クリスマス対策会議は世知辛い。

たっきゅん

クリスマス対策会議は世知辛い。

 星々が周囲に輝く夜空、その人の目には映ることのない大宇宙と同化したかのような空間には厳かな空気が漂っていた。


「これよりクリスマス対策会議を始める。サンタクロース一同、礼ッ!」


 司会を務めるメガネサンタの合図で立ち並んでいた数百人という赤い服を着た者たちは頭を下げてから椅子へと着席した。それを満足げに見ていた白い髭がお腹まで伸びてハートの形を作っていたザ・サンタクロースとも呼べる姿のお爺さん、ドン・サンタが話し始める。


「今年もクリスマス聖夜が近づいておるが、昨今のサンタ業界はサブスクやインフレといった厳しい市場環境に見舞われており、我々サンタ業界が配れるプレゼントの金額も上がりギリギリでのクリスマスイベント遂行となっておる。じゃが、先日配ったの賞与は去年と夏のオーストラリアでの諸君らの働きに感謝し、去年と同様に過去最高額を支給させてもらった。この会議はクリスマス経営の改善と円滑な遂行のために行われるもので諸君らの知恵や知識もどんどんだしてもらい――」

「なげーな。おい」

「っし! みんな思ってることだけど、っし!」


 お偉いさんの長い挨拶はサンタの世界でも同じようで、一部のやる気サンタを除いたサンタたちは眠気に抗いながらも退屈そうに話を聞いていた。


「あなた見ない顔だけど新入り?」

「だな。相棒だった織姫のやつと喧嘩別れしてこっちに流された」

「トナカイとは喧嘩しないでね? 仕事中に野良トナカイと彷徨うサンタ捜索とか残業手当出ないから」

「っち、ブラックかよ」

「……お願いだからあなたは私とは違う地域を選んでね」


 年中行事を執り行う神々のしもべは有限であり、節分や七夕、お盆、ハロウィンを始めとした世界中で行われるイベントに駆り出される。その中でも過酷な部署がクリスマスであり、贈り物プレゼントを届ける体力、トナカイの操縦技術など高度な技能が求められる部署だった。


「最新ゲーム機の値上げもあり、クリスマス予算は足りておらん。そこで今年も例年通り、両親がプレゼントを買えるように手配し家族間でクリスマスを楽しんでもらうための事前準備部門、欲しいものが手に入らない子どもたちのための聖夜の贈り物部門に分けたいと思うがどうじゃろうか」

「「「うぉー! 賛成!!」」」

「……喜びすぎじゃねーか?」

 

 ドン・サンタの提案は反対意見どころか苦言すら出てこず、満場一致で部門分けが行われることになった。それを見て新人サンタはあまりの歓喜に疑問を抱いた。


「親御さんが子どもの欲しいプレゼントをちゃんと買うことができれば無事にクリスマスが行えるわ。もし当日に贈り物を渡し忘れていたらフォローするのも事前準備部門の仕事で労働時間は長いのだけど――その分、プレゼント購入費用が浮くわ。つまり、それは私たちのお給料になるのよ」

「それでいいのか、サンタァ……」


 ベテランサンタの説明を受けて世知辛いなと悲しくなる新人サンタだったが、さらに追い打ちが続く。


「次の議題じゃ。今年の夏は猛暑で11月の終わりまで続いた暑さによりトナカイの調子が良くはない。そこで親戚のほぼトナカイと言えるシカをレンタルし、対応しようと思うのじゃが――」

「……もう何も言わねぇ」

「慣れたのなら結構。サンタの世界も現実的なのよ」

 

 現実に打ちひしがれた元彦星の新人サンタは「純粋な願いを叶える七夕の方がマシだったな……」と溢すのだった。


 

 

「最後の議題じゃ。今年は去年同様に大国による戦争が続いておるが、それに加えて別の場所でも戦火が広がっておる。それを加味し、今年はそれらの地域をクリスマスは中止としようと思うのじゃが」

「ん? ……ちょっとまて! 世界中の子供にプレゼントを届けるんじゃないのか!?」

「平和な世の中じゃないの。それが出来たら苦労しないわ。貧しい地域で玩具なんか配って見なさい。すぐに売られて戦争の道具に変わるわよ」

「それでもプレゼントを待ってる子どもがいるなら届けるべきだろ!」


 議題も進み、最期に出てきたのが情報収集で使っているSNS上でよく見かける『クリスマス終了のお知らせ』をサンタが地で行っているのを知り、さすがの新人サンタも異議を唱えた。


「……ほう。このわしの提案に異議があると申すか。気に入った! そちらへはお主に行ってもらおう。ただし一人当たりの予算はそこの国での平均年収の500分の1じゃ」

「――いいぜ。やってやるよ。だが、俺はサンタのことを何も知らねえ。教育係としてこいつも一緒に来てもらってもいいか?」

「ちょっと! 私を巻き込まないでよ!」

「よい。そやつも連れていけ。他にも予算以外であれば要望があれば申してみろ。考えてやらんこともないぞ」


 ドン・サンタは泣きつくと思っていたのに受けると言った新人を面白いと思い、泣き崩れるベテランサンタの同行を含む全ての要求を受け入れて……。ついにクリスマスを迎えた。



 

「よし、寝たぞ。ローズ、お前は父親を連れてこい」

「……なんで上司の私に自然と命令してんのよ。まあやるけどさ、アラタはちゃんと守っててあげるのよ」


 地上でお互いの呼び名は会った方がいいとアラタの提案で二人はそれぞれ名を持った。新人のサンタ、アラタはベテランのローズに指示を出し作戦は決行される。


「え? お父さん?」

「そうだぞ、ジャン。お腹が空いたろ」

「優しいサンタさんが上官の目を盗んで聖夜を一緒に過ごせるようにと運んでくれたんだ。スープとパンまで用意してくれて一緒に食べなさいってな」

「――うん! お父さんと一緒にまたご飯を食べれて嬉しい!」


 聖夜の奇跡は『ご飯と家族との思い出』で、贈り物を受け取った親子を幸せそうだった。


「いいものね」

「だな。戦争なんてなくなっちまえ」


 見守った二人はそれからすぐにジャンを眠らせてお父さんを戦場へと戻した。


「生きて帰ってきなさいよ? あの子が待ってるんだから!」

「もちろんだ。一夜の限りの贈り物じゃなくて、これからもずっと一緒にご飯を食べてあげないとな」

「おう。その意気だ。頑張れよ」


 戦争地域でも上手く願いを解釈し、二人のサンタはその後も聖夜のうちに贈り物を運んだ。いつの日か、平和な世に積み立て分のプレゼントを贈れることを願いながら。

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