少年神転生~神になったので、仲間と一緒に楽しく国造りします~

月下散人

第1話 前前前前世から俺は

 俺の名前は神崎真一郎かみさきしんいちろう。とくにこれと言った特徴のない、会社と家を往復するだけの毎日を送るサラリーマンだ。


 その日も俺は、いつも通り会社からの帰り道を歩いていた。いつもと同じ横断歩道を、いつものように進む。ただひとつだけ特別な事があるとすれば、今日が俺の30歳の誕生日だって事くらいか。


「はあ……ついに30歳になっちゃったな……」


 そんな事を呟いた瞬間、俺は気が付いた。横合いから車のヘッドライト凄まじい速度で迫って来ている事に。その車は、赤信号だというのにスピードを緩める気配もない。居眠り運転だろうか。


 ――マジかよ!


 と、後ろに飛び退こうとして……前方で呆然と立ち尽くす少女の姿が俺の目に映った。おそらく女子高生と思われる彼女は、止まる気配のない車を見つめて呆然と立ち尽くしていた。突然の出来事に頭がフリーズしているのだろう。


「危ない……!」


 叫ぶと同時に、俺は彼女の腕を掴んでいた。そしてその体を俺の後ろにまで引っ張る。間一髪の所で彼女の体は車との接触を回避した。


 そう認識したその時、俺は自身の肉体に強い衝撃を感じていた。つまりまあ、あの女性を助けた代わりに俺が車にかれてしまったという訳だ。俺をいた車は、なかなかにゴツイ外車だった。スピードも出ていた。


 ――死んだな。


 俺は、車に跳ね飛ばされながらそう確信した。


 ああ……つまらない人生だった。いわゆる社畜として働き続けるだけの日々。恋人だって出来た事はない。色々とやりたい事はあったけど……仕事に追われる毎日で、そんな余裕もなかった。こんな事ならもっとやりたい事をやっておけば良かった。


 死んだ俺は、真っ暗な視界の中でそんな事を考えていた。


 ……ん?死んだ後なのに考える?いや、おかしいだろ。死んだら考える事すら出来なくなるはずじゃないのか?そんな事を思っていると、不意に頭の中に声が響く。


神崎真一郎かみさきしんいちろう……聞こえますか?〕


 え?だ、誰?


〔私は女神、咲耶姫サクヤヒメ。あなたはこれから異世界に転生します。その事を伝えるためにこうしてあなたに語りかけています〕


 おお。異世界に転生……マジか。本当にあるのか、そんな事が。もっとも、瀕死の重傷を負った俺が幻聴を聞いているだけという線も捨てきれないが。


〔幻聴などではありません〕


 やばい、心を読まれた。


〔そもそも、あなたが転生するのは今回が初めてではないのですよ。神崎真一郎かみさきしんいちろう……あなたにとって、次は記念すべき100回目の転生となります〕


 え?いやいや、何をおっしゃられているんですか、女神様。100回目の転生とか、ちょっと意味が分からないんですけど。


〔この世界に生きる者の多くは幾度いくどもの転生を繰り返しています。あなたもそのひとり。しかし、前世の記憶を持っていないのでそれを知らないだけなのです〕


 はあ……まあ、そういう話、聞いた事ありますけど。ちなみに、俺の前世はどんな感じだったんですか?


〔あなたの前世は昭和の時代を生きたサラリーマンでした。その時のあなたは働き過ぎて、過労のために死にました〕


 その前世の俺には、奥さんとかいたんですか?


〔いいえ、いませんでした。一度も異性と付き合う事無く死にました。さらにそのひとつ前の前世のあなたは、大正時代の職人でした。その時は、病にかかり若くして死にました。異性と付き合った経験はありませんでした。農民や侍だった事もありましたが、その時も女性とは縁がなく……〕


 い、いや、いいです!もういいです!前前前世からずっと異性に縁がないじゃないか、俺……。


〔その通りです。あなたは前前前前前前前前前前前前前前前前前世からずっと異性と付き合った経験がりませんでした。これまで繰り返した99回の転生……その全てであなたは女性と付き合う事無く生涯を終えたのです〕


 衝撃の事実。なんだよ、99回転生してずっと女っけなしって……。


〔ちなみに、転生を繰り返したあなたが生きた時間の総計は……今日でちょうど、三千年になります〕


 ふむ。一度の転生で生きた時間が約30年。それを100回過ごして三千年……か。なんだか、一回一回の人生が短い気もするが……。


〔あなたは運もありませんでしたから、早死にする事も多かったのです〕


 そうですか……なんだかへこむなあ。


〔あなた達の間では、三十年間女性と付き合わなかった者は魔法使いになれる……という言い伝えがあるそうですね〕


 ああ、30歳まで童貞だったら魔法使いになるって奴ですね。言い伝えというか、都市伝説というか……。


〔それは嘘です〕


 はい、知ってますよそんな事くらい。


〔正確には、三千年間異性と付き合わなかった者は神になれるのです〕


 え……?


〔そして転生を繰り返し、三千年の間女性と縁のなかったあなたの魂は神へと至りました〕


 あの、えっと、どういう事ですか?


