第18話
試験が終わると大体1週間ほどかけて採点がなされ、答案が返される。
それぞれの授業で先生によって答案が私の元に戻ってくる。その度に私は目を見開いて驚いてしまう。
その連続が一通り終わったホームルーム。
「こんな点数……」
ホームルームで全教科の成績のまとめと、学年順位が載ったプリントを担任から渡される。
1年1学期の中間テストから2年2学期の中間テストまで、総合で見ても今回が一番の成績が輝かしく記録されている。
赤点をなんとか回避した教科に混じって割といい感じの点数が混じる。
そんな今までと違い、全部がいい感じの点数になっている。
低い点数が……ない……っ!
「凄い……」
京ちゃんに教えてもらうだけでここまでになるなんて、人間の脳は意外と平等なのかもとか思ってしまう。
私の頭はあまり回転が速いモーターを搭載出来なかったのかと思ったけど違うみたい。
それはそれで過去の自分が情けないけれど、ここまで合計点数が上がったらきっとお母さんに何も言われない。
1学期の中間テストと違って合計点が100点以上伸びたなんて嬉しすぎる。
「なーちゃん凄いねぇ。いつも勉強してる成果かなぁ」
前の席の佳奈がこちらを振り返ってそう言った。
ゆったりと語尾を伸ばす喋り方が穏やかな彼女の雰囲気につられて、私も顔が緩む。
「佳奈は? どうだったの?」
「うーん。まぁ普通かなぁ」
「見せて」
佳奈からプリントを手渡される。
それを見ると夢が覚めた気分になる。
「これが普通……」
私の親友、
私と違った柔らかさを持っていてふんわりと天然ちゃんみたいな感じだけど、頭がいい。
とはいえこの成績を見たら友情にヒビが入りそうです。
なぜなら彼女の一番低い点は私が今回到達した最高得点より高かったから。
「普通……なのかなぁ?」
「佳奈が普通って言ったんだよ」
「ごめんごめぇん、冗談。結構自信あったのぉ」
見つめると彼女はおっとりと笑う。
そんな彼女を見て私も一緒に笑う。
なーちゃんと佳奈。あだ名はふんわりとかっちり。
だけど学力がしっかりかっちりなのが佳奈で、ふんわりしてしまってるのが私。
これだけあべこべで差があっても親友になれるってなんか良い。
「でもなーちゃんは本当に凄い伸びたねぇ。今までの勉強の仕方が間違ってたのかなぁ」
「そうみたい。京ちゃんが色々教えてくれたから」
「紗柄さんかぁ……。本当になんでも出来るねぇあの人」
クリクリとした目をもっと丸くして驚いて見せる。
私はチラリと視線を送ると京ちゃんはもう成績のプリントを見ておらず、グループの友達2人と楽しそうに話をしている。
成績表を机にしまっているっぽいし、京ちゃんは笑っている。
それを見て改めて
「超人だよ、京ちゃんは。私に教えながら勉強してたし」
運動も勉強も凄いんだ。
心でそう自慢する。
「紗柄さんは掲示板も常連だしスポーツもできるし凄いねぇ」
「私はどっちも苦手だから、佳奈や京ちゃんが羨ましい」
「私は運動は普通だよぉ、テニス部入ってるけど真ん中くらいだしぃ」
はぁ、なにかを分けてほしい。
そんなため息が佳奈の前で出そうになる。
「ほらほら、まだホームルーム終わってないぞ。前向けー」
そんな感じで自分の成績の進歩を喜びながらも、足りないものを感じてホームルームは続く。
紗柄京の名前がない。
定期テストが終わって数日経ち、お母さんの帰国が近づく月中旬の昼休み。
購買でメロンパンを買った帰りに、先ほど掲示されたらしき定期考査成績の上位10名のリストを覗く。
いつも真ん中あたりにあるはずの紗柄京という名前がなかった。
「あれ……?」
なんでだろ。
そんな風に一瞬だけ疑問が頭に浮かび上がるけどすぐさま心当たりに突き当たる。
「私のせい……?」
私の勉強に付き合わせたせいで成績を落としたではないだろうか。
ひとりでに罪悪感が湧き上がる。
自分は合計で100点近く伸びたのに京ちゃんの点数が減るなんて、まるで私が京ちゃんの点数を吸ってるみたいじゃないか。
