7 消えた参拝客 - 静寂の足音

夕闇が雅都の山間を静かに包み込む頃、笹の葉が風にそよぎ、遠くの鐘の音が微かに響いていた。

朱塗りの鳥居に差し込む残照が消え、石畳は夜の影に沈み始める。

俺は神社を訪れた参拝客が、魔水晶が消えた夜に忽然と姿を消したという話を聞き、彼の足取りを追うため再び竹林の奥へと向かった。


参拝客の名は清野(きよの)。

町屋の一角に暮らす職人で、神社を篤く信仰し、月に数度訪れて祈りを捧げるのが習慣だったという。

だが、魔水晶が消えた夜を最後に、彼は家に戻ることなく行方を絶った。


「清野さんが最後に見られたのは、竹林の小道を神社の方向に向かう姿でした」

彼の隣人が語るその言葉には、消えた彼への不安が滲んでいた。

「静かな人でしたが、あの夜は少し様子が違っていたように見えました。まるで、何かに急かされているような……」


その言葉を反芻しながら、俺は竹林の中を慎重に歩いていた。

足元には乾いた笹の葉が敷き詰められ、歩くたびに微かな音を立てる。

清野が歩いたであろう道筋を辿りながら、俺は周囲の気配に集中した。


竹林の深い場所に入ると、空気が一変した。

冷たい風が肌を刺し、木々の影がさらに濃くなっていく。

その中で、かすかに焦げた匂いが鼻をかすめた。


「……この匂いは」

俺は立ち止まり、周囲を見回した。

少し離れた場所に、竹が焼け焦げた跡が残されているのを見つけた。

その跡はまるで何かが強い熱を発しながら移動したように見える。


焦げ跡の周囲には、小さな足跡がいくつも散らばっていた。

それは清野のものではない――むしろ、獣かそれに近い存在のものだ。

「狐火か……それとも別の何かか」

俺は膝をつき、足跡の形状を慎重に調べた。


さらに奥へと進むと、竹林が一気に開けた場所に出た。

そこには、小さな祠が崩れた状態で転がっていた。

周囲には清野が祈りを捧げた形跡が残されていたが、彼の姿はどこにもない。


祠の内部には古い御札が散らばり、そこにも焦げ跡が見える。

俺はその御札を手に取り、細かく調べた。

「これは……術式の一部か」

御札には、魔水晶の封印と似た術式が書かれているが、完全なものではなく、一部が欠けていた。


この場所で清野が何を見たのか、そして彼がどこへ消えたのか。

祠と狐火の関係、そして魔水晶の消失――それらの謎が一つに結びつこうとしていた。


帰り道、竹林の中で再び奇妙な光が揺れるのを見た。

青白い狐火が風に舞うように漂い、まるで俺を導くかのように山の奥へと消えていった。

その光は、何かを告げようとしているのか、それともただ俺を惑わせているのか。


「狐火……神隠し……そして消えた参拝客」

呟く俺の声だけが、竹林の静寂に吸い込まれていく。


雅都の夜は再び深まりつつある。

闇に隠された真実を追い求め、俺は竹林を後にした。

この静寂の裏には、まだ見ぬ影が潜んでいる――その確信を胸に秘めながら。

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