第7話 未来の収束、運命の終焉

フードの男の言葉が静かに響く。


「遠野空。君はこれまでに選んだすべての未来の中で、何を一番後悔している?」


空は一瞬立ち止まり、記憶を巡らせる。彼の選択によって救われた命もあれば、見捨てざるを得なかった命もある。そのすべてが、空の心に刻み込まれていた。


「後悔していないと言えば嘘になる。でも……」空は深呼吸をし、強い目でフードの男を見つめた。


「俺は過去を後悔するために選んでるんじゃない。未来を作るために選び続けてるんだ!」


フードの男はその言葉に静かに頷いた。「その信念を試させてもらおう。君の選択が、本当に未来を導く力を持っているのかを」


フードの男が手を上げると、周囲の空間が大きく歪み始めた。壁も床も消え去り、二人は無限の闇に浮かぶような異空間へと移動する。そこでは時間も空間も存在せず、過去と未来が交錯していた。


「ここは……?」空が困惑する。


「これは、君が作り出した未来の断片だ。君が選んだすべての可能性がこの空間に集まっている」


闇の中から、空がこれまで見てきたすべての未来が現れた。それは、救った人々の笑顔、失った命の悲しみ、そしてまだ見ぬ未来の断片だった。


「君がこの中から一つの未来を選び、それを収束させることで、この世界はひとつになる。だが、その選択は君自身の存在をかけたものだ」


夏油が空に近づき、低い声で言った。


「空、お前はこれまでも選び続けてきた。その力が本物なら、最後まで貫け」


空は夏油を見て頷いた。そしてフードの男を見据え、静かに言葉を発した。


「未来はひとつじゃない。でも俺が選んだ未来が、俺の真実だ!」


その言葉とともに、空は闇の中に踏み込み、無数の未来を自分の手で紡いでいく決意を固めた。


空は次々と現れる幻影と向き合った。それは彼が選ばなかった未来の後悔が具現化したものであり、どれも彼の心を揺さぶるものだった。


「お兄ちゃん、どうして私を助けなかったの?」


「あなたが選ばなければ、私たちは生きていたのに!」


空はその言葉を受け止めながらも、未来を見る力を使い、それらを乗り越えていった。


「俺は、全てを救えないかもしれない。でも俺にできるのは、今ここにある未来を選ぶことだ!」


夏油もまた、空を援護しながら闇の中で戦い続けていた。彼は空を信じ、彼の背中を守り抜くことに全力を尽くしていた。


闇の中心にたどり着くと、そこには巨大な存在が待ち受けていた。それは、空自身の力が暴走して具現化したもの――未来そのものの形を取った異形の存在だった。


「これが……俺自身の力?」


フードの男が静かに言った。「これが君の選択が生んだ結果だ。これを乗り越えられなければ、君の存在も未来も崩壊する」


空は恐れを抱きながらも、未来を直視した。「これが俺の力なら、俺自身で制御する!」


夏油が静かに空の肩に手を置いた。「行け、空。お前ならやれる」


空は頷き、最後の戦いへと突き進んだ。


空と異形の存在の戦いは激しさを増し、闇の空間が崩壊していく。その中で空は叫んだ。


「未来は一人で作るものじゃない!俺が選んだ未来は、俺の大切な人たちと共に作るんだ!」


その言葉に応じるように、彼が救った人々の声が幻影の中から響き渡る。


「空、ありがとう!」


「お兄ちゃん、大好きだよ!」


その声が力となり、空の体に宿る。そして彼はすべての力を込めて異形の存在を打ち倒した。


闇が晴れ、空は夏油と共に元の世界に戻ってきた。街には光が戻り、人々の笑顔が溢れている。


「……終わったのか?」空が呟く。


夏油は空を見つめ、静かに頷いた。「お前の選択が未来を繋いだんだ」


空は微笑みながら答えた。「これが、俺が選んだ未来だ。後悔なんてしない」


空は最後に静かに言葉を紡いだ。


「未来は選び続けることでしか作れない。俺はこれからも、何度でも選び続ける」


その言葉と共に、空と夏油は新たな旅へと歩き出した。


夜明けが訪れた。闇に包まれていた世界が光に満たされ、街に平和が戻ったことを告げている。

空と夏油は街の外れの丘に座り、遠くに広がる景色を眺めていた。風が静かに吹き抜け、草が揺れる音だけが響いている。


「……長い旅だったな」夏油が呟く。


空は小さく笑いながら答えた。「ああ。振り返る暇もないくらい、ずっと走り続けてきた気がする」


夏油が空をちらりと見て言った。「後悔はないか?」


空は空を見上げ、しばらく黙ってから言った。


「後悔がないわけじゃない。でも、それを抱えてでも進むのが俺の選択だから」


夏油は満足そうに頷き、視線を遠くに戻した。


少し離れたところから、妹の詩が二人を探している声が聞こえた。


「お兄ちゃん、夏油さん!ここにいたんだ!」


詩が駆け寄ってくる。その笑顔には、これまでの不安や悲しみが消え、未来への希望が宿っている。


