第3話 ヲタク仲間~深夜販売にて・・・~

ジリリリリリリリー


「んーーー。目覚まし時計か。6時半か~。起きるか~」


ガチャ・・・

部屋のドアが開いた。

いつものごとく美咲が起こしに来たのだ。


「あれ?おにいちゃん、今日は起きるのが早いんだね。どしたの?」


「まあ、たまには早起きも良いかなってな。今日もかわいいな、妹よ」


「まーた、そんなこと言って~。今日はシーツ洗う日だから布団どかすね」


そう、今日はシーツの交換の日なのだ。

ベッドの下には大量の妹もののエロ本と同人誌の山だ。

それを見られては困るので隆司は早起きをしたのだ。


「おぅ、いつも悪いな~・・・今日はピンクか~。ええのぅ」


と、心の中で呟きながら隆司は制服に着替えをしはじめた。

朝食までの時間は少しあるので、隆司は昨日書き忘れた同人誌の続きの下絵を書きはじめた。


「よし、昨日、杏子にコーヒーかけられた現行の手直し完了っと。そうだ、今日はチョコでも持って行ってやるか。いつも杏子がお菓子を作ってきてくれるお返し替わりってとこだな。冷蔵庫に入れてあるから後で持っていくか」


「杏子先輩のお菓子はいつも美味しいもんね。私もお礼したいんだけど、渡すものがないんだよね~。って、そろそろ朝食だよ、おにいちゃん」


隆司は美咲と揃って食卓へ向かい家族で朝食をとった。

食事の時はいつもテレビを消すのが我が家の風習だ。


「ごちそうさまでした・・・美咲、そろそろ学校に行こうか」


「あ、うん。お父さん、お母さん、いってきます」


二人はいつもの通学路で肩を並べて登校していると、いつものごとく杏子がいた。


「よぉ、杏子・・・って、お前頭切ったのか?」


「おはよー・・・って頭じゃなくて髪ね、髪。んー、ロングも飽きたしね~。前からやってみたかったのよ。前下がりボブってやつ。どうかしら?」


「おー、なかなか似合ってると思うぞ。髪の色も青じゃなくて赤にしてみたらどうだ?」


杏子は髪を触りながら、少し考え顔をしていた。

美咲からも褒められて、少し照れ気味だった。

すると、もう一人、杏子の後ろにいた。


「あれ?三紀子じゃんか。一緒だったんだな。おはよー。蓮司もおはよー」


「蓮司君、おはよう、美咲ちゃんもおはよう。えっとね、杏子ちゃんと昨日待ち合わせ場所を決めて一緒に登校することになったの」


新しく無理やり生徒会に入れた三紀子も登下校を一緒にすることになった。

当然、昼も夕方も生徒会室に集まるように隆司が伝えている。

それは三紀子にとっても嬉しいことだと言っていた。

隆司が三紀子に耳打ちしてあるものを渡した。


「ほら、これこれ。お前の気に入りそうな同人誌を手に入れたぞ?ありがたく受け取りたまえ」


三紀子はそれを見るなりサッとカバンの中にしまい込んだ。

それは紛れもない超人気アニメのBL本だった。

三紀子の趣味はアニメの収集とBL本収集。


「ん?校門に先生が立ってるな。抜き打ちか?」


「たまーにやるのよね。スカートを短くする生徒や持ち込んじゃいけない物を持ち込む生徒が多いからね~」


と、杏子が言うと三紀子が隆司に耳打ちしてきた。


「ねぇねぇ、隆司君。さっきの本・・・見られたらどうしよう?」


「大丈夫だよ。俺に任せとけって」


校門の前に着くと教育指導の先生に呼び止められた。

全校生徒を取り締まっているのだから生徒会と言えども当然呼び止められる。


「おはよう。今日は抜き打ちの日だ。んー、身だしなみは問題ないな。さて、カバンの中を見せてもらおうか」


「あー、先生。おはようございます。今朝は急なことで生徒会室に至急集まって話し合いがあるので急いでいるんですが。持ち物検査はちょっと時間かかるから、今日のところはパスしてもらえませんか?」


