11 街の支配者 - 闇に蠢く者たち

竹林を抜けた先、雅都の街は夕暮れに包まれ、瓦屋根の影が長く伸びていた。

静かな路地を歩く人々の足音が遠く響き、町屋の格子窓から漏れる灯火が、朱色に染まる空を仄かに照らしている。

だが、その平穏さの奥には、どこか不穏な空気が漂っていた。

狐火の謎と祠の消失を追う俺は、雅都の裏で暗躍する商人たちの存在に気づき始めていた。


「雅都には、この街を陰から支える商人組織がいると言われています」

茶屋の隅で、低い声で囁くのは、神社の参道で偶然出会った行商人だった。

「表向きは穏やかで礼儀正しい人々ですが、実際には街の経済を握り、時には力ずくで支配を強めているとも聞きます」


その話は、単なる噂話として流すにはあまりにも具体的だった。

俺はさらに詳しく尋ねる。

「その商人たちが、祠の消失や狐火に関与している可能性は?」

行商人は少し戸惑った様子で、周囲を確認しながら続けた。


「直接の関与は分かりません。ただ、彼らは雅都の結界の力を商売の一環として利用してきた節があります。

魔水晶の魔力を使った特殊な品々を取引していたという話も……」


俺はその話を頭に刻み込み、街の中心にある広場へ向かった。

そこでは、雅都の商人たちが集い、賑やかな市が開かれていた。

賑わう人々の中に紛れ込みながら、俺は目立たぬように商人たちの動きを観察した。


市の一角には、豪奢な衣装を身に纏い、堂々とした態度で客を迎える商人たちがいた。

その中でも特に目を引いたのは、白髪に金の髪飾りを付けた男。

彼は多くの部下を従え、取引を指示しているようだった。


「…あの男か」

俺は物陰に身を隠しながら、彼の動きを見守った。

商人たちの中でも明らかに指揮を執る立場にあるその男が、この街の裏側で何を企んでいるのか。


その夜、俺は再び竹林へと向かい、彼らが使用していると思われる隠し倉庫を探し出した。

月明かりが竹の葉に影を落とし、冷たい夜風が笹の間をすり抜ける中、俺は静かに倉庫の扉に手を掛けた。


扉を開けると、中にはさまざまな品が雑然と並んでいた。

宝石のように輝く小さな魔石、古い巻物、そして祠の一部と思われる木片も含まれていた。

その木片にはかすかな魔力の残滓が感じられ、それが祠のものだと確信させた。


「やはり、この商人たちは関与している……」

俺は倉庫を調べながら、小さな術式が仕掛けられた箱を見つけた。

その箱を開けると、中には術式の図が描かれた紙片が入っていた。

それは、祠を壊し、結界を逆転させるためのものと見て間違いなかった。


夜風がさらに冷たさを増し、倉庫の外で微かな物音がした。

俺は音の方向に目を向けたが、そこには誰もいない。

しかし、その気配は確かに残っていた。


「見えない敵……それとも、この商人たちの仕掛けか」

俺は木片と術式の紙片を懐に収め、静かに倉庫を後にした。

雅都の裏に潜む商人組織、その背後に隠された黒幕の正体を暴くため、次の一手を考えながら竹林を抜けた。


雅都の夜は、さらに深い闇に包まれる。

町屋の格子窓から漏れる灯りがかすかに揺れ、人々が寝静まる中、俺はその影に潜む真実を追い続けた。

狐火の揺らめきが遠くで再び見えたとき、その光がさらなる謎を告げるかのようだった。








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元勇者は名探偵  ━雅な魔水晶━ 魔石収集家 @kaku-kaku7

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