第2話
それから、彼は職を探し始めた。同時に、表情は乏しくなってゆく。
夜まだ蒸し暑さの残る中、私は彼を散歩へ誘う。彼は、私の横を、無言で歩く。
「暑いね」
と、私。
「うん」
と、まっすぐ見つめたままの彼。
私達の目の前を、黒い野良猫が、走り去っていった。
私は、私の仕事に一層精を出した。今は、私が支えなければ。彼が潰れないように、私がしっかりしないと。接客、電話対応、陳列。とにかく私は、がむしゃらに、これからの不安定な行き先を掻き消さんばかりに、働いた。
日没は、早まる。彼の睡眠時間も、短くなる。仕事を、手に職を、と急ぐたび、双方は比例して短縮されていく。
不安。
活気を失い、ソファで目を伏せている彼を見るたび、胸が締め付けられた。
いよいよ夜が長くなる頃、夕食を終えた私達は、いつものようにベランダで煙草を嗜んでいた。彼はライターで、煙草に慣れた手つきで着火させる。私は、煙草スティックを、デバイスに差し込み、着火させる。
「この前、面接に行ったんだけどさ」
と、彼。フーッと、煙を燻らせる。
「ダメだったよ。おれ、仕事に就けるかな」
焦燥感と、失望。空へ昇った煙は消えた。
「大丈夫だよ。ゆっくりやっていこうね」
震えているのは、私か、デバイスか。
正直、先の見えない不安は、私も抱え始めていた。貯金や蓄えがあるとはいえど、一書店店員である、私の仕事の稼ぎだけでは、生活をし続けていくことは難しい。
それに、何より彼が、日に日に弱々しくなっている姿を見ていることが、辛いのだ。私が、何も彼のためにしてやれないことが、悔しくて、悔しくて、堪らない。
「ありがとう」
彼は、はにかみながら、小さな声で言った。
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