勝利の女神の存在しない世界の住人
午後6時。
彼は帰路に就いていた。どこか悲しげな後ろ姿は空虚を身にまとい、全てをかけて戦ったような戦士のような風格すら醸し出していた。
空を舞う鳥の鳴き声や街中の排気音、踏切の音も遠くに聞こえ、片手には大事そうにペットボトルを持ったまま活気に満ちた群衆の中をただただ歩いていた。
と一応の小説らしさを出したところで彼の今日の一日を見てみよう。
朝9時。珍しく早起き(?)をした彼は長蛇の列に並んでいた。早起きが何よりも嫌いな彼をここまで突き動かすのは何者なのだろうか。
ギャンブルである。
大学に入ってからというものギャンブルにハマった彼にとってパチンコ店のイベント日の早起きなど他愛もないようである。
早起き出来た自分に自信ありげな表情をしているが絶対に誇れるようなことでは無い。
そして運命の抽選。引いた番号は3番。最高の番号である。狙い台に座ることのできた彼は意気揚々と遊戯を開始し時が過ぎるのも忘れ没頭していった。
そして時刻は現在に戻る。
最初こそ好調に見えたものの気づけばぼろ負け。挙句の果てに途中で捨てた狙い台が次の人で大当たりの連続といった始末。店の爆音で耳はやられ、手元には景品の水が1本。
「もう絶対ギャンブルなんてやらねぇ。」
もちろん次の日も行った。(負け)
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