〔さあ、転生が完了しました。目を見開いて、あなたの生まれ変わった世界をご覧になってください〕


 次の瞬間、真っ暗だった俺の視界に突如光が差した。


「ここは……?」


 気が付くと俺は、見慣れぬ場所に立っていた。太陽が落ちかかっている所を見るに、時刻は夕刻。辺りには乾いた土と岩が転がるばかり。どことなく寂しい光景だ。


「ここが……俺の転生した世界……?」


〔その通りです。後ろを振り返ってみてください〕


 その言葉に従い、俺は後ろを振り返ってみた。


 そこにはこの場に似つかわしくないものがあった。それは、小さな神社だ。鳥居がひとつと、本殿がひとつ。さらにその横に一本の木が立っていて、その近くからは泉が湧き出している。


「神社……?」


 俺は神社の方へ足を進める。その時、ふと足元の泉に視線を落とした。そして……俺は、泉に映っている自分の姿を見て驚愕した。


「え……誰、この美少年……?」


 泉に映っていたのは、純白の着物を身に付けた美少年だ。一見すると少女のように長い黒髪に、可愛らしい大きな瞳。絶世の美少年としか形容しようがない完璧な容姿。


「ひょっとしてこれ、俺……?」


〔はい。それが神として生まれ変わったあなたの姿です〕


「どうして少年に?あの、ひょっとして咲耶姫サクヤヒメさんってショタコンなんですか?」


〔それでは話を戻しましょう〕


 あ、無視された。


〔あなたの目の前にあるこの神社は、あなたの『神域しんいき』の中心地です〕


「神域、ですか……?」


〔その通り。神であるあなたは、この『神域』内であれば神の力を使用する事が出来ます。試しに、その木に手を当ててみてください〕


「こうですか……?」


 俺は社殿の横に立つ木の幹に手を添えてみる。


〔それでは、その木に果物がみのるように念じてください〕


「分かりました」


 俺は言われるがままに念じてみた。果物、みのれー!


 すると、木の枝から小さなサクランボがぴょこんとひとつ生えてきた。


「おおっ……!」


 凄い!……けど神の力って言う割にはちょっと地味な気も……。


〔地味な力しか使えないのは当然です。何しろあなたは神になったばかりなのですから。しかし、神の力である『神力しんりき』を高めればもっと強大な能力が使用できるようになりますよ〕


「どうやったら、その神力しんりきを強くする事が出来るんですか?」


〔神の力のみなもと。それは、『信仰』です。あなたの力は信仰を集める事により強大になります。『神域』もまた、信仰に応じて広くなっていきます〕


「信仰……」


〔さて、これで私から説明出来る事は以上です〕


「え、もう終わりですか?出来れば信仰を集める方法を教えて貰いたいんですけど……」


〔その方法は自ら見つけ出してください。本当はもっと色々と助言してあげたいのですが……。本来、私はあなたに干渉する事は許されていません。これでも世界の法則を捻じ曲げ、なんとかあなたに語り掛けているのです〕


「そうなんですか……?」


〔ええ。あなたからしてみれば中途半端な説明だなという感じかもしれませんが……〕


「そんな事思ってないですよ。説明してくれてありがとうございます」


〔それでは……私からの干渉はこれまでです。あなたの100度目の生に、幸あらん事を〕


 その言葉を最後に、咲耶姫サクヤヒメさんの声は聞こえなくなった。こうして――俺の異世界での神としての生活はスタートした。



「しっかし、まさか俺が転生するとはな……」


 俺は、泉に映った自分の姿をしげしげと見つめながら呟いた。こうして自分の体を見ていると、生まれ変わったんだなあという実感が込み上げてくる。


「色々思う所はあるけど……まあ、こうなった以上はこの異世界での生活を楽しむしかないよな」


 前世での俺には色々とやってみたい事があった。例えば物作りに挑戦してみるとか、スローライフ的な生活を送るとか。だけど世の中の多くのサラリーマンがそうであるように、時間に追われて、そういった事に手を出す暇なんてなかった。だけど、この異世界でなら前世では出来なかった事を色々と実行できるかもしれない。


「けどまあ、まずは信仰ってのをある程度集めておいた方がいいんだろうな」


 信仰を集めれば神力が高まる。そして、神力が高まれば出来る事が増えると咲耶姫サクヤヒメさんは言っていた。ある程度信仰を集めておいて損はないだろう。


「よし、信仰を集めるとするか」


 そう宣言して――俺は、改めて辺りを見回してみた。辺りにあるのは荒地、荒地、荒地、岩山、岩山、岩山。それだけ。


「――って、こんな場所で信仰を集めろってどうすればいいんだよ!?」


 俺は呆然と立ち尽くした。今俺がいるのは、とても人間が訪れそうにない荒地だ。こんな場所で信仰を集めるとか無理ゲーじゃないか!?


 そんな俺の絶望に返事を返すかのように、


「チチチッ……!」


 という鳴き声が頭上から降りて来た。スズメ……に似た小さな鳥だ。その鳥は本殿の横に生えている木に止まると、さっき俺が生み出したサクランボをついばみ始める。


「ピピピッ!」


 鳥は嬉しそうな声で鳴く。その瞬間、俺はほんの僅かだけれど自分の体に力が流れ込んで来るのを感じた。


「なんだ……?」


 突如視界の端に、【信仰度上昇】という文字が出現した。さらに、【信仰度…1】という表示も現れる。


「なんだ、これ……」


 えっと……この鳥がサクランボを食べた後に俺の【信仰度】って奴が上昇したんだよな?ひょっとして俺、鳥に信仰されたって事……?信仰って人だけじゃなくて鳥もアリなのか?



 現在の信仰度…1

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