第5話

第4章: 雷の槌 (続き)


周囲の空気が凍りついたかのようだった。ビョルンは嵐そのもののように前進し、そのハンマーはバチバチと雷光を放っていた。アレックスは風の渦に包まれながら、この戦いが自分を大きく上回る経験と力を持つ相手とのものだと理解していた。それでも、彼の心の奥底から「諦めるな」という声が湧き上がってきた。


「さあ、来い、坊主!」

ビョルンが叫びながら、アレックスに向けてハンマーを振り下ろした。


アレックスはかろうじてそれをかわし、ハンマーが地面に激突すると、雷と土の爆発が巻き起こった。その衝撃でアレックスはバランスを崩してよろめいた。


ビョルンは興奮した表情で笑みを浮かべた。

「それが限界か? もしこれ以上ないなら、お前は雷神トールの価値に値しないぞ。」


アレックスは息を切らしながら、力が尽きかけているのを感じていた。だが、そのとき、彼の頭の中に響く力強く澄んだ声が聞こえた。


「お前の力は風そのものではなく、お前の信念にある。私の力を呼べ、アレックス。本当の力を解き放て。」

それはクエツァルコアトルの声だった。その声は深い響きとなって彼の心に刻まれた。


アレックスは歯を食いしばり、目を閉じた。

「本当の力……?」彼は小さく呟いた。


胸に刻まれた紋章が一層強く輝き、黄金の光を放ち始めた。周囲の風が変化し、単なる渦ではなく、生きているかのように蛇行しながら踊り始めた。


ビョルンはその変化を興味深そうに見つめた。

「何を企んでいるんだ、坊主?」


アレックスが目を開くと、その瞳は黄金色に輝いていた。彼は手を伸ばし、風が彼の手のひらに集まると、徐々に形を成していった。最初は光の束、次に細長い柄、そして最終的にそれは荘厳な槍の姿となった。


その槍はまさに神の作品だった。柄は黄金色で緑の鱗のような模様が彫られ、穂先は羽を広げた羽蛇を模した形状で、エメラルドやターコイズのように輝いていた。その槍から放たれるエネルギーは、ビョルンでさえ息を呑むほどだった。


「何だと……?」

ビョルンは驚きの表情を浮かべた。


すると突然、アレックスの全身を眩い光が包み、彼の体は黄金とエメラルドの鎧に覆われた。その鎧は羽蛇を模したデザインで、肩には翼のような装飾が広がり、胸には牙をむく蛇の模様が刻まれていた。圧倒的な神性の力が放たれていた。


ビョルンは驚きと興奮を混ぜた笑い声を上げた。

「何だこれは! お前が武器と鎧をこんなに早く具現化するとは思わなかったぞ。俺はそれを完成させるのに何ヶ月もかかったんだ!」


クエツァルコアトルの力を得たアレックスは、もはや以前のような不安な様子を見せなかった。槍をしっかりと握り締め、周囲の風は嵐のように唸りを上げていた。


「理由は分からない。」

アレックスは槍をビョルンに向けながら答えた。

「でも、これが君と戦うために必要な力なら、俺はもう止まらない。」


ビョルンは一歩前に出て、歯を見せながら笑った。

「面白くなってきたじゃないか! お前の力が俺のハンマーにどれだけ通じるか試してやる!」


神々の戦い


戦いは一気に激化した。ビョルンは雷光を纏ったハンマーをアレックスに投げつけたが、アレックスは槍を素早く振るい、その攻撃を弾いた。槍が空を切るたびに鋭い風の刃が生じ、ビョルンに迫った。


「危なかったな!」

ビョルンは興奮気味に叫んだ。


アレックスは以前よりもはるかに速く動き出し、その槍は彼の動きに合わせて舞うように見えた。槍から放たれる風の刃はビョルンを守勢に追い込んだ。


ビョルンは地面をハンマーで叩き、雷の波動を放った。アレックスは風の力で跳び上がり、その波動を避け、ビョルンの背後に着地した。


「逃がすか!」

ビョルンは振り返り、槍の一撃をハンマーで受け止めた。二つの武器がぶつかり合う衝撃で、周囲の大地が震え、光が爆発した。


戦いの中で、アレックスは徐々に戦闘のペースに適応していった。一撃ごとに正確さが増し、動きも洗練されていった。クエツァルコアトルの力が目覚めつつあるのが明らかだった。


息を切らしながらも笑みを浮かべるビョルン。

「認めざるを得ないな、坊主。思ったよりやるじゃないか。ただし……」


ビョルンが再びハンマーを空に掲げると、空に雷雲が集まり始めた。雷が地上に降り注ぎ、戦場はエネルギーの嵐と化した。


アレックスは槍を握り直し、鎧が再び輝きを放つ。

「どれだけの力を持っていようと、俺は諦めない。」


ビョルンは笑った。

「そうこなくちゃな!」


二人は再びぶつかり合い、その衝突は地を揺るがすほどの力を生み出した。この戦いは、アレックスが本当の力を見せ始めた瞬間として語り継がれることになるだろう。


第4章、終わり。


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