7 さらなる闇 - 「黒い手袋」の足音

ガルドルを退けたことで、一つの謎は解けた。

だが、その背後に潜む存在――「黒い手袋」と呼ばれる密売組織の足跡が、俺の前に新たな闇を描き出していた。

魔石の行方を追うためには、奴らの中心に潜り込むしかない。

俺は街の外れにある暗い路地へと向かっていた。


その路地裏は、霧と腐臭が漂う異世界のような場所だった。

崩れかけた建物の壁に、手書きの奇妙な印が描かれ、行き交う人々の影は、どれも何かを隠しているように見える。

俺はその中で、唯一の手がかりとなる情報屋の名前を思い浮かべた。


彼の名は「サロ」。

闇市場で長年生き延びてきた男で、その顔には深い傷跡が刻まれていた。

俺が指定された場所に到着すると、古びた小屋の中で彼は待っていた。

彼の周囲には錆びた武器と古い魔法道具が雑然と並び、そのどれもが過去の血なまぐさい歴史を語っているようだった。


「久しいな、一条。だが、今夜は随分と厄介なものを追いかけているらしいな」

サロの声は乾いており、その目には狡猾な光が宿っていた。


「黒い手袋のことを知りたい。特に、最近の動きについてだ」

俺が静かに言うと、彼は煙草をくわえながら冷笑を浮かべた。


「黒い手袋……いいだろう。ただし、情報には代価が必要だ」

サロの目が鋭く俺を見据える。

その目の奥には、何かもっと深い企みがあるように見えた。


サロから得た情報は、黒い手袋が街の南にある廃倉庫を拠点にしているというものだった。

だが、そこはただの倉庫ではなく、周囲には強力な魔法陣が張り巡らされ、侵入者を拒む仕掛けが施されているという。

俺はその情報を胸に、廃倉庫へと向かった。


倉庫は薄暗い街の端にひっそりと佇んでいた。

建物の壁はひび割れ、崩れかけた窓からは風が入り込むたびに不気味な音を立てる。

だが、その静寂の中に隠された魔力の気配は、容易には見逃せない。


俺は壁に刻まれた魔法陣を指先でなぞった。

その感触は冷たく、嫌な抵抗感を伴うものだった。

「……相当な防御を施しているな」

その言葉をつぶやくと同時に、倉庫の扉がギシリと音を立てた。


中に足を踏み入れると、赤黒い灯りが天井からぶら下がり、薄暗い光が倉庫内を照らしていた。

床には魔法陣が幾重にも描かれ、中央にはいくつもの箱が乱雑に積み上げられている。

箱の隙間から漏れる魔力の気配――それは明らかに魔石に関するものだった。


だが、その瞬間。

「侵入者だ!」

鋭い声が倉庫内に響き、闇の中から複数の影が現れた。

黒いローブをまとった男たち――黒い手袋の構成員たちが、俺に武器を構えて近づいてくる。


「おいおい、歓迎が随分と派手だな」

俺は肩をすくめながら黒炎の霊刃を引き抜いた。

「だが、俺の手はあんまり器用じゃない。あんたらの相手をしながら、魔石の確認をする時間はないぞ」


男たちは無言のまま襲いかかってきた。

その動きは無駄がなく、明らかに訓練されたものだった。

だが、俺にとっては問題ではない。


黒炎の刃が闇を切り裂き、一人また一人と倒れていく。

だが、戦いの最中、俺の背後で小さな音がした。

振り返ると、残りの一人が箱を抱え、倉庫の奥にある秘密の扉へと逃げ込もうとしていた。


「逃がすわけにはいかない」

俺は素早く動き、霊刃の先端から放たれる黒炎を彼の足元に叩きつけた。

扉の前で倒れた男は、箱を手放し、その中から一つの魔石が転がり出た。


その魔石は、不気味な光を放ちながら、俺の足元で静かに輝いていた。

手に取ると、その魔力の濃密さに圧倒される。

「これは……ただの魔石じゃない。何かが秘められている」


俺は魔石を手にしながら、倉庫の外へと歩き出した。

闇に沈む街並みを見渡しながら、静かにつぶやく。

「黒い手袋……まだ何か隠しているな」


その声は霧の中に吸い込まれ、消えていった。

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