8 黒い手袋の真実

空気には湿り気が混じり、冷たい風が壁を叩く音が街中に反響する。

だが、その静寂の中で、目に見えぬ陰謀が着実に形を成していた。


黒い手袋の倉庫で手に入れた魔石――それはただの盗品ではなかった。

その濃密な魔力は異常で、まるで自ら意志を持つかのように脈動していた。

俺はこの魔石の本質を確かめるべく、情報をさらに深く掘り下げる必要があった。


夜更け、俺は再び情報屋サロの元を訪れた。

彼の小屋は、相変わらず薄汚れた明かりに照らされ、壁には無造作に掛けられた武器や魔法具が影を作っていた。

サロは俺を見るなり、わざとらしい笑みを浮かべながら言った。

「また来たか。一条。どうやら深みにハマりすぎたようだな」


俺はポケットから魔石を取り出し、机の上に静かに置いた。

その瞬間、サロの目が一瞬見開かれたが、すぐに冷静さを取り戻し、煙草に火をつけた。


「これは……黒い手袋が扱うような代物じゃない。もっとヤバいものだ」

彼の声は低く、どこか恐怖が滲んでいた。


「ヤバい、とは具体的に?」

俺が問いかけると、サロは煙を吐き出しながら答えた。

「その魔石には何かが封じられている。だが、それが何なのかは俺も知らない。ただ、この街の影に潜む者たちなら、答えを知っているかもしれないな」


「影に潜む者たち?」

俺が問い返すと、彼は苦笑しながら言葉を続けた。

「黒い手袋の本当の支配者たちだ。奴らの手が届かない場所なんて、この街にはない。お前がその真相を知りたければ……地下の『闇会合』を探せ」


闇会合――それは黒い手袋の中枢が集う秘密の集会だという。

サロから得た手がかりを元に、俺はその場所を特定するために動き始めた。

場所はアルダナ市の下水道――街の底に広がる迷宮のような暗渠の奥深くにあるという。


下水道の入口は、薄暗い路地裏にひっそりと隠されていた。

腐敗した臭いが鼻を刺し、壁に張り付いた苔が湿っぽい冷気を放っている。

俺は慎重に足を踏み入れ、闇の中を進んだ。


石造りの壁に沿って進むと、やがて奥から微かな光が漏れているのが見えた。

その光は、まるで誘うかのように揺らめきながら、俺を導いていた。

だが、その先にあるのは、ただの光ではなかった。


開けた空間に足を踏み入れると、そこには黒いローブをまとった複数の影が集まっていた。

彼らは中央に据えられた魔石を囲み、何か呪文を唱えているようだった。

その魔石から放たれる赤黒い光は、異様な魔力を放ち、空間全体を歪ませていた。


「おや……客人とは珍しい」

奥から現れたのは、黒い手袋の幹部らしき男だった。

彼の声は冷たく、薄笑いを浮かべた顔には、計り知れない狂気が潜んでいるようだった。


「その魔石……ただの盗品じゃないな」

俺が静かに言うと、彼は笑みを深めながら答えた。

「よく分かったな。これはただの魔石ではない。この中には封じられた古代の力が宿っているのだ」


その言葉に、俺は霊刃の柄を握り締めた。

「古代の力……お前たちの計画は、それを解放することか?」

「そうとも。だが、君には関係ない。ここで終わりにしてもらおうか」


幹部が手を振ると、周囲のローブをまとった者たちが一斉に俺に向かって動き出した。

その動きはまるで操られているかのように無機質で、だが正確だった。


俺は黒炎の霊刃を引き抜き、一撃で彼らを退けながら中央へと突き進む。

だが、魔石の放つ魔力は強大で、空間そのものが俺の進路を阻むように歪んでいく。


幹部は薄笑いを浮かべながら、呪文を唱え続けていた。

「力を解放せよ……」

その声が響くたび、魔石の輝きは強まり、周囲に嵐のような魔力の波が吹き荒れた。


俺はその波を切り裂き、幹部の前に立ちはだかった。

「ここで止める!」

霊刃を振り下ろすと、魔石を囲む魔法陣が粉々に砕けた。

その瞬間、魔石の輝きが消え、幹部の体から力が抜け落ちた。


静寂が訪れた空間で、俺は魔石を手にし、つぶやいた。

「封じられた力……これは、まだ終わりじゃない」


霧のように立ち込める魔力の残滓を背に、俺は再び闇の中を歩き出した。

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