【12月10日 冬のすれ違いに後悔と悦びを】

第27話

   京


 飾利と交際して半年以上が経った。


 その間はずっと幸せでいっぱいで、毎日が楽しい。

 今までがつまらなかったわけじゃないけど、今までよりもどこか余裕が生まれていた。


 私とはタイプの違う、それこそギャルっぽい佐久や莉亜とつるむようになったのも、私と決定的に違う存在な気がしたからってだけなんだけど、今は違う。


 ファッションやトレンドとかを莉亜と佐久がよく話しているのを、聞き流すだけじゃなくてしっかり聞いて勉強するようになった。

 飾利と話をする時のネタとして、今まで以上に色んなことを見たり聞いたりしてインプットする。


 ただ気分で生活するんじゃなくて、飾利中心に生活があることがなんか嬉しい。

 今日の昼休みもそんな感じで莉亜と佐久と話をしていた。


「佐久って漫画なんて読んでんの?」


 莉亜が授業中こっそり佐久の読んでいた漫画について聞く。


「うん、読んでるよ。犬飼くんが好きなんだって言ってた」


 佐久は未だに健吾を狙ってるようで、彼の好みをしっかりリサーチしている。


「まだ諦めてないの?」


 そんな佐久を見かねて私はつい口を挟むと、彼女はイーっとこちらにはを見せて「告白してないから諦める段階にありませーん」と主張した。


 元カレだと説明したら少しショックを受けていたけど、諦めるつもりはないらしい。


「共通の話題を作らなきゃ。あたしオタクですから」

「うわーオタクだー」


 佐久と莉亜がそんなことを言い合うと佐久はカバンからスッと単行本を取り出し、ヒラヒラと煽ってみせる。


「漫画なんて小学生以来だけど面白いよこれ。人がめっちゃ死ぬの」

「えーグロいんキツくない?」


 怖がって嫌そうな顔をする莉亜だったけど私は少し興味を惹かれた


「私ちょっと興味ある」

「おっ。京が食いつくの珍しいね。犬飼くんとそういう話しなかったの?」

「うん、その時は興味なかったし」

「うわ、合わせるのはあっちの方ってことですか。羨ましいこと言ってくれるねぇ〜」

「そんなんじゃないから。ちょっと見せてよ」


 わざと嫌味ったらしく言う佐久のイジりを躱して、漫画を借りてペラペラとめくって眺める。


 漫画は読まないけど、絵が上手くて引き込まれる。

 内容を軽く見ると、戦争でどんどん人が死ぬ無情さやエグさが表現されている作品。


 飾利より頭が良くないのに意外と深い話が好きなんだなと健吾のことを考えてみると、あるコマが目に止まった。


「これ……」

「あぁそこ? いいよね!」


「いや……よく分からないんだけど」

「どれ……? うわっ! 殺してるシーンじゃん!」


 疑問を持ったページを開いて佐久と莉亜に見せる。

 表紙に描かれた男が、強く敵の男の首を絞めている。


 ただ少し不思議なのが


「この人、なんで泣いてるの?」


 悲しそうな表情で泣いている。


 ポロポロと涙を溢しながら、奥歯を噛み締めて相手の首を絞めていた。


 その行為には殺気が伴っているのに顔は悲しんでいる。そんな行動と感情のギャップの表現が力強く描かれていて、こちらまで全身に力が入りそうだった。


「これね、首を絞めてるのは主人公なんだけどさ、相手は色々あって敵になっちゃった心からの親友なの。でもヒロインを守るためには殺さなきゃいけなくてさ『あいつを守れ、敵の俺は……殺せ……っ!』って語りかけるんだよ」


「それでなんで主人公が泣くの? ヒロインのために敵を倒すなんて別に普通じゃん」


 その親友キャラの迫真のモノマネをする佐久に私は首を傾げて漫画を手渡す。


「バカだなぁ京は。今まで仲良かった親友が敵になったことで殺さなきゃいけなくなったんだよ? それでさえ辛いのにさ、親友も殺される覚悟を持って敵対してるわけ」

「うん、それはなんとなく分かる」


「そんでさ? そんな状況で主人公はその親友を救いたいと思ってるのに、親友の望みは敵対して負けたなら戦士として潔く殺されるってことなのよ。つまり殺さないのは最大の冒涜になるの。だから殺したくないけど彼の望みを叶えて、味方陣営のためっていう大義名分を心の拠り所にして、大切な親友を殺すわけ」


 そして漫画を受け取った佐久は該当のページを開いてコマを指差し「いい? 分かる?」と私に熱心に訴えかける。


 なるほど……そういうこともあるんだ。


 細かいボタンのかけ違いなのかは分からないけど、大切なものを自分の手で……

 そんなことを考えたら飾利の顔が頭に浮かぶ。


 飾利が主人公で私がその親友だったら飾利は泣いてくれるだろうか。

 多分泣くし殺さないだろうな。私も同じ。お互いに殺せない。


 ふとそんなことを考える。


「はぁ……アタシも犬飼くんに首絞められてみたいなぁ」

「佐久……ちょっとあんたヤバくない……?」

「ヤバくないよ! 首絞めには快楽が伴うってなんかの本にも書いてあったし……もし付き合えたらぁ……」

「あー、そこまでにしときな。戻れんよ。きっと」


 佐久がフザけて軽く莉亜がツッコむ。

 そんなバカ話をするいつも通りの2人を眺めて私は漫画のシーンを頭に思い起こす。


 あの漫画は魅力的だった。

 画力もだけど構図やパッと見たときの表情の強さが読者の心に刺さる。


 実際私の心には大切な親友をこの手で殺してしまうという寂しさや切なさ、使命感と罪悪感で情緒がいまにも成立しなくなっていくような表情がとても美しく見えた。


「アタシならやられる側でもやる側でも構わないのになぁー」

「あー……相当病んでんね、佐久」

「うん、病んでる」


 そんな表情を実際に見たいと思ってしまう自分も、きっと。


「……そこまで言われると凹むんですけど」


 自分の体を抱きしめて身悶えしていた佐久が少し凹んだように見せる。

 私はそんないつも通りの佐久から視線を教室にいる飾利に向ける。


 次の”確認作業”はこれでいいかも。


 ただ、それが間違っていた。

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