第2話 初めての戦い

 俺が転生してから3日が経過した。

 

「おーい、鳥たちー。ごはんだぞー」


 俺は木に手を添え意識を集中した。すると、木の枝からブドウがひと房、にょきにょきと生える。


「ピピピピー!」


 木の枝に乗っていた数羽の鳥は、嬉しそうにブドウをついばみはじめた。


 ――とまあこんな感じで、俺は木から果物を生やして鳥にエサを与える……という毎日を繰り返している。鳥たちはこの木にいればエサを貰えると覚えたのか、木に巣を作って住み着き始めた。そして、果物を生み出しているのが俺である事を鳥たちはきちんと理解しているみたいだ。


 結果、俺は鳥たちの信仰を集め、信仰は現在【信仰度…24】にまで上昇した。そして信仰が上昇するにつれ、俺の神力も増していった。初めはサクランボを木に2、3個つけただけで神力が切れていたが、今はリンゴ程度の大きさの実を同時に20個はつける事ができる。どうやら、俺が知っている果物ならば自由に生み出す事が出来るようだ。


  神力については、【神力…17/24】という表示が視界の端に見える。これはつまり、神力の最大値が24で現在は7消費して17残ってるって事だな。信仰度が1増えると神力の最大値も1増える計算のようだ。


 おっ……そうこうしている間にもまた信仰が上がって【信仰度25】になった。よしよし、こうして地道に信仰を集めていけばさらに神力が増すだろう。そして神力が増せばもっと色々な事が出来るようになるはず。


 だが、俺のそんな明るい見通しに異議を唱えるかのように鳥たちが騒ぎ出した。


「ピピッ!」

「ピピピィ!」


 鳥たちは鳴き声を上げながら、一斉に木から飛び去っていく。


「ん?いったいどうした?」


 不思議に思い周囲を見回した瞬間。俺は、近くの岩陰から飛び出してきた生き物と目が合った。その生き物とは……赤茶けた皮膚を持つ爬虫類だ。


「グルゥゥ…」


 と呻くような鳴き声を上げるその爬虫類は、二足歩行で身長は1.5mほど。さらに、口元には鋭い歯が見える。


「うわ……なんか、どう見てもやばそうな奴……」


 恐竜映画でパニックを引き起こすタイプの小型恐竜にそっくりだ。異世界だから当然、俺の知らない生き物もいるとは思っていたが……3日目にしてこんな凶悪そうな奴と出くわすとは。


「ひとまず、逃げるべき……だよな?」


 俺は恐竜もどきから逃げようと足を動かしかけた。しかしその時、何かを訴えるような鳴き声が頭上から響く。


「ピィ!ピィィ!」


 ハッとなり、俺は背後の木に視線を向ける。そこでは巣に残ったトリが、卵を抱いて恐竜もどきを睨みつけていた。

 

「お前……巣に残された卵を守ってるのか?」


 ここで俺が逃げれば、このトリの卵は恐竜もどきに食べられてしまうだろう。


「くそ……仕方ないな」


 俺は足を止め、恐竜もどきと対峙する。ここで俺が逃げて卵が食べられてしまえば、もう鳥たちは帰ってこないかもしれない。そうなると信仰ゼロの状態からやり直しだ。それくらいなら……この恐竜もどきを撃退してやる。


「さあ、来い……!」


 とか言いつつ、俺は木に向かってジリジリと後ずさる。恐竜もどきはそんな俺を睨みつつ、ゆっくりとこちらに近付く。そして木の枝の下に入ってきたその時、「今だ…!」と俺は心の中で叫んだ。同時に、木の枝からトゲトゲの殻に覆われた果物が5個ほど落下する。そして、そのうちいくつかがゴンッ!ゴンッ!と音を立てて恐竜もどきの体に命中した。


 そう、恐竜もどきが近付いて来るのに合わせて果実を作り、それを奴の上に落としたって訳だ。


「グッ……」


 恐竜もどきは小さな声を上げたが、ダメージは殆どない様子。しかし、俺の狙いはダメージを与える事じゃない。


「ギャッ!」


 突如、恐竜もどきは呻き声を上げた。その理由は……匂いだ。トカゲの周囲には異様な匂いが充満していた。匂いの元は、先ほど俺が落とした果実。あのトゲ付きの果実は、地面に落ちてパッカリと割れ、その果肉を剥き出しにしていた。


「どうだ?ドリアンの匂いは?」


 俺が生み出したのは――世界一臭いと言われる果実、ドリアンだ。この世界の生物にとって初めて嗅ぐ匂い。さぞかし強烈だろう。


「まだまだ行くぜ……俺の神力が尽きるまで、ドリアンを生み出し続けてやる!必殺、無限なる強烈臭果実暴風雨アンリミテッド・ドリアン・ストーム!」


 俺は大袈裟な技名を叫びながらドリアンを生み出し、ボトボトと地面に落下させていく。そのたびに充満する強烈な悪臭。


「グゲッ!」


 恐竜もどきはその匂いに耐え切れず、文字通り尻尾を撒いて逃げ出した。よし、ドリアン作戦成功だ!


「って、喜んだはいいものの……」


 俺は、自分の鼻をつまみながら辺りに散乱したドリアンを見回す。ちょっとドリアンをまき散らし過ぎたか……?この匂いを嫌って、しばらくは鳥たちも近寄って来ないんじゃないだろうか。


 だが、俺のそんな考えは杞憂だった。


「ピピッ!」


 恐竜もどきがいなくなると、鳥たちはすぐさま羽ばたいて戻って来た。ひょっとして鳥にとっては、この匂いも大して不快なものじゃないのか?ん?いや、それよりも……!


「信仰度が……変化してる?」


 俺は、視界の端に映る文字を見て驚いた。いつの間にか信仰が【信仰度…53】に増えている。え?さっきまで25だったよな?25から53って、いっきに倍以上に増えた?どういう事だ?


「ピピピィ!」

「ピィーヨピヨッ」


 鳥たちが俺の枝の上で歌うように鳴いている。そして、そのうちの一羽が俺の肩に舞い降りてきて……すりすりと頬ずりまでしてきた。


「ひょっとして、俺がさっきの恐竜もどきを追い払った事を理解してる……のか?」


 あの恐竜もどきは、この鳥にとって天敵だったのだろう。俺がそれを追い払ったから、鳥たちの俺に対する『信仰』が増えた。そう考えれば、信仰度が急激に上昇したのも納得できる。


 なるほど……信仰度について、徐々に分かってきたぞ。



 現在の信仰度…53

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