女性を見ていて、なにやら想像しているのか変態めいたにやけ顔をしている。
蓮司は女性だらけの場所が苦手なので壁際でスマホを見ている。
「ねぇ、ちょっと来てくれるかしら。この子にメイクしてあげてくれるかしら」
と、編集長さんが一人の女性に声をかけていた。
どうやらメイクのプロの人らしい。
杏子は、その人に、ほぼ強引にメイクルームに連れられて椅子に座らせていた。
この状況に、杏子は固まりっぱなしで声すら出ないほどだった。
ほぼマネキン状態で化粧を落とされて新たにメイクをされている。
「おにいちゃん、わたしもお化粧して着替えてくるね。ここからは女の子の時間なんだから声かけちゃダメだよ~」
と、美咲もメイクルームへと向かい、隆司は美咲の友達に話しかけられてカメラを手渡した。
「三紀子、俺たちはレイヤーさんでも見て創作意欲でも沸かせるか~・・・って、おぃ!」
とろけまくった表情の三紀子に隆司は声をかけると、三紀子は我に返った。
「三紀子、俺たちは生のレイヤーさんを見ながら下絵でも描こうぜ~」
「あっ!うんうん、そうだね~・・・って、私、スケッチブックなんて持ってきてないよぉ~・・・ぐすん」
隆司はかばんを漁るともう一冊スケッチブックを取り出して、鉛筆と一緒に三紀子に手渡した。
邪魔にならないように壁際に移動すると床に座って二人でイラストを描き始めた。
「絵を描く時は鉛筆一択だよな~。シャーペンで描くとタッチが変わるから描きにくいんだよな~。三紀子もそう思うだろ?」
「うんうん、シャーペンだと私も無理~。鉛筆に限るよね~。このままGペンで描き上げたい気分だよぉ~」
と、隆司と三紀子がイラストを描いていると、数人のレイヤーさんが二人に近づいてきた。
「あなたたちは絵描きなんですか?良かったら一枚描いて頂けると嬉しいんですけれども・・・」
「私もお願いしたいです!」
声をかけてきたレイヤーさんに驚いて、三紀子と目を合わせると、気持ちよく返事をして描くことになった。
隆司は色紙を取り出して、三紀子にも色紙を渡してポーズをお願いして二人は下絵を描き始めた。
レイヤーさんは普段のコスプレ会場の撮影とかで慣れているのかポーズをずっと維持している。
30分ほどで数人を描き上げると、レイヤーさんに声をかけて「あとで渡すから待っててください」と隆司は言うと、レイヤーさん達は喜びながら撮影に戻っていった。
「よし!三紀子、さっき買ったGペンで色なしだけど、仕上げようぜ。インクも買ったから三紀子に貸してやるよ」
ふと三紀子の絵を見ると、真面目に描いていた。
画力はかなりのものだ。
「ふぅ~・・・できたあぁ~。隆司君はどう?」
「おぅ、俺も今出来たところだ。インクが乾いたら下絵を消しゴムで消しておしまいだ。杏子たちの方はどうなってるんだろうな?」
ふと三紀子に話して、足りあがり、美咲たちの方に向かって様子を見に行ってみた。
杏子は微動だにせずにメイクを受けていて、美咲は自分でメイクをしている。
その様子を編集長さんが眺めていた。
メイクが終わると、美咲は杏子に衣装を広げて見せた。
「えぇぇぇ~!こんな可愛い衣装なんて私にはわよ~」
「まあまあ。そう言わずに、着替えに行きましょ」
美咲は杏子の手を引いて試着室へと向かった。
杏子は心を決めたのか、もしくは断れない状況だからなのか、しぶしぶ試着室に入っていった。
美咲が先に試着室から出てきて、杏子に声をかけていた。
「杏子先輩、サイズはどうですか~?」
「あ、うん・・・大丈夫なのは大丈夫なんだけど・・・恥ずかしいな~」
試着室のカーテンが開かれて杏子が出てきた。
メイクのせいもあってか大人びて見える。
元より、こういうのは苦手であり、初めてのことに表情はガチガチだった。
中学の卒業写真ですらガチガチの表情だったのを隆司は思い出した。
「杏子先輩、最初は私から撮りますから座って待っててくださいね~」
美咲がそう言うとスタジオの舞台に上がると同級生の美優がカメラを構えてパシャ・パシャっと取り始めた。
このスタジオはレフ版を持ってくれるスタッフさんもいて、一緒に付き合ってくれている。
美咲は色々なポーズでかなりの枚数を撮っている。
「おいおい、美咲。まだ撮るのか?」
隆司はそう聞くと「うん、まだ撮るよ~。折角のスタジオだから」と答えてきた。
軽く40枚以上は撮っていた。
撮影が終わると、美咲は舞台から降りてきて隆司がそばに寄ってきた。
「わが可愛い妹の姿を、おにいちゃんと一緒に撮ろう~」
「ま~た、そんなこと言って~・・・もう、しょうがないんだから~。1枚だけだよ~」
