第13話
「……嘘でしょ」
月曜、登校してすぐ私はびっくりした。
日曜にプレゼント用の香水を選んで小さなショッパーに入れてもらい、それを渡すつもりだったけれど計画が中止になりそう。
京ちゃんから独特な匂いがする。
——これは香水だ。
普段つけない京ちゃんが香水をつけてるんだ。
さらに言えば私が1番に候補から外した甘い匂いを京ちゃんは振り撒いていて、頭がくらくらしそうになる。
京ちゃんが選んだとは思えなかった。
「どうしよ」
渡そうと思っていたモノを学生カバンにしまったままにして一旦保留する。
甘いものが苦手な京ちゃんらしからぬ甘い香りに「柑橘の制汗剤とは合わないでしょ」とか心で文句を言いながらも、甘いもの好きな私は心が躍りながらも、クラクラとしてくる。
とにかく、放課後に渡そう。
うん、これを収めることはできない。
「あのさ、京ちゃん」
放課後になって2人、教室に残って何気ない話をする。
どこで切り出すか。それについて悩んでいたがすぐ聞いてみることにした。
「京ちゃん、その匂い……香水?」
「あぁうん。この前ちょうど欲しいもの聞かれてさ、そういえばと思って買った」
なんだそれ。
昨日の自分がバカみたいだなと自分でも思う。
そりゃそうだよね。お金持ちの京ちゃんならそりゃ買うか。
カバンの中のモノを渡すか迷う。
ただでも、これを引っ込める意味ってなんだろう。
そう思って今までお返しとして、いらないかもだけど渡すだけ渡してみることにした。
「そうなんだ……あのさ、私からもあったんだよね……」
恐る恐るカバンからプレゼントして喜んでもらう予定だったものを取り出す。
「ん? これは?」
「あの、京ちゃんって普段から私に合わせてくれてるでしょ? お返しにと思って……香水。欲しいって言ってたから」
「あぁーそういうことで聞いてたんだ……」
普通に気まずい。
どうして伝えなかったんだって自分を責めた。
普通にプレゼントしたいって言えばきっとこんなすれ違いする必要はなかったのに。
自分が情けなくなるときがある。
落ち着いていると言われてる自分の外面に合わせて大人のように振る舞っても結局は考えの足らない子供だと思うことがこうやって痛感させられる時がある。
大人ぶってる子供みたいに中身が外に追いつかない。
感情を表にあまり出さず、冷静に穏やかに、子供のようにミスをする。
「これ……どうしようか」
だからそんなことを言ってしまうんだ。
渡すか渡さないかの2択で、受け取ってほしいのにどっちでもいいみたいな言い方をしてしまう。
そして京ちゃんはそんな恐る恐る差し出されたものを見ながら
「うーん、せっかくだし自分で使ったら?」
そんなことを言った。
その言葉に私は致命的な感情の差を京ちゃんに感じてしまった。
「いらないの……?」
この時の私はどんな顔をしていただろう。
ただでさえ鈍感な表情筋が、なにかで引き攣っているのはわかる。
けれどそれが相手にどんな感情を与えるものなのかが分からない。
悪意なのか敵意なのか失望なのか、きっと京ちゃんに抱く感情だからどれも違う。
でもいい感情ではない。
それはこちらの顔を見た京ちゃんの顔で伝わった。
反射的に目を見開いて口角を引き攣らせる。
「ヤバっ……飾利、えっとね……?」
声に出てるよ。
複雑に絡まり始めた私の感情は簡単に解き直すことができない。
売り言葉に買い言葉、この前覚えた言葉が頭に浮かぶ。
これがそういうことなのかな。
しかしながら京ちゃん的には一切売ってない言葉なのに、そんな言葉を爆買いして私の気持ちは爆発した。
「いらないんだね、これ」
「いや、あぁ……」
「なんで否定しないの?」
困った様子に追いうちをかけてしまう。
京ちゃんの前だからか少し強めに感情が流れている。
普通だったら噛み砕いて飲み込んで「そんなもんか」なんて心で言ってしまうのだけど、京ちゃん前だと少しムキになってしまう自分がいる。
「いや、てかプレゼントしたかったなら言えば良かったんじゃない? 流石に飾利と一緒にいてもそこまでは察せないよ」
そう思ってる。分かってる。
でも感情がその納得で言葉を止めてくれない。
「私の全部を分かりたいって言ったのに」
「分かりたいだけで分からないものだってあるよ」
「分かろうとすれば気づけた」
「気づいて欲しかったの?」
「それはっ……」
サプライズのつもりだからそれは違う。
「けど、けどさ! 欲しいものを聞いかれてすぐ買う?」
「欲しいものなんだからすぐ買うでしょ」
生まれながらの金持ちめ。
「けど……けど受け取るじゃん。別にいらないなぁみたいな雰囲気を京ちゃんが出すと思わなかった」
「いや、それはさ」
自然と勢いがついてしまう。
京ちゃんといる時は普段より少しだけ感情のブレーキが緩んでいる。
そして
「もういいよ……」
あっ、やってしまった。
心でそんな言葉を後に付け加える。
でもなんか別にいらないものを渡されたなっていう雰囲気が耐えられなくて、ついつい感情が深く深く重く重く滲み出てしまった。
全てを受け入れて欲しい。私のものならなんでも受け取って愛用して欲しい。
けどそれを押し付けるつもりはなかった。
だからその言葉が出てしまったことが何か致命的になってしまったんじゃないかと思う反面、その気持ちをわかってほしかったという気持ちが私の体の内側で同居してる。
それでも「もういいよ」は絶対言っちゃいけない言葉。
対話を拒絶したようなものだから。
恐る恐る京ちゃんの顔を見ると彼女の顔は私の背筋に冷たいものを走らせる。
「ごめんね。私も頭冷やすよ。これ、もらっていい?」
「……」
今まで見たことない冷たい表情から感情が読み取れない。
だからどうしたらいいか分からなくて黙って首を縦に振る。
「ありがと」
そう言うと京ちゃんはショッパーを手に取り、立ち上がって教室から出ていってしまった。
私は久しぶりに一人きりでいつも通ってる道とは違う道で帰宅した。
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