「そこの生徒は初めて見るが生徒会なのか?」


と、先生が三紀子を指さして目を光らせていた。

隆司は三紀子の前に立って姿勢を正した。


「はい、昨日から生徒会の書記として許可を頂きました。大事な規則を守る新しい書類がカバンに入っているんですよ」


「んー、そういうことなら仕方ないな。朝のホームルームまでには教室に戻るようにするんだぞ。では行っていいぞ」


うまくすり抜けることに成功した。

それも隆司と杏子がいるからに他ならない。

二人は学内で成績がトップクラスで、この学校では知らない生徒はいないくらいの有名人だ。


「有難うございます。では、急ぎますので失礼します」


隆司たちはササっと走り抜けていった。

そして三紀子に耳打ちした。


「な、言ったとおりだろ?生徒会長の名は伊達じゃないのだ~」


「ありがとう、隆司君。実は・・・他にも持ってきているのよ・・・」


歩きながら、それは生徒会室においておけと三紀子に伝えると、下駄箱で靴を履き替えると美咲が1年の教室へ小走りで向かった。

今日は美咲は日直らしいので、他の生徒よりも早くいかなければならない。

隆司たちは一度生徒会室へ向かい、三紀子はBL本を隠して、隆司も。同人を隠していた。

杏子はいつものことで慣れているので突っ込みはいれなくなっている。


「ねぇ、早くしないとホームルームに遅れるわよ」


杏子からせかされるように手を握られ無理やり連れて行こうとしていた。

三紀子も急いで生徒会室を出た。


「おぅ、おまたせ。行こうぜ。蓮司、杏子、三紀子」


みんな同じクラスなのでA組に着くとそれぞれが席に着いた。

暫くすると先生が入ってきてホームルームが始まった。

隆司は相変わらず、同人誌をこっそりと書いている。

ホームルームが終わると休憩時間となり、みんなが騒ぎ出している。

隆司は、そーっと三紀子の後ろに行くと。


「えへ・・・えへへえへ・・・やだ~、そんなことしちゃって、もう~」


「わっ!おまえ、きしょく悪い笑い方してBL本読んでるなよ・・・ぷっ」


「きゃっ!なんだ~・・・隆司君か~・・・びっくりさせないでよ~」


と、そこへ杏子も寄ってきた。


「え、なになに。二人して何話してるの?」


杏子は興味津々に身を乗り出して話しかけてきた。

三紀子はすかさず本を隠して苦笑いをしている。


「杏子ちゃん、なんでもないのよ~。隆司君が後ろから驚かせてきただけなの~」


「な~んだ、いつもの隆司の悪ふざけか~。そうそう、三紀子は初めてだろうけど、お昼と午後の授業が終わったら必ず生徒会室へ来てねっていうか一緒に行こうか。私ね、いつもお菓子作ってきてるの。三紀子にも食べてもらいたいな」


