第3話 女剣士

 この世界に転生して7日が経過した。その間に分かった事がひとつ。それは、俺は眠らなくても食べ物を食べなくても生きていけるという事だ。やはり神だけあって、睡眠や食事が必須という訳ではないらしい。ただ、眠らなかったり長い間食べ物を食べないと神力の回復が遅くなる事も分かってきた。だから俺は、基本的に睡眠と食事はきちんと取るようにしている。


 そして今現在、俺の信仰は【信仰度…115】にまで上昇している。俺の回りには、鳥だけじゃなくリスなんかも木の実を食べるために近寄るようになってきた。なかなか順調な感じだ。


「と思ってたら、またか……」


 木の根元でくつろいでいた俺は、こちらに近付いてくる恐竜もどきを発見した。しかも、今度は3匹だ。


「悪いけど、今日も帰って貰うよ」


 俺は木に手を添え、トゲ付きの果実を生み出した。そしてそれを、ボトン、ボトン、ボトンと落と落としていく。


「ギャギッ!」


 トカゲ達は匂いを嫌がってすぐさま逃げ去っていく。


「ふふふ、あっけない……他にも対策を用意していたんだが使うまでもなかったな」


 そして、ここからが神力の増えた俺の本領発揮だ。


 今までは、ドリアンを落とした場合はしばらくの間その匂いが辺りに充満していた。だけど、今は違う。今回俺の落としたドリアンは、ものの数分でその匂いを消した。そうなるように俺が品種改良したためだ。


 この10日間、俺は果実を生み出す際に色々と試行錯誤を繰り返していた。例えば、もっと大きな果実が出来ないかとかもっと味のいいものが出来ないか……などだ。その結果、果実を生み出す際に神力の込め方を微妙に変化させる事で果実の味や大きさ、匂いなどを変化させる事が可能だと発見した。この、『殻が割れた瞬間には強烈な匂いを発するけど、すぐに匂いが薄れるドリアン』も、その結果生み出された果実のひとつだ。


「お、さっそく来たな。よーしよし、よく食べろよ」


 悪臭の消えたドリアンにリス達が集まってきた。こいつらはドリアンが好物らしく、一生懸命その果肉を頬袋に詰め込んでいく。


「ふふ、可愛いなあ。あー……なんか癒される……」


 前世の俺にはこうやって動物とのんびり過ごす時間なんてなかった。平日は会社と家を往復するだけで終わり、休日は疲れて寝ているだけの毎日。


「こうやって、動物達とのんびり暮らすってのも……悪くないな」


 俺は、リスに手を伸ばす。警戒心が薄いのか、それとも俺の事を信用しているのか、リスは俺の掌にちょこんと乗っかってきた……その時だ。「グアアアア!」という獣の唸り声が辺りに鳴り響いた。その音に驚いて、せっかく俺の手に乗ったリスが逃げ去ってしまう。


「なんだ……!?」


 俺は唸り声のした方を見る。そこは俺のいる位置から30m程離れた場所で、人の背丈より大きな岩がいくつか転がっている所だった。そしてその岩の影から……突然人が飛び出してきた。


「人間!?」


 俺の視界に入って来たのは、美しい白金プラチナ色の髪を腰まで伸ばした女性だ。年齢は……20歳前後だろうか。透き通るような蒼い瞳に、凛とした表情。遠くにいてもその整った顔立ちがよく分かる。手には剣を持ち、皮と布で出来た動きやすそうな服装を身に付けている。何にしても、この世界に来て俺が初めて遭遇する人間だ。言葉が通じるかどうか分からないが、とにかく俺は彼女との意思疎通を図る事にする。


「おーい!」


 俺は彼女に向かって呼びかける。だがその瞬間、俺の声を掻き消すようにまたもや「ブォオオオ!」という唸り声という音が鳴り響く。そして岩を体当たりで砕きながら、巨大な黒い生き物が現われた。