美咲は美優に頼んで撮ってもらうことになった。
隆司は美咲の腰に手をまわして、抱き着く感じで1枚だけパシャっと撮ってもらって満足顔になっていた。
さて、次は本日のメインの杏子の番だった。
「えっ?私もここに上がって撮るの?恥ずかしいよ~」
美咲は強引に杏子の背中を押して舞台に上げた。
美優がポーズを指定すると「こ、こうかな~?」と答えてポーズだけはとるが表情はガチガチだ。
「あはは・・・杏子、表情がガチガチだぞ~。それじゃあ、明日は顔面筋肉痛になっちゃうぞ~」
隆司がちゃかすと、杏子は顔を赤らめていた。
ガチガチのまま撮影は続いていくと、20枚当たり撮ったくらいからは表情がだんだんと和らいできていい感じになってきていた。
「おぉ~・・・さすがわ学内で告白されまくっているだけはあるな~」
自然な表情になってきている杏子に隆司も驚いていた。
表情プラスメイクさんの本格的なメイクも相まって、かなりのものだと感じた。
美咲もかなり驚いていて、もしかしたらって思い始めていた。
撮影した枚数は美咲と同じくらいで撮影を終えると杏子は舞台から降りてきて、ほっと一安心といった顔になっていた。
「杏子先輩、お疲れ様です~。流石ですね~、映える写真がたくさん撮れたと思いますよ~」
「えっえっ?人生で一番恥ずかしかったわよ~。もうこれっきりよ~」
そこで隆司も一言言ってきた。
「今日のメインは、おまえだったんだよ。最初に言ってたら絶対に来なかったろ?」
「そりゃそうよ~。聴いてないもん。でも、みんなと遊んでお買い物に行って、お弁当食べたりして楽しかったわね~」
スタジオに入って2時間くらい経過していた。
美咲と杏子は着替えとメイクを落とすために美咲に案内されていった。
始めてみる表情の杏子に三紀子も驚いていた。
「おっ・・・そうそう、色紙の下絵を消しゴムで消して、さっきのレイヤーさんに渡してくるか」
「そうだねぇ~、喜んでくれるかなぁ~」
二人は話しながら鉛筆の下書きを消して色紙をレイヤーさんに渡しに行った。
レイヤーさんはそれを見て感激して飛び跳ねていた。
「お二人はプロの漫画家さんか何かなんですか?素人には見えませんよ~」
「いや、俺たちは趣味だ。プロではないよ。まあ、喜んでくれたのなら描いた甲斐もあったってもんだな。なぁ、三紀子」
「あっ、うん。色がなくってごめんなさいねぇ~」
隆司と三紀子は色紙を手渡して、かなり喜ばれていた。
そのレイヤーさんは色紙を手にしてスマホで写真を撮って自分のXの垢にアップしていた。
ちょこっと覗き見すると、ものすごいフォロワーの数だった。
「おっ?もうこんな時間か~。1日って早いよな~。蓮司、寝てるし・・・起こして帰るか~」
メイクを落として着替えも済ませた二人もいて、隆司は蓮司の肩を揺らして起こして「終わったぞ」と一言言うとあくびをして立ち上がった。
「蓮司には退屈な場所だったか。すまんな付き合わせて」
「いや、それなりに楽しかったから構わんぞ」
みんなはスタジオから出て美優は借りた一眼レフからメモリーを抜き取ると、先に走って帰って行った。
なんでも、家が少し遠いらしくて門限もあるらしい。
「う~ん・・・今日は1日楽しかったな~。こうしてみんなで色んな店を回ったりするのも楽しいもんだな~」
「私も初めてだったから、とっても楽しかったよぉ~」
三紀子も満足げにしていた。
バスに乗り、いつもの通学路の待ち合わせ場所で別れる手はずにしている。
その間は会話は絶えずに帰り道も楽しんでいた。
そして、いつもの場所にたどり着くと、みんな解散していった。
「よし、美咲。俺たちも帰るぞ~。手でもつないで帰るか?あはは」
「ま~た、おにいちゃんってば~」
隆司たちは家に着くと、すでに夕食の用意がされていて、家族全員揃ったところでみんなで夕食を済ませると、隆司は自分の部屋へ戻ると、三紀子から預かった原告に目を通していた。
「げっ・・・あいつ、こんなのばっか描いてるのか・・・変態すぎるぞ、これ・・・」
隆司は自分の原稿は後回しにして、三紀子の原稿をすべてパソコンに取り込んで作業を始めた。
かなりの枚数があり、終わるころにはすでに朝の5時になっていた。
「やっと終わったか~。全部プリントして持って行ってやるかな」
隆司はすべてCG化して印刷会社に出す原稿をすべて印刷していた。
「さてと、美咲が起こしに来るまで仮眠でも取るか~」
隆司は制服に着替えてからベッドに横たわって仮眠を取った。
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