「そうなんだ~。杏子ちゃんは綺麗だし勉強もできるしお菓子とかも作れるんだ?私は料理は苦手~。だからお昼はいつも学食のパンなの。よかったらお菓子作りとか教えてね」


ここでチャイムが鳴り、みんなが席について午前中の授業が始まった。

杏子はいつも真面目に授業を受け、蓮司はいつも通りにぼーっと外を眺めている。



「う~ん・・・やっと昼か~。ちょっと用事あるからみんなは先に生徒会室に行っててくれ」


「え?あ、うん、じゃあ、三紀子、一緒に行こうか~」


「杏子ちゃん、うん。あ、でも学食でパン買わなくっちゃ・・・」


三紀子はそう言うと、杏子が半分あげると申し出て、三紀子はそれに甘えさせてもらうことにして一緒に生徒会室へと向かうことになった。

蓮司は一度、部室に行ってから生徒会室に行くと言って教室を出ていった。

杏子と三紀子が生徒会室に着くと先に美咲がいて書記の仕事をしていた。


「美咲ちゃん、もう来てたんだね~。ほら、三紀子の席は私の隣。座ってちょうだい、今お弁当を用意するね」


三紀子はかばんをおいて、席に座った。

杏子はお弁当を出して、三紀子に割りばしを渡すと。


「ほら、三紀子、遠慮なく食べて~。私はダイエット中だから少ししか食べないから」


「わ~、美味しそう~。キャラ弁なんだね~。それじゃあ、いただきます。ん!美味しい~。この卵焼きなんか絶品だよ~」


「えへへ、ありがと。じゃあ、私もいただきまーす」


走る足音が聞こえると隆司が生徒会室に入ってきた。


「あ、隆司、遅かったじゃない・・・ってその荷物は何?なんか重そうだけど」


「んー、ちょっとな。三紀子にプレゼントだ。組み立て式の本棚だよ。杏子も三紀子の趣味は知ってるだろ?」


「あ、隆司君、ありがと~。でも本棚に置いたら先生に見られたりしない?」


三紀子は心配そうに言うと、隆司は図書室で廃棄する本の表紙だけを大量に持ってきていたのを三紀子に見せてすり替えるように言った。

少し遅れて、やっと蓮司も顔を出した。


「ほら、隆司の分のパンだ。今日はおごってやるよ」


「おぅ、悪いな、蓮司。杏子は今日はキャラ弁か~。わが愛しの妹様は・・・なにやってんだ?」


「あ、おにいちゃん。ちょっと書記の仕事が遅れちゃったから、済ませてるの。私もご飯食べようかな」


美咲はおふくろが作った弁当を広げて食べ始めた。

隆司は弁当は荷物になるから、いつも拒否している。なのでいつも学食のパンだ。

隆司は蓮司が買ってきてくれたパンを食べながら、いつものごとく同人誌を書きはじめた。

そして、みんなが食事を終えると、いつものように杏子がコーヒーを淹れて、手作りのお菓子を広げた。


「お、今日はカップケーキか。うまそうだな~。そうだ、これ持ってきたからみんなで食ってくれ。今年のバレンタインでもらったチョコのあまりだ。食べきれないんだよな。毎回」


