1話  能力ガチャ?大爆死だよ馬鹿野郎。

わたくしの記憶違いでなければ人間世界での中指を立てるという行為は侮辱を意味したと思うのですが?これは一体どういう了見でしょう?」


「どういう了見でもないですよ。ムカついてたら自然に立てちゃっただけなんで。」


俺はあっけらかんと、さも当然だというように目の前のクソ女改めエリシアに告げる。管理者だが何だか知らないが、初対面で人をいきなりそれはふざけてるよな?正直前蹴り腹に入れたいんだがさすがに自重しよう。


「つまりそれは、明確な意思を持ってわたくしを侮辱したと?たかがわたくしの産物の分際で?世界の全てを司る絶対者たるわたくしに?不敬甚だしい。わたくしは世界の管理者にして創造者。いわば貴方を生んだ存在です。もう少し恩義などを考慮しては?いえ、劣等種にはそんな礼節など期待するだけ無駄でしょうか?」



わたくしわたくしうるせぇなコイツ!

いきなり間引かれたとか何も成せない奴とか言われてそのまま会話続行できるような精神構造してないからな。俺は敬語すら外して目の前の管理者に怒りをぶつける。


「さっきそう言ったんだぞ。ちゃんと口にしないと理解できなかったか?残念なオツムしてる創造主様だ。そんで恩義?自分で勝手に生んどいて、要らなくなったら間引きとか言って勝手に消すような奴にか?

俺はちゃんと考えられる思考も、自分の意志で動かせる身体もある。お前の操り人形じゃないんだよ。お前の都合で殺されて、恩義なんか感じるわけねぇだろうが!」


「ーーっ!!」 


管理者改めエリシアは椅子から立ち上がると憤怒の表情を俺に見せる。その拍子に椅子も倒れるがどうでもいい。

ブチギレたいのはこっちだよ。何でテメェがその顔してんだよ。

そう心で毒づいていると、エリシアは深くその息を吐く。怒りを鎮めようとしてるらしい。俺と口論するのがバカバカしいとでも思ったのか?

エリシアは静かに自分で倒した椅子を起こし座りなおす。そして、深く深呼吸をした後、全然感情を抑えられてない顔で話し出す。


「まぁいいでしょう。有象無象に激していられるほど、わたくしも暇ではありません。」


いやいや顔に青筋が3本ぐらい浮き出てるから。全然誤魔化せてねぇよ?

まぁでもあっちが形だけでも怒りを鎮めたんだから、俺も口調ぐらいは直すべきだろう。そう思っていると、エリシアがやっと怒りを飲み込み終わったのか顔を元の無表情に戻し説明を始める。


「改めて貴方の現状を説明します。まず貴方は私に間引かれました。世界に人間は増えすぎた.........やはり剪定は必要でしょう?ましてや貴方のように生まれたその日から"何者でもない"と運命づけられている人間など不要です。」


「あの。俺は貴方の御大層な理論が聞きたい訳じゃないです。早く俺のこれからについて話してください。」


「全く。狗未満ですか?貴方は。話の腰を折らないでくださいよ。”待て”ぐらいは出来るでしょう?今更敬語にしたところで印象など変わらないので外していただいて結構ですよ。貴方と話していても時間の無駄ですし、ストレスが溜まるだけなのでさっさと終わらせましょうか。」


そういうとエリシアは一拍の間を置いた後話し始める。


「さっきも言った通り貴方は死にました。まぁあの世界から間引いたのはいいんですけど。理不尽なのは仰る通りなので、第二の人生を歩む権利をお与えする。そのために、私は貴方をここにお招きしたのです。.......本来ならば貴方が素直に話を聞いていればもっと早く済む話だったのですよ。」


「あーはいはい。悪かったですよ。管理者様。それで?具体的にどういう感じなんだ?別世界への転生か?」


「それが素の性格ですか。まぁ苛立ち度はさっきと変わりませんね。あとエリシアで結構です。敬意のない敬称など不快なだけですので。そして.....貴方無駄にそういうとこだけ勘がいいですね。そうです。異世界転生をしていただきます。その世界は、貴方方人間の言葉を使うならファンタジーといった所でしょうか。ラノベ....でしたっけ?あんな感じです。今の段階でもし何かご質問があれば可能な限りお答えしますよ?」


エリシアはそう話を切り上げると、俺に視線を移す。どうやらこちらの返答を待ってるらしい。と言っても転生自体に不満はないし、特に指摘する点もない。でもこれは一応聞いておこうか。個人的にあってほしいと思うからな。


「その世界には特殊能力的なあれはあるのか?んで俺は特殊能力を貰えるのか?」


そういうとエリシアはため息と共に、苛立ちと呆れが入り混じった目で俺を見る。まぁコイツの気持ちを表すならこんなとこか?

"質問がなければそれについて話すつもりだったんですけど?先に言わないでもらえますか?"

悪いな。まぁわざとじゃないんだ。許してくれよ。その寛大(笑)な心で。


「何故でしょうか?何も言われていないのにものすごく腹が立ちます。まぁいいでしょう。気を取り直して今から能力について説明いたします。世界観自体は貴方のご想像通りの世界で概ね間違っていないと思います。そして肝心の能力は、貴方の運に決めてもらいましょう。有り体に言えばガチャですね。」


「何でその一番重要な要素がガチャなんだよ!?」


ふざけんなよ?こんのクソ管理者!選ばせろよ!!俺TUEEEさせろよ!!!

どうすんだよ外れスキル出たら!?