「なんっ……だ、あれ……」


 その生き物の身長は、ゆうに2mを超えていた。全身が黒い毛に覆われ、一見すると熊に見える。だがその顔は牛。しかも、牛なのに牙が生えてその手には鋭い爪も見える。


「ブォオオ!オオ!」


 その牛だか熊だか分からない化物は、雄叫びを上げ女性に突進する。


「くっ…!」


 女性は、軽い身のこなしで攻撃を回避。化物は続けて手の爪を突き出して来たが、それも回避。女性は、まるで蝶のような身のこなしで化物の攻撃を次々に回避していく。しかし、疲れているのか女性は時折よろめくような動作を見せる。まずい、このままだと……!


「おい、そこの牛!いや、熊か?どっちでもいい!……こっちだ!」


 俺は叫ぶと同時に木に手を添え、リンゴ形の実を5個ほど生み出し地面に落とす。すると、落下した衝撃で実が割れて辺りに芳醇な香りが漂った。


「ゴオ…!?」


 化物は芳醇な臭いに釣られてこちらへ視線を向ける。そして、女性よりもこちらの方が重要と判断したのか実へと向かって近付いてきた。


「よし……さあ、こっちに来い」


 俺が生み出したのは、『いい匂い』に特化した果実だ。色々な果実を作る過程でたまたま生まれたものだけど、この果実が発する臭いは動物達にとって魅力的なものらしく、この匂いを嗅いだ生き物は思わず釣られてしまう。


 化物は一瞬だけ俺を見たが、すぐに興味を失ったのか果実に齧りついた。バリバリと音を立て、果実を次々に咀嚼していく。だが、その動きが動きが徐々に鈍くなり……。


「グア……」


 最終的に、化物は目を閉じて眠りに落ちた。


「ふふ、どうだ?『白雪姫』の味は?」


 俺はにっと微笑んだ。


 そう……このいい匂いのするリンゴ形の果物、実は強烈な睡眠作用がある。以前試しに恐竜もどきにひと口食べさせた時は、丸一日起きる事がなかった。とても美味しそうだが食べると眠ってしまう果実、という事で俺はこの実を『白雪姫』と名付けた。


「これだけ食べれば、しばらくは起き上がって来ないだろう……」


 俺がそう安堵したその時、


「ガッ……ア……ガアアア!」


 眠気を振り払うかのように雄叫びを上げ、化物が立ち上がった。


「ま、マジですか……!?」


 この化物、どうやら恐竜もどきとは格が違うようだ。ブルブルと頭を振った後、怒りに燃える瞳で俺を睨みつける。まずい、俺が『白雪姫』で眠らせようとした事を直感的に察知したようだ。


「いやいやちょっとタンマ、ストップ!やめようよ、争いはさ……!ほら、争いのない世界を想像してごらん……ねえ、とても素敵だとは思わないかい……?」


 だが、俺の語りかけるラブ&ピースの精神は目の前の彼には通用しなかった。化物は、怒りの形相で俺に向かって腕を振り上げる。まずい、逃げられない……!俺は死を覚悟した。だが、その時……。


 ――キン、という、金属が何かを断ち切る音が響いた。


 そして次の瞬間、化物の首が胴体から離れ、宙を舞う。さらに一拍遅れ、その巨体はどすん……という音を立てて地面に崩れ落ちる。


「君、大丈夫かい!?」


 そんな言葉と共に化物の向こうから現れたのは……先ほど化物に追われていた白金プラチナ色の髪の女性。その手に持つ剣は、銀色に輝いている。どうやらこの剣で化物の首を斬り飛ばしたようだ。


 信じられない。あの化物のゴツイ首を、一撃で断ち切るなんて。


「ああ、良かった……無事みたいだね」


 俺が呆然と女性を見上げていると、彼女は安堵した表情で剣を鞘に収める。そして、しなやかな腕と豊満な胸で俺の体をぎゅうっと抱きしめた。

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少年神転生~神になったので、仲間と一緒に楽しく国造りします~ 月下散人 @GEKKASANJIN

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