「ちょっと、これ・・・すごく手の込んだチョコがあるけど、本命なんじゃないの?ちゃんとお返しはしたの?」


「んー、本命なのかは知らんし、毎回、お返しはしないのは知ってるだろ。だから遠慮するな。それに、おまえだって毎回告られて振ってるだろうが」


みんなにコーヒーを渡しながら隆司に言うと、返す言葉もない杏子だった。

三紀子にもコーヒーを渡してみんなでおやつタイムが始まった。


「三紀子はコーヒーは砂糖とか入れる?カップケーキも食べて~。アーモンドスライスとチョコチップとか色んなのあるよ」


「うん、わたしはブラックで平気・・・ってカップケーキ、とっても美味しいよ~。それにコーヒーも本格的なんだね~」


三紀子は今までに見たことのない笑顔で美味しそうに食べていた。

時に隆司はというと・・・


「うっし、できた~!おぅ、三紀子、本棚が出来たぞ~。おまえのコレクションの保管に使ってくれ」


「わぁ~、ありがと~、隆司君。大切に使わせてもらうわ」


と言いながらカバンから数々のBL本の山が本棚をびっしりと埋めていた。


「おまえのカバンはドラえもんのポケットか!ってノートPCまで持ち込んでるんかぃ!」


三紀子はBL本の山とノートPCなどを一瞬にしていっぱいに埋め尽くした。

杏子もさすがに驚きを隠せず、かなりひいていた。


「ここならゲームもできるかなぁ~って思って持ってきちゃった。えへ、えへへ」


「いや、さすがの俺でもここでゲームはしねぇーぞ・・・って、そのノートPCの中身は何が保存されてるんだ?」


「んーーー、BLゲーでしょ、BLゲーでしょ、BLゲー!」


「って3連発するな!って、おまえも確か同人誌書いてたよな?」


三紀子はこくりと返事をして、しれーっと杏子にも本を勧めていた。


「杏子ちゃんも読んでみる?バっ!」


マッチョのBL本の中身を杏子に見せた。


「ぶーーーーー!って三紀子」


「うわぁーーーー!やだぁ~、顔にコーヒーかけないでよ~」


あられもない部分を見せられて杏子は思わずコーヒーを三紀子の顔に吹きかけてしまった。

三紀子はハンカチで顔を拭きながら本を本棚に戻した。


「やばっ!おい、そろそろ午後の授業が始まっちまうぜ。急いで教室に戻らないと」


杏子は急いでコーヒーカップなどを片付けて、夢中で書記の仕事をしている美咲にも声をかけていた。

美咲は今日は日直なので、そのままにして「また夕方に~」と言って走り去っていった。

隆司も書きかけの同人誌を引き出しにしまうと、みんなに出るように合図した。

そして、みんな教室に着くと黒板を見た。

黒板には実習の一文字が書かれていた。

机には数学と英語のテスト用紙が置かれていた。

隆司は、それを10分で答えを記入すると生徒会室にしまっておいた書きかけの同人誌をダッシュで取りに行って続きを書きはじめた。

例年通り原稿は早めにオフセット印刷を申し込まなければならない。

CG集はいつも自宅のPCでCD-Rに焼いて本は印刷会社に任せている。

隆司の出品は毎回CG集と満画なのだ。


「続きを書く前に・・・おい、三紀子。おまえも一緒のブースで夏コミに出さないか?BL本でも構わんぞ?」


「えっ?私はいつもホームページで販売してて夏コミに行ったことがなくって・・・ちょっと恥ずかしいなぁ~」


もじもじしながら隆司に返答していた。

それを見ていた隆司は三紀子の手を握って。


「夏コミは楽しいぞ!これぞヲタクのだいごみってやつだ」


「なになに?二人して何話してるの?」


と、そこへ杏子が歩み寄ってきた。


「ん?あぁ、三紀子も夏コミに出たらどうだって話をしていた。そーだ、杏子!おまえはコスプレして売り子やってくれ!」


「お・こ・と・わ・り!あんな恥ずかしい恰好出来るわけないでしょ~」


「おまえなら良い線行くと思うんだがな~。なぁ、三紀子もそう思うだろ?」


三紀子は杏子をジーっと見ながら答えた。


「うんうん、髪型かえて前よりも綺麗だし、杏子ちゃんもコスデビューしてみたら?」


「いや、あのね、三紀子。私はヲタクじゃないのよ~。売り子って言うかいるじゃない、もう一人。浩平君。あんたの唯一の真の顔を知るお友達が」


「んー、浩平か。あいつは夏コミは別行動なんだよ。浩平は絵も描けないし、買い専門なんだよ」


と、名前が呼ばれると、浩平が寄ってきた。


「隆司、俺に用か?夏コミの時に欲しい本があったら買ってきてやるぞ?」


「いや、おまえには用事はない!買い専門のお前が夏コミでジーっと突っ立って売り子なんかできねぇだろ?」


「そりゃそうだ。夏コミは全制覇してこそだ!それと一眼レフも持って行かないとな。レイヤーさんの写真も撮らなければならない!って、一ノ瀬さんじゃん。どしたの?こんなヲタクと話して」


