6 魔導師ギルドの暗部

魔導師ギルドの塔は、不吉な影を背負い、まるで目に見えぬ何かを訴えかけるようにそびえ立っていた。


その奥深く、地下の最も暗い場所にあるという「秘密の研究室」。

そこには、この事件の鍵となる真実が隠されている――そう確信した俺は、冷たい階段を静かに下りていった。


階段を降り切ると、重厚な鉄扉が俺を迎えた。

扉には古びた魔法陣が刻まれ、その中心からはかすかに赤黒い光が漏れている。

その光は、まるで扉の向こう側から何かがこちらを見つめ、囁いているかのようだった。


俺は扉を押し開けると、一瞬、空気が震えたような感覚を覚えた。

その先には、闇と魔力が絡み合う異様な空間が広がっていた。

壁には無数の古代魔法の文字が刻まれ、黒いロウソクが燭台に並び、その揺れる炎が部屋全体を不気味に照らしている。

部屋の中央にそびえる台座の上には――赤黒く輝くダイヤモンドの魔石が鎮座していた。


その魔石は、まるで生きているかのように脈動していた。

その不気味な輝きが空間を歪ませ、冷たい風が俺の外套を撫でる。

「……これは、ただの魔石じゃない」

俺は静かにそうつぶやき、魔石に向かって一歩を踏み出した。


その瞬間、背後から冷たい声が響いた。

「足を止めろ、一条零」


振り返ると、そこにはギルド長ガルドルが立っていた。

だが、以前の彼とはどこか違っていた。

その瞳には人間らしい温度はなく、赤黒い輝きが宿り、口元には薄く歪んだ笑みが浮かんでいた。


「ようやくここまで来たか。君のような優れた調査人が、この秘密に辿り着くのは当然のことだな」

ガルドルの声は、冷たさと同時に奇妙な興奮に満ちていた。


「ガルドル……これは一体どういうことだ?」

俺が問いかけると、彼は台座の魔石に手をかざしながら答えた。

「これは救済だ。この魔石の力を完全に解放すれば、この世界は新たな秩序を手に入れる」

彼の声は、狂気と崇高な使命感の入り混じったもので、その言葉に一瞬の迷いすら感じられなかった。


ガルドルが呪文を唱え始めると、魔石がさらに強く輝き出した。

部屋全体がその輝きに染まり、壁に刻まれた魔法の文字が一斉に光を放ち始めた。

その光景は美しくも恐ろしい。

まるで世界そのものが、この一室を中心に変わろうとしているかのようだった。


「この力を前に、君のような人間に何ができる?」

ガルドルは不敵な笑みを浮かべ、魔法の力を俺に向かって放った。

その一撃は空気を切り裂き、床に深い亀裂を刻んだ。


俺は黒炎の霊刃を引き抜き、冷静にその動きを見極める。

「力に溺れた者の末路は、歴史が語っているはずだ。お前もその一人になるつもりか?」

俺の言葉に、彼は哄笑を響かせた。

「君に何が分かる?力を手にした者こそが世界を変えるのだ!」


部屋の隅に目をやると、魔石を制御する装置が見えた。

それを破壊すれば、この異常な魔力の流れを止められるはずだ。

だが、ガルドルもそれに気づいたようだった。


「それに触れさせるわけにはいかない!」

彼の手から放たれた魔法が制御装置を守るように光の壁を作り出す。

だが、俺はそれを無視して突き進み、霊刃を振り下ろした。

黒炎の力が光の壁を切り裂き、装置を一刀両断する。


その瞬間、魔石の輝きが一気に失われ、部屋全体に満ちていた魔力が霧のように消え去った。

赤黒い魔石は沈黙し、ただの冷たい石塊へと戻っていった。


膝をついたガルドルは、憔悴しきった表情を浮かべていた。

俺は霊刃を収め、彼を見下ろしながら静かに言葉を放った。

「お前の計画はここで終わりだ。だが、この背後にいる者はまだ消えていない」


ガルドルは悔しげに唇を噛み、かすれた声で呟いた。

「……お前は何も知らない……この世界の真の危機を……」


俺は答えず、その場を立ち去った。


冷たい風が

塔の中を吹き抜け

遠くで聞こえる鐘の音が

不吉な

余韻を

残している


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