告発

やどくが

第1話 密告

 密告いたします。



 この国にたった一つの公爵家、その末娘のこと、ご存知でしょうか。ええ、今年私どもの学園に入学した、1年A組の、彼女です。本日は、彼女のことについてお話があって参りました。

 私が今回話すことは、また私が話したということは、学園に、そして彼女に決して知られないようにしてください。私は生まれてこのかた罪を犯したことはありません。それなのに、もう死ぬなんて嫌だ、恐ろしい。



 単刀直入に言います。彼女は、あまりに恐ろしい。まるで、この世の者とは思えない。


 ええ、もちろん、それが人格や容姿での話なら、わざわざ皆様を煩わせるような真似はいたしません。そうではなく、彼女は、恐らく、恐らくですが、人ではない。あるいは、仮に彼女が人だとしても、人ではない恐るべきものの力を得ている。



 もちろん、公爵家の当主とご婦人が人ではない、と言う訳ではございません。また、お二人の間に不貞があった、というのでもございません。

 しかし、彼女は、明らかに人間ではない。私自身、何と申し上げたらよいか分からないのですが、とにかく、彼女は魔法でない、呪いでもない、もっと恐ろしいもの、本来ならば人間が持ちえない力で人を殺めるのです。



 今、我々の学園で、とある変死事件が相次いでいること、ご存知でしょうか。ああ、そうです。ただの1ヶ月で、23人もの人が、予兆もなしに死んでいった、あの。

 これはあくまで私の主観ではございますが、その犯人は、恐らく彼女です。いや、彼女に違いない。

 なぜなら、その23人は、全て彼女に害をなした人達だからです。直接的であれ、間接的であれ、彼女に苦痛を味わわせた、あるいはその原因を作った者たちは、この事件で一人残らず死にました。



 それが始まったのは、突然のことでした。

 ある日のことです。元々彼女は同じクラスの複数名から時折暴行などを受けており――今回はそのことについては詳しく触れませんが――その日も同じように、暴行を彼女に加えていたメンバーが彼女に近づきました。いつもは、彼らは彼女をどこかへ連れていき、静止の言葉もはぐらかされるので、他の者達もまた、いつものように何もできずにいるのみでした。


 その時です。彼らのうちの一人が、彼女に近づいた途端に倒れました。私は遠くにいたので詳しいことは分からないのですが、どうも泡を吹いて、顔を真っ青にして倒れたようです。その時は、あまり大きな話題にはなりませんでした。食べたものが当たっただけだと思われていましたから。

 しかし、その日の午後、その者の取り巻きが、皆して体調不良を訴えました。ある者は突然全身の痙攣を起こし、またある者は赤色と、恐らく緑色の混じった、到底人の口から出るとは思えないような色のものを吐いて倒れ、…………そうして、翌朝には皆、もう目が覚めることはありませんでした。



 学園側は未知の伝染病として、無理やり隠蔽するつもりだったようです。でも、それは失敗した。なぜか。……大きな話題になったので、ご存知かもしれませんが、彼女を気味悪がり、彼女を無視した一人の教師が、突然首が切れて死亡したからです。それも、授業の最中に、つまり大勢の目の前で、周囲に誰一人いないまま。

 その後、彼を殺した『見えない何か』を探すために、大掛かりな調査が行われました。しかし、そこには魔法が使われた痕跡も、呪いがかけられた残骸もなかった。無論、彼の首を切るための仕掛けがあったわけでもありません。


 それからは、概ね皆様がご存知の通りです。

 まず、痕跡がなく、調査のしようがないため、事件は迷宮入りしました。半月と経ったころには、もはや調査は行われることはなく、結局事故死として片付けられたようです。

 また、ちょうどその頃から、 “変死”の範囲が拡大し、やがて彼女のクラスの半分以上が死亡するに至りました。同時に、皆が彼女を恐れるようになり、彼女の近くには誰一人近づかなくなりました。学園に来なくなった者さえいます。陰口を言った者も殺されたことがあったので、彼女の周囲は非常に静かなものでした。

 ……あるいは、皆が彼女を避けたから、より多くの人が死ぬようになったのかもしれません。いえ、これはあくまで私の想像です。どうかお気になさらず。




 以上が、私が皆様にお伝えしたいことの全てです。

 既にご存知のことかもしれませんが、もし万が一にでも知らないことがあってはいけないと思い、また、今後の対策に役立つ情報があるかもしれないと思い、今回告発するに至った次第であります。

 そして、初めに申し上げた通り、どうかこのことは口外しないでいただきたい。恐らく、彼女の力の範囲に制限はありません。もしかしたら、半月ほど前から流行り始めたあの疫病も、ひょっとしたら彼女の仕業かもしれません。……私は、わたしは、俺はまだ死にたくない。それもあんな、あんな苦しみながら死ぬなんて、嫌だ、嫌だ、嫌だ。



 ……失礼しました。

 とにかく、彼女は我々の理解を超えた方法で人を殺めます。そしてその範囲は広がり、とどまることを知りません。故に、彼女は早急に亡き者にしたほうがいい。それができるのかどうかは分かりませんが、それ以上に彼女は生かしておけない、というのが私の意見です。

 以降の判断は、皆様にお任せいたします。



 以上です。

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