浩平は三紀子の真の姿を知らない。

三紀子も浩平と話したことはないし、挨拶すらしたこともない。


「鈴原君と話すのは初めてよね。鈴原君も、その・・・夏コミに行ったりするんだ?」


「ああ、普通に行くぜ。それに夏コミだけじゃない。レイヤーさんが集まるところにはよく行くぞ。俺のXの書きこと写真は有名なんだ。フォロワー数も多いんだぞ」


「おまえ、まだテスト終わってないだろ?早くしねぇと終わっちゃうぞ?」


浩平は席に戻ってテストの続きを必死で頑張っている。

三紀子の真の姿を知られてはいけないと隆司は思って、浩平を追い返した。


「びっくりしたぁ~。私がヲタクなのバれちゃうかと思った~。ありがと、隆司君」


隆司が時計に目を向けると丁度、実習の時間が終わる手前だった。

みんなが散り散りになり席に着くと、丁度先生が教室へ入ってきてテスト用紙を後ろから回すように告げると、チャイムが鳴った。


「はい、みなさん、今日はここまでです。帰りは寄り道しないでちゃんと帰りなさいよ」


先生はテスト用紙をまとめて、黒板の文字を消すと教室を後にした。

みんなは背伸びをしたりして騒めき始めた。

そして、隆司も皆を誘って生徒会室へと向かうことになったが、蓮司は部活があるから部室へと向かっていった。


「んーーー、やっぱここが一番落ち着くな。生徒会長の席は誰にも譲らんぞー」


と、そこでもう一人入ってきた。


「おぉ~、愛しの妹よ。遅かったじゃないか」


「あ、うん。日直だからね~。三紀子先輩、一緒に書記の仕事を手伝ってもらえますか?」


「あ、美咲ちゃん、もちろんよ。そのための書記なんだから」


と、読もうとしてたBL本を本棚に戻して、美咲と仲良く話しながら書記としての仕事をしていた。

杏子はいつも通り、みんなにコーヒーとお菓子を配ってから席に着いた。


「ねぇ、隆司。三紀子って案外気さくなのね。眼鏡イコール真面目なんだとばかり思ってた。話も合うし登下校も楽しくなったわ」


「ああ、それな。俺も所見の頃はそう思ったよ。本性を知ったときにはビビったけどな」


三紀子は眼鏡をとるとルックスも悪くはないしスタイルもいいし成績も体育以外はそこそこ良い。


「今年も文化祭には美少女コンテストもやるだろうから三紀子も誘ってみたらどうだ?うちの可愛い妹とタメはれるような気がするがな。おまえはいつも司会だもんな」


「私はコンテストなんて興味ないの。私が興味あるのはお料理とお菓子作りにお花を育てることよ」


「まあ、生徒会のなかじゃ、杏子と蓮司くらいなもんだよな、真面目なのは。おれは自由気ままに同人誌が書けるために生徒会長になったようなもんだ!ここが一番落ち着いて同人誌書けるしな~」


杏子はため息をついて呆れ顔でコーヒーを飲んでいる。

美咲たちは楽しそうに書記の仕事を続けている。


「さてと、俺も同人誌の続きでも書くか~」


杏子だけがまじめに勉強している。

美咲と三紀子は書記の仕事を終えると仲良さげに話し込んでいる。

隆司が何やら頭を抱えているのに杏子が気づいた。


「どうしたの?隆司・・・具合悪いの?」


「んー、いや・・・今日は話がうまく書けん。こういう時に無理に書くとつまらない話になるんだよな~。今日はやめにしてCGの下絵でも描くかな・・・っていうか、杏子のこと描いてやろうか?髪型も変わった記念ってやつだ」


「んー、隆司、絵うまいし折角だしお願いしようかな~。あー、でもエッチなのはダメだからね~」


「あはは・・・真面目に描くって、んじゃあ、そこに座れよ。そそ、そんな感じの表情が良いな。そのまま動くなよ~」


隆司は何枚も白紙の色紙を持っているので1枚取り出して真剣な表情で描き始めた。


「んー、もうちょい斜め向いてくれるか?そそ、そのままな・・・」


10分ほど経つと杏子に声をかけた。


「よし、もういいぞ。ちょっと待ってろよ~。Gペンで描き上げてから色入れしてやるから・・・よし、こんなもんかな。ほら、やるよ」


「どれどれ?・・・・おぉ~、赤毛なんだね~。いい感じ。ありがと、隆司」


杏子は喜んで色紙を受け取ると大事そうに包んでからカバンにしまい込んで時計に目を向けた。


「やだ~、もうこんな時間だよ!片付けちゃうね。三紀子に美咲ちゃん、そろそろお開きだぞ~」


「あ~、もうこんな時間なんだ~。生徒会って楽しいね。誘ってくれた隆司君に感謝~。杏子ちゃん、お片付け手伝うよ~」


「ありがと、三紀子。でももう終わるから大丈夫。待っててね。今日も一緒に帰ろ?」


待ってる間に三紀子はBL本を読んでにやけていた。

こういうときの三紀子は決まって独り言を言う癖がある。


「えへ、えへへ・・・やだ~、そんなところまで~、もう、エッチなんだから~」


「おぃ・・・おまえ、はたからみてると変態に見えるぞって、実際、変態か。あははは」


「やだぁ~、隆司君、覗き見しないでよ~」


「覗き見なんかしてねぇよ。聞こえてくるんだよ。よくそれで教室のみんなにバレないな」


片づけを終えた杏子がやってきた。


「どしたの?なんか楽しそうね」


「いや、三紀子も夏コミに出ないかって話をしていたところだ。それよりも、早く帰らないと先生に怒られてしまう。俺は蓮司の部室に顔を出してから帰るから、悪いけど、少しだけ校門で待っててくれるか?」


