2話  転生

大体の場合物語では、セオリーみたいなものがおおまかに決まっている。

たとえばよくあるので言えば"主人公がチートスキルを引く"とかな。

前世?まだ転生してないから違うかもしれんが、とにかく死ぬ前に見ていたラノベだとそんな感じだった。

俺が主人公だ!なんて烏滸がましいことを言う気はないし、そもそも俺はそんなこと言えるような存在じゃない。

だとしても.....だとしてもだ!


「これは明らかに産廃クソスキルじゃねぇか!!」


俺は思わず台パンしつつその説明欄を食い入るように見つめる。まぁ別に何度見返そうが書いてある事に変化なんかない訳だが。とりあえず端的に纏めると回避に必要な諸々の身体能力に補正がかかるらしい。一瞬身体能力強化系で当たりかと思ったが、強化内容がカス過ぎる。


動体視力 時速40㎞までなら視認できる。

視力 1.0レベル

敏捷性 反復横跳び20回程度

瞬発力 立ち幅跳び1m程度

跳躍力 助走なしで30cm(その後の落下に対する衝撃緩和等の補正はなし)



ほとんど高校生の平均値かそれ未満くらいだ。正直俺の記憶にある身体測定の記録の方が書いてある値より高い。まぁ違う肉体に転生するかも分からないからここは何とも言えない所でもあるが。

跳躍に関しては落下の衝撃に対応してない始末。ナメてるよな?まぁでも30cmの衝撃とかたかが知れてるか。

これじゃどう考えても回避者アヴォイダーにはなれないだろ。


「これはちょっと......目も当てられませんね......」


エリシアが憐みの目で俺を見てくる。オイ、そんな目で見るな。悲しくなるだろうが。憐れむくらいならもう一回引き直させてくれよ。


「まぁ俺が引いたんだからそれに文句言っても仕方がないんだよな。んで、それとは別に質問があるんだがいいか?」


「えぇ構いませんが。何でしょう?」


ずっと気になっていたスキル種別なのだが、その欄の中に一つだけよく分からない項目...というか種別がある。他の二つはまだ何となく分かるんだ。


レベリングスキル。これは普通に成長するスキルってことだろう。何で初期が1じゃなくて0なのかは甚だ疑問だが。マニュアルスキルっていうのは任意発動だろ...おそらく。だがブランチングスキルに関しては何も分からない。他にも言えるが説明くらいつけてくれよ...


「ブランチングスキルって何だ?他は名前から少しは予想できるんだが、この種別だけは分からなくてな。」


「なぜ他二つが名前から予測出来て、何故これは予測できないんでしょう?あぁ、学が足りないんですね!」


笑顔でエリシアに毒を吐かれる。

今初めて、"殴りたい、その笑顔"の意味が分かった気がする。まぁここはこっちが激しても仕方がない。冷静に......冷静にだ。


「チッ。あぁそうだな。思えばろくに努力も勉強もしてこなかったよ。」


「いや...スキル一つでそんなテンションになられてもわたくしが困るんですけど。というか今舌打ちしました?しましたよね?」


そりゃ第二の人生決める要素で大外れ引いたんだからこんなテンションにもなるだろ。舌打ちは自分の言動振り返れ。エリシアが困惑と怒りを足して2で割ったみたいな表情をしているが、正直その顔をしたいのはこっちのほうだ。

とそんな割とどうでもいいことを考えているとエリシアが口を開く。


「改めて説明すると、ブランチングスキルというのは簡単に言うと"スキルのレベルが上昇すると同時にそれを大元として、派生したスキル一つを入手することができる"というもの。要はスキルのレベルアップと同時におまけでもう一個スキルが貰えるってことです。

派生スキルの利便性や強力さは大元のランクに準じますからまぁさもありなんってとこでしょうね。期待しないほうがいいと思いますよ。」


「つまりどうあがいても強くはなれない訳か。ワンチャンあるかと期待してたんだけどな。」


「いや、それは能力のランクがE-の時点で諦めてくださいよ。具体的にランクという数値で出た時点でにロマンもご都合主義も無いですから。」


「いきなり最底辺からスタートかよ。ツイてないとかそういうレベルじゃないんだが。」


これ転生先でお先真っ暗なんじゃ........ん?待てよ?転生だと?それってつまり記憶保持したままの赤ちゃんプレイか?嘘だよな?冗談じゃねぇぞマジで。

今更すぎて今まで気付かなかった自分が怖い。

スキルの残念さより何倍もヤバくて気にしないといけないことがあったわ。


「おい。エリシア。俺はいったいどういう方法で異世界に転生させられるんだ?」


答えによっては初手から地獄が確定するので、結構恐々として聞いたんだが、思ったよりあっさりと返された。


わたくしが普通に器となる肉体を作ってそこに貴方の魂を下ろしますよ。身体能力も変わりません。修正したのは髪の色くらいです。あ、別に赤子から始めたいならそのように調整しますが?」


「誰がやるかそんなもん!この精神年齢でそれは普通に拷問だろ!?」


「あら?赤子と精神年齢は大差ないのでは?」


.......これ気抜いたら拳出るな普通に。というか髪の色の変更だと?


「何で髪の色を変更したんだ。希望を出した覚えはないんだが?」


「貴方が今から転生する世界は黒髪が迫害対象の世界なんですよ。別の色のほうが都合がいいでしょう。ちなみに色は紫に白のメッシュです。髪型は変わらずウルフヘアですね。」


何で紫?しかもメッシュ要らないんだが。文句言っても無駄だから心の中でしか言わないけどさ。取り敢えず聞き忘れはなさそうだし転生しよう。まぁ俺が自分でするわけではないんだけど。


「聞きたいことはこれで全部だ。やり残しも個人的にはない。もう大丈夫だ。」


「そんな荘厳な雰囲気出されても困りますよ。転生させるのわたくしですし。」


オイ、エリシア空気読めよ。まぁいい。

俺は今から転生するのだ。異世界未知の場所に、回避者クソ能力を引っ提げて。


「ではこれより貴方を転生させます。貴方が今から行く世界には数多の苦難があるでしょう。怒りも、不条理もあるでしょう。ですがそれと共にそこには幸福も、希望もしっかりとあるのです。縫間 無止。貴方の二度目の生に.......どうか多くの幸あらんことを。」



エリシアの言葉に返事をする間もなく俺の視界は暗転していく。何でだろうな?最後アイツ、バツの悪そうな顔してたぞ。まぁ考えたところで今はもうどうしようもない。そこまで考えた所で俺の意識は落ちていく。



そして次に目を覚ましたのは、森の中。無事に転生は成功したみたいだ。

暖かい日差し、柔らかな土を踏む感触、森独特の匂い。あぁ本物だ。ちゃんと生きていることを五感全てで感じ取ることができる。


しかし、だがしかしだ。今俺の視界にはそんな素晴らしい自然や、転生の感動など全て取っ払ってしまうような光景が映っている。前世で見たのより3倍くらいはデカそうな熊が動かず、10m程の距離からこっちを見ているのだ。

つまりどういうことかというと、森の中初期リスポーン地点熊さんエネミーに遭遇したのである。


うん。本当にふざけるな?俺は届かないであろう声を天上に向かって張り上げる。


「あんのクソ女ァァ!!」


どうやらこっちでも世界は俺に優しくないらしい。

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