第19話
頑張れば頑張るほど足を引っ張っていたんだと自分を責めたくなる。
京ちゃんは自慢の恋人ですなんて言わなくていいことだ。
自慢する必要もないくらい京ちゃんは人の気持ちを読むのに長けた素敵な人だ。
そばにいれば感情が人並みに穏やかに揺らぐ。
そんな心地よい風のような彼女のそばにいたい。
ただそれだけで良いのに少し欲張っていたのかもしれない。
「飾利、帰りはどうする? テスト良かったんでしょ? また勉強するの?」
「うん……どうしよっかな」
「今日くらいは良くない? もうすぐお母さん来るんだよね?」
「う、うん。テ、テスト……見せられる」
あのイライラとした表情がチラついて「飾利のせい」なんて言われそうで怖くて少したじろぐ。
「……よかったね」
こちらを見て口にする。
そんな言葉すらも皮肉に聞こえる。
京ちゃんがそんなことするはずないのに、皮肉で私に文句を言ってるのではないかと勘繰ってしまいそうになる。
京ちゃんは優しいからそんなことしないのに。
絶対しないのに……頭の中の罪悪感は悪魔のように変換してくる。
「あのさ、京ちゃん……」
だからもう言葉にして……京ちゃんの抱えてるかも知れないものを分けてもらおうとした。
けれど
『盗み聞きしてた?』
そんな言葉が頭によぎった。
自分の都合で京ちゃんの時間を奪って自分は満足して、京ちゃんは親に詰められている。
盗み聞きして「あなたの辛いモノを分けて」なんてどの口が言えるんだろう。
あの電話越しのイライラとした表情を向けられるのが怖かった。
だからそこで言葉が詰まってしまう。
「なに?」
するとただ京ちゃんはキョトンとした表情でシンプルに聞いただけだった。
なんかおかしいくらいに京ちゃんのイライラした表情が頭の裏でチラつく。
自分でもそんなことを思いながらなんとか平静を保って取り繕う。
「どうしたの? さっきから黙っちゃったけど」
「えっ? ……あ、あのさ、どこか行かない?」
「どこって?」
「……どこか」
「ふふっ分かったよ。どこかね」
京ちゃんは笑って歩き出す。
靴を履き替えて校門を抜け、どこかあてもなく歩く。駅とは逆の方向へ遠回りしようって2人で話しながら散歩する。
「あのさ、飾利」
「なに?」
少し緊張感も和らいだ頃、京ちゃんは前の話を止めて改まる。
「親と縁を切るにはどうしたらいいと思うかな」
「えっ?」
「親。具体的には母親だけど、縁を切るにはどうしたらいいかなって」
ゆっくりと普段の話をするのと同じトーンでそんなことを聞いてきて、まさに耳を疑った。
でも確かに「縁を切る」と言った。
「それって」
「もう切りたいんだよね。母親。凄い邪魔というかさ……」
そんなこと言わないであげて欲しいけれど、きっと私の立場からそんなことを言えない。
空っぽのような笑顔で、ハァと気の抜けたようなため息をつく京ちゃんには疲れを感じる。
そもそもその疲れは元を辿ると私なんだ。
京ちゃんの笑顔に心配の表情を向ければいいのか、申し訳なさを表せばいいのか分からない。
ただ顔を少し歪めて京ちゃんと同じトーンで肯定も否定もせず受け流すしかない。
「邪魔かぁ。うーん難しいね」
「もう限界近いかも、お母さんも……それに付き合う私も」
「うん……」
「うんって……飾利はどう思うの?」
肯定も否定も出来ない相談に答えを求められて、流石に私も言葉を繋げることが出来ない。
心臓の鼓動が少し大きくなるのを感じる。
「私は……その……」
「どう思う? 飾利の考えを教えてよ」
急かされ、顔を近づけられ、さらに心臓の鼓動が加速する。
「いや……でもお母さんと縁を切るなんて……」
「まぁ飾利は恵まれてるからね。私の気持ち分からないよね」
理解はできないけど共感は出来る。と言いたい。
何かに押し込められる辛さはよく知ってるつもりだから。
そうやって京ちゃんの味方でいたいのに、今までの経緯や罪悪感で心がめちゃくちゃになる。
縁を切るなんて極端なことはダメだよ。
そう伝えたいのに京ちゃんを追い込んだ元凶と言っていい私が、それを伝えていいのか最後まで頭の中で天使と悪魔が喧嘩してる。
「……うっ」
「分からないんだ」
顔を離して、はぁとため息大きくついた京ちゃん。
返す言葉が出てこない。
「はぁ……なんてね、まぁでも大丈夫だよ。私は……」
〈ブーーッブーーッ〉
スマホのバイブが話を遮る。
私のスマホかと思ったけれど、すぐ京ちゃんが取り出す。
画面を見て目を丸くした。
「えっ? 飾利、ごめんね……もしもし、なに?」
何を言いかけたのか、それが気になって早く電話が終わらないかなとその会話が終わるのを待っていると京ちゃんは少しずつ目を丸くしていく。
「なんで……? いや、だから大丈夫だって言ったよね? もう来てるって、いまどこ!? なんで何も言わずに……!」
徐々に声が大きくなるのを見て、会話の終わりに自分が割り込めないことがわかってくる。
誰と話してるのかも、なんとなくわかる。
「うん、うん、わかったから。今行くから。そこ動かないで、こっちに来なくていいから、私が行くから」
そう言ってスマホをタップして通話を切る。
すると今度は寂しそうな顔でこちらを見て京ちゃんは言った。
「ごめん飾利……ちょっとお母さん来ちゃったから行かなきゃ。ごめんね、埋め合わせは絶対するから」
そう言い残して走っていってしまう。
言葉を挟む気にも、追いかける気にもならない。
きっと届かないし、追いつかない。
京ちゃんのその場に残したシリアスな雰囲気だけが私の胸を締め付けた。
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