6 山の主 - 静寂の守護者
今日もまた、一筋の謎を追う旅が始まる――
俺はそう思いながら、神社の宮司が教えてくれた山の奥へと足を向けた。
その場所には「山の主」と呼ばれる存在が祀られているという。
魔水晶の消失とどのように関わっているのか、確かめる必要があった。
竹林を抜け、石畳から外れた山道を登る。
苔むした岩がところどころに顔を出し、道の周囲には湿った空気が漂っている。
踏みしめるたびに落ち葉が軽い音を立て、その音だけが静寂を破っていた。
やがて、道の先にひっそりとした小さな祠が現れた。
苔で覆われた屋根、裂けた木板、祠の周囲には風化した石灯籠が並んでいる。
祠そのものは朽ち果てたように見えるが、その空間には確かに人知を超えた気配が漂っていた。
「山の主」とは何なのか――その名を知る者は少ない。
宮司の話では、この地を守る神聖な存在として長らく信仰されてきたが、その姿を見た者はいないという。
だが、古くから伝えられる伝承では、山の主は魔水晶を通じて雅都の結界を支え、街の平穏を守護していたとされている。
それが今、魔水晶と共にその存在までもが消え去っているのだ。
俺は祠の前に立ち、周囲を慎重に調べ始めた。
すると、地面に残る微かな足跡が目に留まった。
それは人のものではなく、獣のような形をしているが、竹林に生息する動物のものとは違っていた。
爪の跡が異様に長く、足の形はまるで山を越えるために特化したかのように鋭い。
「これは……」
俺は跪き、その足跡を指でなぞった。
足跡が向かう先は、祠の奥からさらに山深く続く道だった。
山道を進むうち、風が変わった。
それは湿り気を帯びた冷たい風で、どこか遠い昔の気配を運んでいるようだった。
笹の葉が重たく揺れ、山鳥の鳴き声がピタリと止む。
そして、道の先に古びた石碑が現れた。
石碑には、草木に隠れるようにして古代文字が刻まれている。
その文字は風化して読み取りづらいが、一部ははっきりと「封じられし力」と解読できた。
俺は石碑を見上げながら、呟いた。
「この山の主は、魔水晶を通じてその力を封じられていた……?」
祠が消え、魔水晶が失われたことで、その封印が解けた可能性がある。
だが、誰がそれを解き、何の目的で封印を破ったのか――その謎はまだ解けていない。
さらに奥へ進むと、突然、空気が一変した。
木々が重なり合う暗がりの中、地面に焦げ跡が広がっている場所を見つけたのだ。
その跡は、まるで何かが大きな力で燃え尽きたような形をしていた。
焦げた地面から漂う魔力の残滓が、空間全体に重く沈んでいる。
俺は周囲を見渡しながら、一つの結論に至った。
「山の主に封じられた力……それが何者かの手で解放されたのか」
その時、竹の間を風が駆け抜け、遠くに青白い光が揺れるのが見えた。
それはまるで、狐火のような不気味な光だった。
俺はその光を追いかけようと足を進めたが、次の瞬間、光は木々の影に消え、静寂だけが残った。
「これは偶然ではないな……」
俺はその場に立ち止まり、深い竹林を見つめながら呟いた。
雅都を覆う闇と、この山の主の伝承。
それらが交わる先に何があるのか――その答えを見つけるため、俺はさらに山を登る覚悟を決めた。
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