第30話
反省というのは基本的に後の祭りでしかないのは分かってる。
時間は夜の10時、飾利がお風呂前にテレビを見る時にいつも座るソファのポジションに顔を埋めて考える。
彼女を追い込んで崩れた表情と、そこから愛を感じるための確認作業。
可愛い顔を見せてくれたあの時もこの時も、きっと飾利には負担だった。
何度も何度もやらなければ良かった。
普通に2人でいるだけで幸せだったんだから。
ひとつひとつ仕掛けた確認作業が行きすぎていなかったかを思い返す。
遅いかもしれないけれど反省の材料として。
飾利の顔を思い返しながら……
まず思いつくのは香水のプレゼントの時。
飾利に欲しいものを聞かれた時に何かをプレゼントしようとしてくれてるって分かったから、甘ったるい香水をわざわざ買ってつけた。
プレゼントが空ぶって落ち込んでいる飾利と、わざと喧嘩気味なやりとりをしてわざと長めに時間を置いた。
あの時の飾利のショックな顔はとても可愛かった。
香料で作られたキツい甘ったるい匂いに吐きそうになりながら毎日過ごしたけど、距離と時間を置いてからの飾利の表情はいつにも増して強くこちらに訴えるものがあった。
それに飾利からプレゼントで貰ったとても素敵な香りの香水。
私のことを考えて見つけてくれたんだって気持ちが詰まった香りは鼻先を撫でるだけでうっとりする。
今まで貰ったどんなプレゼントよりも嬉しかった。
あれをもう少し強くつければ謝れるかな。
怒ったとしても匂いが強く届いて落ち着いてくれるかもしれない。
次に思い返すとしたらテストの時。
勉強を教えて欲しいと相談された時、解答を1つずらして点数を落とそうと思いついた。
『飾利が頑張るほど失敗した私が苦しむ結果になるようテストの点数を落として、家庭環境とか色々な出来事を絡めて飾利に罪悪感を覚えさせる』
みたいなシナリオ。
今考えたら最悪。悪趣味すぎる。
ただ飾利が購買に行くタイミングに階段で電話してるフリをして、険悪な様子を演出した。その後の焦りやぎこちなさを見るに完璧な流れだった。
そうして放課後にもっと重い話をしてから、それでも問題なかったことを伝える。
そうすることで飾利は罪悪感と許しと安心と色々なものを混ぜた表情を見せてくれる……はずだった。
このシナリオは2人で歩いてる時に本当に電話がかかってきて失敗した。
——まさかお母さんが本当にこっちに駆けつけてくるなんて。
最高の表情を見るための計画がぶち壊しだ。って思った。
けど、逆にそれのおかげで救われていたのかもしれない。
今回の件を考えると流石に攻めすぎて致命的になるかもしれなかったから。
ただそのおかげで予定とは違うけれど可愛い顔が見れたし、家庭環境って私の爆弾を共有したことで2人の距離は親密になったような気がする。
2人の関係値の深め方としては間違っていて歪かもしれないけれど、私はそうやって彼女の顔を見て安心したんだ。
好きでいてくれるだけじゃなく、もっと深く私のことを見てくれてるんだって。
でもやっぱりやりすぎていたかも。
健吾の時もそう、少しやりすぎだった。
復縁するように見せかけた。
リサーチした喫茶店に健吾がいるのを偶然知って、そこに飾利を連れて行って復縁を匂わせた。
可愛いから飾利が健吾に狙われるかと思ったけれど、反応を見る限りまだ私との別れを引きずっていた。
そのおかげですごい愛を感じるシチュエーションに持ち込めて幸せだったな。
正直「もう復縁確定、俺の彼女!」みたいな雰囲気を出す健吾とは本当にしんどかった。
手まで繋がれて嫌だったけど、飾利に見せつけるために手を繋いだ。
でもそのおかげかコンビニで見た苦しそうに笑う飾利も、項垂れて涙する飾利も可愛かった。
私も健吾と関係を切って、やっぱり飾利が良いって確認できた。
私でも食べれる酸っぱくて美味しいケーキにも出会えたし、2人で過ごす幸せのバリエーションが増えた。
ただ……あれも飾利には重かったはずだ。
バレた時もバレなかった時も”確認作業”は仲を戻すきっかけも含めて計算してた。
正確な計算と計画だったと思ったけど、思えば正確なんかじゃない。
飾利が自分を嫌わないという、憶測だらけな願望の押し付けでしかなかった。
計算を間違えてラインを超えてしまった。
やっぱり……傲慢だったんだ。
何をしても私を求めてくれると信じてしまっていた。
だから怒って出ていく飾利に気圧された。
パワーバランスでは私の方が上だと心の奥底で思っていたんだ。だから傲慢にも、あんなに可愛い飾利を手中に収めたように考えていた。
いつ嫌われてもおかしくないのに、あの子は私を嫌えないと思い込んで……追い込んだ。
もう諦めた方がいいのだろうか。
反省というのは取り返しがつかないことを、そういうものだと諦めて「次はこんな
ことがないように」と思うものなんだろうか。
いや、きっと違う。
私は飾利が好き。嫌われたくない。
だからこそ謝ろう。
飾利は思い出して怒るかもしれない。
嫌な記憶を掘り起こすことになるかもしれない。
それでも、好きな人が嫌な気持ちになったのなら謝るしかない。
怒られて別れるなんて言われたら嫌だけど、今日1日のようにギクシャクした関係のまま怖がって過ごす方が嫌だ。
私は埋めた顔を起こしてリビングから部屋へ戻る。
ヘッドボードに置いてあった思い出の置物を見る。
コツンと突くと腕がなくて身動きが取れなそうにモガいて直立する。
その様子は今の私を見てるみたいだ。
そういえば置物の腕も接着が弱ってそうなのを見越して実家から引っ張り出した。
腕が取れて焦っていた時の飾利の焦り顔がとても可愛かった。
あの時、飾利は隠さず謝ってくれたな……。
私も香水の時は謝ったけど、あれもそこまでが計画だったし今更の謝り方ってごめんでいいのかな。
どうしたらいいんだろうか。
飾利は性根から優しい。
それは良いことでもあるけど、優しさっていうものは感情にしては明るすぎる。
優しさがあると暗い部分が隠れて見えなくなる。
彼女の感情はおとなしいわけじゃない。
何があっても彼女なりの優しさで常に照らしてるから、起伏が少なく見えるだけ。
その光を曇らせれば、さらに美しい湖の水底が浮かび上がる。
私は彼女の感情の水面を眩く照らす優しさが私は好きで、それが曇ったときに見える暗い部分も美しくて好きなんだ。
——ただ、今回はやっぱりやりすぎた。
彼女の感情の湖を荒らしすぎて、周囲までボロボロにしてしまった。
うん。私も勇気を出そう。
何度も何度も巡り巡って考えて、それがいいとわかっているけどその先に別れがあると思うと怖くて勇気が出ない。
でも、出さないといけないよね。
飾利を怒らせるかもしれないけれど、少なくとも謝ればこのギクシャクしたすれ違いは解消される。
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