そんな怒りに身体を震わせていると、彼女は庭園にあった花を摘んでくる。

そしてそれを乱雑に、まるでゴミでも捨てるかのように机に投げ置く。


「何だ?礼節だの何だの説いておいて手渡しすらしねぇのか?人に言えないな?」


「何でそんなに怒ってるんですか.....?」


当たり前だろうが。人生の方向性が変わるかもしれねぇ重要な要素だぞ。それがガチャはありえないだろうが。

恐らく人生.....いや終わってんだけどな?その生きていた時に刻まれた記憶の中でさっきのを除くなら一番キレている。エリシアはそんな俺の怒りをスルーし、なおかつその顔に張り付いた呆れを崩すことなく説明を始める。


「その花がいわばガチャのカプセルなんですよ。自分で開けたいでしょう?あ、言っておきますがこの能力ガチャは花弁に触れた時点で能力を選出し出すのでどの花でも結果は変わりません。弱い能力を引いても"わたくしのせい"などと間違ってもほざくことのないようにお願いしますね?」


「分かってるよ。花弁に触れればいいんだろ?」


そうは言うものの何故か身体が言うことを聞いてくれない。いや何故かじゃないな。自分が一番よく分かってる。怖いんだ。

ヤバイ能力を引くかもしれない。その懸念がどうしても身体を動かしてくれない。

弱いとかそんなのだったらいい。別に困るのは俺だけだ。

でも存在するだけで誰かの迷惑になるような、関わった誰かを命の危険に晒してしまうような能力だったら。それが怖い。その考えが花弁に触れる指を止める。いっそのこと文句言わないからエリシアに触れてほしい。

そうやって情けなく躊躇っていると俺の様子を見かねたのかエリシアが声をかけてくる。


「怖いんですか?能力なしで行っても死ぬだけなんですからさっさと引けばいいんですよ。一歩進むこと。そこを怖がってしまっては何もできません。

まさか貴方は、転生してからも前世のように"自分のせいで何かあったら嫌だから"とあらゆる選択を誰かに押し付けて逃げる気なのですか?そんな人生のどこを探しても幸福なんかないですよ。」


言葉が俺の心に深く突き刺さる。

分かってんだよ。お前なんかに言われなくたって。そんなこと!俺が一番!!

言い放ったエリシアを睨みつけるも、彼女は意にも介していないようで、俺の激情を無視するようにエリシアは言葉を紡ぎ続ける。


「転生とは生まれ変わること。肉体が変わっても、精神が変わらなければ意味がないんです。別に私は前と同じ事をしたいなら止めようとは思いません。自分を変えるというのは言葉ほど簡単ではありませんし。

でも貴方が人生をやり直したいと。前世の自分から変わりたいと願うなら!今ここが分岐点でしょう?」


その言葉にずっと忘れようとしていた記憶がフラッシュバックする。

前世ではずっとそうだった。失敗するのが怖くて、自分の判断で誰かが傷つくのが怖くてそういう"嫌なことだけ"を他人に押し付けてきた。

学校の進路すら自分で選ばなかった。あらゆる決断は誰かに任せた。何かあっても俺は従っただけだから何も悪くないと醜い逃げ道を作った。

そうやってずっと逃げてきた。周りの評価からも、自分の人生からも。


"形だけ、肉体だけ転生したって何の意味も無い"

その言葉は俺の心に強く響いた。俺の恐怖や雑念を吹き飛ばしてくれた。


”また逃げるのか?これからも?ずっと?”

その質問の答えは、きっと前世でも出ていたんだろう。。でも俺は自分を変えられなかった。楽な方へ流れてしまった。だからこそ、今世はちゃんと生きたい!

自然と口から、心からの思いを吐き出していた。


「逃げるのはもう嫌だ....俺は変わりたい!変わらなきゃいけないんだ!」


俺は震えを抑えて花弁に人差し指で触れる。その瞬間、花弁が黒く染まりながら枯れた花のように崩れていった。明らかに外れ演出だ。いや何かそんな気はしていたけども。


わたくし.....その.......外れの色は知っているのですが......最低レアの黒は........初めて見ました。」


俺がエリシアを見ると、エリシアは満足そうに笑っていた。

まぁ俺の顔を見た瞬間目を逸らして申し訳なさそうな雰囲気出したが。エリシアは何も悪くないんだけどな。取り敢えず能力を確認してみますかね。......これどうやって確認すんの?


「普通に異能開示オープンと言えば開きますよ?これは転生先でも過程を経れば同じですから覚えておいてくださいね。」


サラッと心読まないでもらってもいいか?


「こうか?異能開示オープン。」


そう俺が言葉を口にした瞬間に、ゲームのステータスウィンドウみたいな感じで能力が詳細に記載された物が出てくる。

さてと。見せてもらおうか、最低レアの性能とやらを。




{スキル名 回避者アヴォイダー ランクE- スキルレベル 現在Lv0


スキル種別 レベリングスキル(上限5) ブランチングスキル マニュアルスキル


スキル詳細

本人の身体能力を3分間上昇させる。

上昇量はスキルレベルに依存する。


スキル恩恵

動体視力 時速40㎞までなら視認できる。

視力 1.0レベル

敏捷性 反復横跳び20回程度

瞬発力 立ち幅跳び1m程度

跳躍力 助走なしで30cm(その後の落下の衝撃は補正なし) }


それを見て安心している自分がいた。人に迷惑をかける能力じゃなくて本当に良かったと。ただ花弁に触れただけ。それでも、今だけは心の底から自分を褒めてやりたいと思った。

まぁそれはそれとしてだ。色々よく分からない事も書いてあるがこれだけは言わせてほしい。強化しなくても大して変わらないんだが?



どうやら俺は本当にクソすぎるスキルを引いてしまったらしい。

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