いや実際京ちゃんの時間を吸い取ったのだからそういうことだ。
少し潰してしまったメロンパンを眺めて教室に戻ろうとすると、今度は声が聞こえる。
まるで掲示されたリストからどこかへ名前が溢れ落ち、その先から声がしているようだった。
「だから……うん。大丈夫だって」
体が自然とその声の元へ向かっていく、そして階段の踊り場見上げると声の主は電話をしていた。
「あのさ、私はお父さんじゃないから……っ! はぁ、ごめん。成績は大丈夫。次は問題ないって」
彼女は静かに、電話でも表情に出さないように声色を保ちながら話をしている。
「えっ、実家に戻れって……? 嫌だよ。私は別に問題ないって言ってるでしょ。いや、お母さんが嫌いなわけじゃないって。うん、だから大丈夫。うん、それじゃあ」
それでも堪えられない。そう言いたげに京ちゃんは、少しイライラした様子で髪をぐしゃぐしゃして耳からスマホを離した。
そらを見た瞬間、私はつい身体を翻して別の階段から教室へ戻る。
盗み聞きをしていたこと、初めて見る京ちゃんのイライラした表情、そしてそのイライラを作る原因になったのが私だということ。
その3つの理由で私は京ちゃんとあの場で顔を合わせられなかった。
電話の相手はきっと京ちゃんのお母さんだ。
一気に京ちゃんの顔が頭に浮かび上がる。
テストが終わって親の話をした時のあの寂しそうで悲しそうな顔。
羨むような、決して近くに行くことの出来ない遠い景色を見るような表情を思い出す。
私のお母さんは今週末に帰国する。
今回の試験の成績を見せればきっと安心してくれる。
ただ京ちゃんについては逆かもしれない。
電話を一方的に聞く限りでも成績について何か母親に言われたのかもしれない。
私が頑張るために京ちゃんを頼ったから。
「京ちゃんの時間を奪って……しまったから……」
小さく言葉で吐き出して軽くしようにも、お腹から湧き出る自責の念というものが強くなる。
実家に戻されるなんて話になっているかもしれない。あの電話を聞く限りそう予想できる。
なんでこうなってしまったんだろう。
なんで京ちゃんを頼ったんだろう。
お母さんに京ちゃんを自慢できるかもなんて浅い考えで、付き合っている京ちゃんの株を上げるために一生懸命行動したつもり。
だけどそれによって京ちゃんの首を絞めることになった。
「よく考えなきゃダメじゃん……」
冷静に考えれば佳奈に頼ってもよかった。
彼女の部活のないテスト期間なら一緒に勉強してくれただろうし、今回くらいの飛躍はないにしろ佳奈と勉強してもそれなりに成績は上がったはず。
なんで京ちゃんなんだ。
少し遠回りして歩くいつもと景色の違う廊下で自分を責めた。
そうやって責めながら教室へ戻ると、一足先に戻った京ちゃんはいつも通りグループの友達と笑いながら喋っている。
あんな電話をしていたのに。
「あ、なーちゃんお帰りぃ。あれ? 何かあったぁ?」
自分の机に戻ると、机をくっつけて待っていた佳奈はこちらを見て首を傾げた。
「あっいや、ちょっと遠回りしちゃった。ごめんね、遅れて」
「えぇっ? あぁ……うん、でもそうじゃなくてさぁ……」
少し戸惑った様子でこちらを覗いた佳奈に私は少し心で汗をかく。
表情に出てた……?
私は手で顔を触ると彼女はこちらに指を差して言う。
「メロンパン、ぐちゃぐちゃだよ?」
「えっ? ……あっ」
目をやると持っていたメロンパンの外側のクッキー生地がボロボロに剥がれて、メロンパンもその袋も強く握られてグシャグシャになっていた。
「今日は購買が激戦だったんだねぇ」
にっこりと笑う佳奈に表情を整えて笑うも、自分の心はグシャグシャなまま戻っていない。
もう一度京ちゃんを見ると変わらず笑っていた。
さっき見たイラ立ちを感じさせないほど、綺麗で自然な笑顔が雑然とした教室の昼下がりに光っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます