第23話

 秋ごろになってから私と京ちゃんは週末デートの頻度が増えた。


 もちろんしない時もあるけど、基本的に週末の土曜か日曜は2人で出かけている。

 その内容はスイーツ巡り、京ちゃんがケーキショップや美味しいお店を調べて連れてってくれる。


 秋から冬にかけてはスイーツシーズンでモンブランやさつまいものお菓子、そこからチョコレート系の新作があちこちで展開される。

 それを食べにいこうって京ちゃんの方から誘われた。


 食べにいこうと言っても京ちゃんは付き添いみたいな感じになってるんだけど。


 個人的に行ってみたいなと思うお店はリサーチしていたものの、不思議なことに私の行きたいと思ってるお店は京ちゃんがひと足先にたどり着いている。


 そういうところにも私は2人の相性の良さみたいなものを感じる。


 スイーツが好きな私はこのデートがとても楽しみ。


 甘いものがそこまで得意じゃない京ちゃんに悪いかなと思っているのだけど、それでも『飾利が喜ぶ瞬間はそばにいたい』って付き合ってくれている。


「ここのザッハトルテ美味しい」


 冷蔵庫から出したばかりなのか冷えて少し水分が表面についたチョコレート。

 深いコクとアプリコットの酸味が調和していて甘いのにとてもスッキリしている。


「よかったね」


 おしゃれな雰囲気の喫茶店、コーヒーを飲んで笑う京ちゃんはとても画になっている。

 額に入れたら0が6つは必要なくらい。


「うん、いつもありがとう京ちゃん。またなにかお礼するからね」


 ケーキ屋や喫茶店、京ちゃんにはどんなお店が似合うだろう。

 ファストフードのお店はいつも通りだし、ハンバーガーを頬張る京ちゃんはいつ見ても不思議な光景。


 らーめん屋でもスナップの撮影現場に変えてしまいそうな京ちゃんの格に釣り合うお店って高校生の行く場所であるかな。


「お礼なんていいよ? 飾利が美味しそうにスイーツ食べてるの見てるの幸せだし」

「私がしたいの。出来れば一緒に食べれるといいなぁ」


 ファストフードと酸っぱい果物が好みの京ちゃんと、甘いものが好みの私で折り合いのつく場所を探したい。

 ふと手を止めて考えてみる。


「一応聞くけどさ、京ちゃん和菓子とかもダメなの? たまに洋菓子はダメでも和菓子は好きって人いるけど」

「砂糖とかの甘みが苦手なんだよね……」

「じゃあやっぱ果物系か。酸っぱいのが食べれる場所ってどこかあるかな……今度は私が連れてくから調べておくね」


「うん、それなら一緒に食べれるかも。期待しちゃおっかな」


 酸っぱいスイーツ店。なんか矛盾してる気がするけれど調べておこう。


 私は子供みたいに喜べないけれど、京ちゃんは感情が表に出るタイプだから喜んでくれるときっと弾ける笑顔を見せてくれるはず。

 ハンバーガーでも出ないようなとびきりのものを見たい。


 そして2人でお互いに喜ぶ顔を共有したい。

 笑顔や雰囲気は掛け算だから、お互いが最高に好きなものを味わうと何倍も幸せになるはずだ。


「やっぱり楽しいな。京ちゃんと出かけるの」

「私もだよ。このために毎日生きてる」


「お待たせしました、アイスティーです……っ!」


 2人の会話の間に丁寧に入った背の高い男の店員さんはアイスティーを置くと京ちゃんを見つめていた。


 驚いた顔で目を剥いて。


「京……か?」

「ん……? あぁ、健吾けんごじゃん」


 知り合い……なのかな。

 店員さんと京ちゃんを私の視線が行ったり来たりしてるのを京ちゃんは気にしながら会話を続けた。


「ここでバイトしてたんだ」

「あぁ……。いや、なんでこんなとこに?」


「私が来ちゃいけない場所?」

「いや、甘いもの苦手だったろ」

「そうだね、まぁ今日は付き添いみたいなもんだから」


 そんな風に話す2人を私は眺めていた。

 どこか私のいない遠い風景を眺めているような気分になる。

 そんな感じでポカンとしていると、ふと店員さんと目が合った。


「なるほど、京ってここら辺の高校なのか?」


 チラリとこちらを見るだけ見てすぐ京ちゃんの方に向き直る。その雰囲気が少し気に入らない。

 背が高くて顔も良いからきっと嫉妬なんだと思う。


 多分だけど背の高い京ちゃんと並んだらみんなの目を引くかもしれない。それこそストリートスナップを撮られるくらい。


 悔しいけどそのくらいには男子の中でも見た目は整っていて、釣り合ってる。


