第6話
第5章: 雷と傷痕
空は怒りに満ちて轟いていた。
広場の中央に立つビョルンは両手でハンマーを持ち上げ、その体を青白いオーラが包み込んでいた。彼が呼び寄せた嵐はさらに激しさを増し、稲妻が暗雲の間を踊り狂っていた。
アレックスは息を切らしながら槍を構え、今まで隠されていたビョルンの力に驚きを隠せなかった。
「ずっと本気で戦ってなかったのか?」アレックスは信じられないような声で問いかけた。
ビョルンは自信に満ちた笑みを浮かべた。
「その通りだ。お前はいい戦いをするが、まだ始めたばかりだろう?さっきまでは準備運動さ。だが、これからは俺がトールの化身である理由を見せてやる。」
ビョルンはハンマーを地面に叩きつけ、電撃がアレックスに向かって放たれた。アレックスは間一髪で跳び避けたが、雷撃が地面を粉々に砕いた。
「覚悟しろ、アレックス!」ビョルンは天を指さし、ハンマーを掲げた。
嵐は彼の声に応えるように動き、雲からいくつもの稲妻が降り注ぎ、彼のハンマーに集中した。ハンマーは眩い光を放ち、電気エネルギーがまとわりつく。そのままビョルンは雄叫びを上げながらハンマーをアレックスに向かって投げつけた。
アレックスは咄嗟に槍を構え、体の周りに風の盾を作り出した。電撃の一部を防ぐことはできたが、その衝撃は圧倒的だった。
風の盾は次第にひび割れ、崩れ去り、爆発の勢いでアレックスは何メートルも吹き飛ばされた。地面に激しく叩きつけられ、彼の体は切り傷ややけどで覆われ、ついには動かなくなった。
ビョルンはハンマーを降ろし、荒い息をつきながら嵐を静めた。広場には静寂が戻った。
「才能はあるが、まだ道のりは長いな。」
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洞窟での目覚め
アレックスがゆっくりと目を開けると、体中の痛みが戦いの激しさを思い出させた。最初に目に入ったのは、洞窟の岩肌と揺らめく焚き火の光だった。
彼は苦労して起き上がり、即席のベッドにされた毛布と葉っぱの感触に気づいた。周りを見渡すと、焚き火のそばに座るビョルンの姿が目に入った。彼はもう鎧を着ておらず、シンプルな服をまとい、その体には無数の傷痕が刻まれていた。その中には深いものも浅いものもあり、トールの化身としての彼の過酷な人生を物語っていた。
「…何があったんだ?」アレックスがかすれた声で尋ねた。
ビョルンはすぐには答えず、焚き火に薪をくべながら答えた。
「気絶したんだ。何本か骨が折れたかと思ったが、お前の体は見た目より頑丈みたいだな。」
アレックスは起き上がろうとしたが、肋骨の痛みがそれを阻んだ。
「…なぜ俺を殺さなかった?」
ビョルンは低い笑い声を漏らした。
「殺すだと?馬鹿言うな。これは命の奪い合いじゃない。俺たちは神々の代弁者であり戦士だ。お前にはまだまだ伸びしろがある。それに…」ビョルンはついにアレックスを振り返り、温かい笑みを見せた。「正直、戦っていてかなり楽しめたよ。」
アレックスは眉をひそめたが、内心ホッとしていた。
「感謝すべきかもな。」
ビョルンは首を横に振った。
「感謝するのは俺と互角に渡り合えるようになってからにしろ。ただ一つ言えるのは、お前は俺を本気にさせた数少ない相手の一人だ。」
アレックスは驚いた様子で尋ねた。
「本気…?」
ビョルンはハンマーを指さした。
「ああ。今回使った力は、このハンマーが持つ真の力のほんの一部に過ぎない。でも、それでも十分だったろう?」
アレックスはビョルンの体の無数の傷痕を見つめながら訊いた。
「その傷はどうやってできたんだ?」
ビョルンは少し寂しそうな笑みを浮かべた。
「化身になるというのは力を得るだけじゃない。その力を背負う責任もあるんだ。この傷は、その責任とともに歩んできた証だ。どれだけの力を持っていても、俺たちは所詮人間だ。間違いも犯すし、傷つく。それでも、立ち止まらずに進み続ける。」
その言葉はアレックスの胸に響いた。ケツァルコアトルに選ばれたことは特権ではなく、まだ自分にはわからない重い責任が伴うのだと気づかされた。
ビョルンは立ち上がり、ハンマーを手に取った。
「休め、アレックス。村はそう遠くない。回復したら、また進むぞ。」
アレックスは頷き、再び横になった。焚き火を見つめながら、彼の中に新たな決意が芽生えていた。
「どれだけ時間がかかっても、次に戦う時は俺が先に倒れることはない。」
ビョルンは笑い声を上げた。
「それを楽しみにしてるぞ、少年。それをな。」
第5章終了
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