蟻地獄に踏み入れるのは自分が悪い

 「進まない、進まない、進まない、、、、」

こんな強敵は人生で初めてだ。もう指ひとつ動かない。地元では負けなしだったと言うのに!これが東京の洗礼だって言うのかよ!


彼はレポートを書いていた。もちろん提出日に。


 いくら書けていないとは言っても彼も序盤は悠々と書き進めていた。ただ中盤あたりまで書き進めたところで彼の手は完全に止まり、現在に至る。

これがレポートの怖いところその1である。書き進めれば書き進めるほど矛盾が始まり、気づけば蟻地獄のように進んでは戻り進んでは戻りと一歩も進めない状況になるのである。そして彼のように授業を聞いていないような人間では尚更だ。

彼は「この世は残酷だこんな地獄に落とすなんて」などとほざいているが、結局のところ自然界の虫と同じくこの地獄に落ちるものは皆自業自得なのである。


 しかし彼にも意地はあるようで、こんな語りをしている間になんだかんだ残りわずかのところまで書き進めていた。

「明日は全休、この体力などくれてやるわ!」

彼は普段使いもしない体力を使い切り、なんとかレポートを書き切ることに成功した。彼はレポートを書き終えた満足感と疲労感を抱いて眠りについた。



そういえばレポートの怖いところその2を記すのを忘れていた。それは

「レポートの提出ボタンを押し忘れること」である。

皆一度は経験したことがあるのではないだろうか。そこでぐっすりと眠っている彼ももちろんその例外ではなく、たった今被害者になったところである。


余談だが、彼は次の日のバイトを寝過ごした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る