「じゃあ、校門で待ってる。美咲ちゃんもそれでいい?」


「あ、はい。おにいちゃん、校門で待ってるね」


隆司は走って部室に行くと蓮司が後輩をしごいているのを見ていた。


「おい、そこ!隙だらけなんだよ!気合入れろ!」


「おぅ、蓮司、相変わらず厳しいな、おまえは。そうそう、みんなが校門で待ってるから早く帰ろうぜ。後輩君も可哀そうだろ」


隆司は蓮司にそう言うと「今日はここまでだ」と後輩に声をかけて更衣室へと向かった。

暫くすると蓮司が制服姿で出てきて一緒に校門へと向かった。


「おぅ、おまたせ。悪いな、待たせちゃって。帰るべ」


「よーし、愛しの妹よ、腕組んで帰るか?」


「もう、おにいちゃんてば、いつもそんなことばっかり言って~」


と、みんなで途中まで帰宅し、それぞれが分かれていった。

杏子は三紀子と一緒に、蓮司と隆司と美咲は帰る方向が少し同じなこともあって他愛もない話をしながら途中まで一緒だった。

隆司と美咲が家に着くと部屋へ戻り、着替えを済ませると、家族で夕食を食べてから順番でお風呂に入った。


「ふぅ~、今日も学校疲れたね~。同人誌しか書いてないけど・・・さてと、今日はエロゲーに集中するか~」


隆司はイヤフォンを付けて妹物のエロゲーを満喫していた。

イヤフォンをつけないとエロい声がバレてしまう。

にやけて一人ごとを言いながらプレイし、攻略ルートをノートにメモってギャラリーのフルコンプにいそしんでいた。

まるでBL本を読んでいる三紀子のようだった。


「おっと、もうこんな時間か~。そろそろ行くか~」


深夜1時、隆司はこっそりと家を抜け出すと、ある場所へと向かっていった。


「おぉ~、もう行列ができていやがる・・・って、浩平か!やっぱりおまえも来てたのか」


「そりゃ当然さ、深夜販売。目指すエロゲーはもちろん決まってる。「ご主人様のお願いはなんでも聞いちゃいます♪」これっきゃねぇだろ。隆司はやっぱり妹物か?」


「それ一択だよ。今日の深夜販売って確か3種類あったよな?妹系とメイド系とBL系だったっけ?」


「そそ、腐女子諸君はそっちに並んでるよ、ほら」


と、浩平は指をさして見せた。

女性軍はBL目当てで行列を作っている。

隆司と浩平は同じ列に並んでいて、浩平は待ちわびて背伸びをして、まだかなと列の先頭を眺めている。

隆司は妹物一択で決まっているタイトルは「妹に恋愛相談したら、恋の相手になってしまった件」これだ。

そして、ふとBLの方に目を向けると怪しげな返送をした人物を見つけた。

隆司は浩平にバレないようにBLの列の怪しげな人物に近づいて、耳に息を吹きかけた。


「きゃっ!」


声を上げられた。

まさに聞いたことのある声だ。

隆司は耳打ちをした。


「おぃ、三紀子だろ?おまえ・・・怪しすぎるぞ?つーか、そのヤバめの声にも出せんタイトルのソフト買うんかぃ!」


「うん・・・何か月も前から今日という日を待ちわびていたんだよ~。えへ・・・えへへへ」


三紀子は想像に想像を重ねて笑い声をあげている。


「その笑い方やめろって・・・変態すぎるぞ、おまえ・・・っと俺も列に戻らなきゃ。徹夜でやるんだろ?明日、感想を聞かせろよ?バレないようにな~。んじゃ」


そそくさと隆司は列へと戻り、先頭を眺めた。

浩平もまだかまだかとそわそわしている。

そして、浩平が先にモノを入手すると、隆司に合図して先に帰って行った。


「あいつも徹夜だろうな・・・っと、やっと俺の番だ。すいません、これください」


「はい、有難うございます」


三紀子はまだ並んでいる。

隆司は三紀子が買い終わるのを待つことにして、パッケージを眺めてにやけていた。


「おぅ、無事に買えたか?送って行ってやるよ。その変装だと補導されそうだしな」


「えっ?そうかなぁ~。じゃあ、途中まで送ってもらおうかな~」


三紀子はソフトを大事そうに抱えてご機嫌だった。

二人は何気ない話をしながら途中まで三紀子を送ってからダッシュで家に着くとソーっと家のドアを開けて、忍び足で部屋に戻って早速インストールを始めた。


「まだかな~・・・って結構なギガ数あるな・・・」


インストールしている間に隆司はCG集の下絵を何枚も描き上げていた。

隆司のCG集は毎回50枚くらいを描き上げている。

一休みして、インストールが終わるのを待つ間、ベッドに横になっていたら、そのまま寝てしまった。

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