第2話:レイン・アクスター②
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……つ、疲れたぁぁ~!」
そう口にした俺は、何もないように見えて床がある地面へ大の字に倒れ込んだ。
七英雄に弟子入りしてからというもの、毎日のように訓練を行っては、こうして大の字に倒れ込んでいる。
それは燻煙の厳しさから、どうしてもそうなってしまうのだ。
「だけど、一人でがむしゃらに訓練をしていた時に比べると、充実感が違うかな」
何も分からずに訓練を行っていた昔とは違い、今は明確な師匠がいて、指導内容もはっきりとしている。
それだけで俺のやる気は満ち溢れており、どれだけ厳しい訓練であっても耐えられると思っていた。
「まだ休んでいたのか?」
そこへ声を掛けてきたのはゼルディス様――ではなく、七英雄の一人だ。
「おはようございます、アルフォンス様」
魔導の英雄アルフォンス。
彼もまた歴史に名を刻んだ人物であり、卓越した魔法を使って暗黒竜封印に貢献した一人である。
俺は挨拶をしながら勢いよく立ち上がった。
「……まあいい。今日も始めるぞ」
「はい! よろしくお願いします!」
七英雄の呼び名はそれぞれで決まっている。
希望の英雄ゼルディス。魔導の英雄アルフォンス。癒しの英雄フェルミナ。武道の英雄ヴォン・ヴァン。長弓の英雄エリティア。錬金の英雄エリクシル。鍛冶の英雄ヴォルグ。
彼らを総称して七英雄と呼ばれているが、それを知るものはこの中だとエリクシル様とヴォルグ様だけだろう。
何せ残りの五人は、暗黒竜封印に伴い、その場で命を落としたと言われているからだ。
それが真実なのか否かを聞きたい気持ちもあったが、今の俺にそんな質問をしている時間はない。
次元の狭間での貴重な時間を修行に充てたいと考えているからだ。
七英雄との修行は、本当に厳しいものだった。
肉体的にも、精神的にも、限界ギリギリのところまで訓練を行い、そのたびにぶっ倒れている。
それもまた心地よいと感じられるのは、俺が手応えを感じられているからだろう。
次元の狭間で、七英雄唯一の弟子となって、俺はどれだけ強くなることができるのだろうか。
それもこれも、俺の努力次第なのだから、頑張り甲斐も出てくるというものだ。
そんなことを考えながら俺は、今日も厳しい修行に精を出していく。
こうして年月が流れること――五年。
次元の狭間での時間の流れを考えると、三〇〇年になるのだろうか。
言葉だけを聞くと、とてつもなく長い年月が過ぎたように感じられるが、実際に修行をしている俺からすると、三〇〇年もあっという間に過ぎていった。
「七英雄の皆様……いいえ、師匠方、本当にお世話になりました!」
そうお礼を口にしながら、俺は勢いよく頭を下げた。
「現実世界で五年か。あっという間だったな」
「まだまだ教え足りないが、及第点といったところだろうな」
ゼルディス様が感慨深く口にすると、その横でアルフォンス様から厳しい意見が飛び出す。
「あなたは厳し過ぎるのよ、アルフォンス」
「がはは! 違いねぇな!」
「長弓は免許皆伝! 問題なしだからね!」
そこへフェルミナ様、ヴォン様、エリティア様が順番に声を掛けてくれた。
「わたくしたちが分担していた作業を一人で……本当に素晴らしいわ、レイン」
「俺の頼みも聞いてくれるって言うし、助かるぜ!」
次にエリクシル様とヴォルグ様からも言葉を貰った。
「現実に戻った俺が全てを成すことができるかは正直分かりません。ですが、俺にできる全力を注いでいきたいと思います」
「その意気だ! だが、無茶だけはするなよ。俺たちのように、死んでしまったら元も子もないからな」
俺が決意を口にすると、ゼルディス様が柔和な笑みを浮かべながらそう口にした。
「……はい。ありがとうございます」
もう一度お礼を口にすると、直後には体から眩い光が放たれ始める。
「これは?」
「レインの意識が現実の体に戻ろうとしているんだ」
「……これで、お別れなんですね」
寂しそうに言うと、ゼルディス様の大きな手が俺の頭に乗せられる。
「安心しろ。俺たちは次元の狭間から、レインの活躍を見守っているさ」
「及第点だが、現実世界では唯一無二の実力だろうからな」
「私の癒しが必要になる場面はない方がいいですけど、頑張ってね」
「嫌な奴がいたらぶん殴ればいいんだ!」
「遠くから弓で射貫いてもいいわと思うわよ!」
「全く。皆さん、荒々しいわよ」
「それくらいの意気じゃなきゃ、やってられんわな!」
七英雄から、師匠方から言葉を貰い、俺は瞳に溜まり始めていた涙を拭う。
「見ていてください! 俺は絶対に、師匠方の無念を晴らしてみせます!」
そして、そう宣言した俺の意識は、次元の狭間から消滅した。
◆◇◆◇
「――…………ぅ、ぅぅん」
現実世界で目を覚ました俺は、ぼやける視界が徐々に鮮明になっていく感覚を覚える。
「……戻って、来たんだな」
そう呟きながら腕を動かそうとしたのだが……。
「あれ? 動かない……っていうか、重い?」
腕だけじゃなく、全身が重く感じてしまう。
なんとか首だけを横に向け、右腕が見える位置に顔を持っていく。
「…………がりっがりじゃないか、俺の体」
五年もの間でベッドに寝たきりだった俺の体はやせ細り、一人では立てないほど弱々しいものになっていた。
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