白夜の抱擁 第二章 終わらない夜

 ツバキハウスはフリー・ドリンク制。

 初めて飲んだウォッカ・トニックが気に入り、以来、毎回そのカクテルを頼んでいた。


 面白かったのは、各ヘヴィー・メタル・ミュージシャンのそっくりさんがいたこと。

 踊るスペースの特徴として、通常のライヴ・ハウスほど広くはないものの……『ステージ』的な部分があり……

 その『フロント』で、彼らそっくりさんは、フロアーのみんな『オーディエンス』の方へ向かって『エアー・メタル』する。

 フロアーでは彼らに向かって、みんなでヘッドバンギング。


 ボン・ジョン・ボビ のそっくりさんは女性で……ジョン・リー・ターナー のそっくりさんと、実は夫婦。


 アクセクトのヴォーカルのウド・ダンケシュナイザー の、全身迷彩で頑張っている『自称そっくりさん』のぽっちゃりさんも女性で……“ウド子ちゃん”と呼ばれ、みんなに親しまれていた。


 なんと言っても特筆すべきは、メタル界のやっさん……グラハム・バネットのそっくりさん!

 普段の職業は……なんと侠客さんだそうで。


 みおさんの親友のミキさんがやっさんのファンで……


「やっさんと何とかお話がしたいし、できれば触りたいけど……ちょっと怖いから、れいが取り持ってくれる?」


 なんて頼まれ、ツバキハウス終了後に声をかけたら……案の定、おっかねぇ。


「すみません。触らせて欲しいんです」

「あぁ~!? 触りたいだぁ~!?」

「こちらのレディが(と、ミキさんを紹介)」

「あ……ども~(デレデレ)……」


 やっさんも、女性には優しいんだな。



 21時近く……ヘヴィメタルナイトの終わりを告げる、ホワイトパイソンの“アイ・ウィッシュ・ユー・ウェル”が流れる。


 そしてそのあと『二次会』と称して居酒屋へ移動し、また盛り上がる。

 常連の仲間……多い時は三十人以上いた。


 いつもの居酒屋は、日付けが変わり2時か3時頃閉店。

 当然電車はない。さりとてタクシーで帰る余裕もない。

 と言うより……まだみんなと一緒に遊んでいたかったのだろう。


 どこか開いているドーナツ・ショップで、始発が動き出すまで……他愛のない話をしていたり……眠ったり。


 そのうちパラパラと……2、3人ずつ帰ってゆく……少し寂しい時間帯が来る。

 もちろん自分が、先に帰るその2、3人である場合もあった。


 ある週など、早朝まで残った人数がやたらと多く……そのままこのメンバーで、またどこかへ行こうという展開となった。

 朝食が、なぜか明石風タコ焼きのお店だった記憶が印象的。


 そのあと新宿から代々木公園へ移動し、みんなでケイドロをして走り回った。

 徹夜明けだというのに、十代、二十代の元気だけで……夕方まではしゃぎまわり……予算に余裕がある時は、また飲みに行った夜もあった。


 そうしたメンバーの中に……みおさんも、いたりいなかったり。


 しかし、ツバキハウスでは……僕はまだ、みおさんの『弟分』にすぎなかった。


 但し、その『弟分』となったきっかけとして……

 みおさんから、あんなアプローチがあるだなんて……

 僕にとっては……結果的には嬉しい『想定外』の出来事だったんだ。

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