「言う必要ある?」

「いいじゃん」


「四十物高校」

「っ! そうだったんだな! 俺、今度そこと練習試合すんだよ!」

「そっか……。それでさ健吾、いつまでいるの?」


 その男子が喜んでいるものの、京ちゃんはテーブルに肘をついて冷たく彼を見つめている。

 それが少し嬉しい。


「あーそうだった。中学ぶりだからテンション上がっちゃってさ。ごめんなさいね」


 京ちゃんに諌められたその店員さんはこちらを見てぺこりと謝る。

 私は複雑な気分だったから誰にも聞こえない声で「別に……」と呟くと、京ちゃんには聞こえたのか今度は露骨に態度を悪くする。


「うん、邪魔しないで早くどこかに行ってくれる? ウェイターくん」

「なんだその言い方。へーへーそうしますよ」


 シッシと京ちゃんが手を払うと彼は私に会釈をして、すぐバックヤードに戻って行った。

 軽薄……とは言わないけど、なんか嫌なものを感じる。


 京ちゃんは学校でも男女問わず人気だけど、学校の男子との距離感とは少し違ったものを感じる。


 それがなんか許せないって気持ちにさせられた。

 勝手にカバンを開けて中を覗かれたような気分になる。


 別に京ちゃんは私の恋人で、別に所有物ってわけじゃないのに。


「ごめんね」

「別に大丈夫」


 それ以上は特に何を言ったらいいか分からなくて口にアイスティーを含んでごまかす。


 ただ京ちゃんはごまかしたことに気づいたのか、ため息をついてから口を開いた。


「あれね、元カレ」

「……っ! ケホっ! ケホっ!」


 いきなりの言葉に驚きのあまりむせかえる。


「あぁごめん飾利! 大丈夫?」

「だいじょ……ぶ」

「はい、ハンカチ」


 京ちゃんからハンカチを受け取り口を少し拭う。

 少しして落ち着くと、京ちゃんはまた頬杖をついて退屈そうに言葉を続けた。


「あれ、犬飼健吾いぬかいけんごって前に話したバスケ部の元カレ」

「あぁ1番長く付き合ったって言う?」


「とは言っても2ヶ月だよ?」


 京ちゃん以外と付き合った経験のない私にはそれが長いのか短いのか分からない。


 京ちゃんと付き合って今は半年くらいだけど、私的には1ヶ月ですら幸せで長すぎるくらいに感じていた。


「熱量というかなんというか、本人が言うにはバイブス? そういうのが合ってんのかなって思ったけどダメだったね」


「そうなんだ」

「楽しい時はまぁ楽しいけど所々しつこいんだよ、あいつ」

「へー」


 京ちゃんからそういう話を聞くと、京ちゃんの一部を知れるみたいで嬉しい気分になる。


 けれど、それ以上に私の知らない京ちゃんの一面があったことに対する寂しさみたいなものが心の奥を埋めていく。


「とりあえず、ここはあんま来れないかもね。シフトが分かればいいんだけどなぁ」


 ただあまり彼に未練はないみたいで嬉しかった。


 ……彼の方は少し京ちゃんに未練がありそうなのが気になるけれど。


「私は大丈夫だから、話してくれてありがとう」

「ごめんね。こういう話って多分……モヤモヤするよね」


 ——うん、正直モヤモヤする。


 テレビで恋愛系の特集になると、元カノや違う女の話をする男はモテないとかダメだとか言われてるけど今なら理解できる。


 好きな人が自分以外のどこかを見てる気がして寂しくなるからしないでほしい。


「でもきっと飾利はそういう事も話した方が気が楽になるタイプなんじゃないかな。だから……話した」


 眉を少しかたむけて、困ったような表情をしながら京ちゃんはこっちを見つめた。


 そして少し笑う。


 その一言ですごい安心する。


 私はモヤつかせたまま膨らませるより、話してもらって理解したほうが気が楽になるタイプだ。

 心で湧くいろんな感情を頭で噛み砕いて、奥底に沈める私の気質を分かってくれてるんだって思う。


「ありがとう、京ちゃん」

「うん! てかさ、そのアイスティー美味しい?」

「うん、冷たくて美味しい」

「ちょっとちょうだい」


 そうやって私のアイスティーのストローを何も気にせず咥える京ちゃんの唇を、私はただ見つめた。


 少し気持ち悪いかな? あの人みたいにしつこくないかな? なんてことを思いながら。


「美味しいね。飾利が飲んだから」

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