「もういなくならないよね?」詩が空を見つめて尋ねた。


空は彼女の頭を優しく撫でながら答えた。「ああ、ずっと一緒にいるよ。お前が安心して笑える未来を、これからも作っていく」


詩は満面の笑みを浮かべて空に抱きついた。その姿を見ていた夏油が微かに微笑む。


詩と空が話している間、夏油は少し離れた場所で立ち上がり、丘を下る準備をしていた。その背中に気づいた空が声をかける。


「夏油さん、どこに行くんだ?」


夏油は振り返らずに言った。「お前にはもう俺はいらないだろう。この街もお前も、十分強くなった」


「そんなことない。俺にはまだ……!」


空が言いかけたところで、夏油が振り返り、静かに言った。


「お前が選び続ける限り、俺はお前の中にいる。それで十分だ」


その言葉に、空は口を閉ざしたが、やがて力強く頷いた。


「ありがとう、夏油さん。俺が迷ったときは、あんたの言葉を思い出すよ」


夏油は一瞬だけ笑みを見せると、静かに背を向けて歩き出した。その背中は、かつての孤独ではなく、新たな使命を背負ったものだった。


空と詩が丘の上から夏油の姿を見送り、再び並んで立つ。静かな時間が流れる中、空がぽつりと言葉を紡ぐ。


「未来を選ぶのは、誰かに強いられるものじゃない。自分で選ぶからこそ、その未来に意味があるんだ」


詩がその言葉を聞き、静かに頷いた。「お兄ちゃんが選ぶ未来なら、私も信じられる」


二人は手を取り合い、光に包まれる街の方へと歩き出した。


数日後、空は詩と共に新たな街へ向けて旅を始めていた。その途中、ふと立ち止まり、空を見上げた。


「夏油さん、どこかで見てるんだろうな」


詩が不思議そうに尋ねる。「夏油さん、もう会えないの?」


空は少し考えてから微笑んだ。


「会えないわけじゃないさ。ただ、今は俺たちが進む番だ。それだけだよ」


二人の背中が遠ざかる中、空には確かな決意が宿っていた。それは、これまでの旅の中で得た覚悟と共に、新たな未来を紡ぐ力そのものだった。


空と詩は新たな街へと向かう途中、大きな駅のある都会の街を通り抜けていた。

人混みの中、詩が目を輝かせながら周囲を見回す。


「すごいね!こんなに人がたくさんいるの、久しぶり!」


空は少し疲れた表情を見せながらも、微笑んで答えた。「都会ってこんなもんだよ。気をつけろよ、迷子になるなよ」


詩が元気よく頷き、空の手を握りしめた。「迷子にならないよ。お兄ちゃんがいるもん!」


その言葉に空は小さく笑いながら、雑踏の中を進んでいく。


駅の近くで、空はふと足を止めた。人混みの中に、圧倒的な存在感を放つ人物を感じ取ったからだ。


(なんだ、この感じ……)


振り返ると、白い髪と目元に黒いサングラスをつけた長身の男性が、軽い足取りで歩いている。その背筋は伸び、どこか気怠げな雰囲気を漂わせながらも、すれ違う人々の間で異様なまでに目立っていた。


「お兄ちゃん?」詩が空を見上げる。


空は視線を戻し、気にするなとばかりに首を振った。「いや、なんでもない」


だが、その瞬間、白髪の男――五条悟が空に気づいたように、ふと立ち止まった。空もまた、彼の視線を感じ取り、二人の目が合った。


五条悟は興味深そうに空を眺めながら、軽く口を開いた。


「君、ちょっと変わった感じがするね」


空は警戒しながら答えた。「……俺に何か用ですか?」


五条は少し首を傾け、不思議そうな表情を浮かべる。「いや、ただの挨拶みたいなもんだよ。でも、君からは……そうだな、“何かを背負った匂い”がする」


「背負った匂い……?」


空が戸惑う中、五条はニヤリと笑った。


「まぁ、俺には関係ないことかもね。君は君の道を進むんだろう?その未来、楽しみにしてるよ」


そう言うと、五条は軽く手を振り、再び人混みの中へと消えていった。


空はその背中をしばらく見つめていたが、やがて呟いた。


「何だったんだ、今の人……?」


詩が不思議そうに尋ねる。「知ってる人だったの?」


空は首を振り、「いや、たぶん初対面だ」と答えた。そして、五条が最後に放った言葉が胸に残る。


「未来は、君自身が切り開くものだよ」


その言葉は、空の心に新たな火を灯した。


「お兄ちゃん、行こうよ!」詩が空の手を引っ張る。


空は五条の言葉を胸にしまいながら、前を向いて歩き出した。「ああ、行こう。俺たちの未来を作るために」


二人は再び人混みの中に消えていった。その背中は、これからも選び続ける覚悟を宿している。

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Intersecting Dreams 湊 マチ @minatomachi

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