第12話
とはいえどうしたら良いだろう。
香水って冷静に考えたら私はつけたことがない。
というか大人がつけるものというイメージすらあって、高校生の私にはとっつきにくい。
京ちゃんですら「興味がある」で留めているものを私がいけるのだろうか。
たまに香水の匂いを漂わせてる子はクラスにいるけど、聞いてみた方がいいのかな。
うーん、悩ましい。
とはいえそんなことを考えていても仕方ないのは事実だから、私はとりあえず京ちゃんとのデートがない日曜日に駅前の百貨店へ足を運んだ。
「……」
目に留まった百貨店に入っている香水ショップはまるでジャングルだ。
自然と一体化したような店舗から甘いアロマの匂いが漂っている。
この香りの良さを理解する生き物だけを誘き寄せ、そして食べる。そんな植物のような雰囲気を感じる。
京ちゃんにはハイブランドの香水というものが似合うだろうな。とか思ったけれど流石にハイブランドの店舗は高校生が入っていい雰囲気じゃなかったから断念。
そもそもハイブランドの香水はもしかしたら家族とかがつけてるかもしれない。
そうじゃなくてもオートロックが2個もあるマンションの高層階ともなると、同じ階の人のハイブラ香水の匂いが混ざって、家を出る時間帯にはとてもラグジュアリーな匂いがするはずだ。
何度か京ちゃんの家に行ったとき、残り香でもそんな雰囲気を感じ取ったからわかる。
けれどその雰囲気はきっと京ちゃんとは合わない気がする。
大人になったらわからないけれど、少なくとも今の京ちゃんとラグジュアリーは繋がらない。
なら高校生の守備範囲内の庶民派で自然派なコスメと香水の店舗に足を運ぶべき。
——そう思ってきたけど、雰囲気も種類も凄い。
どれがどうなのかがさっぱりだ。
サンプルの下にそして細かく説明が書いているカードが置いてある。
英語の前置詞がわからない私にフランス語かドイツ語かイタリア語か分からない言語の香水は難易度が高い。
ぐるっと眺めても何がどういう匂いなのか分からない。
トップノート、ミドルノート、ラストノート、なんてことが細かく書いて値札のそばに書いてある
……香水に何か書き込むのだろうか
理解はできないけどそんな説明書きを読んでなんとなく「あぁこれはさっぱりか」「これはエキゾチックか」とかそんなざっくりとした感想が出るくらい。
「どうしよう、これ……」
「どういった香りをお探しですか?」
「わっ」
ついつい声が出る。
訳もわからず眺めていたのがバレていたのか、クスリと笑って今見ていた香水について説明してくれた。
「今見てる香水は少し大人向けかもですね。学生ですか?」
「あっはい。プレゼント用にと思って」
店員さんも慣れてるのか、それを聞いて納得したように「なるほど」と言って香水のサンプルが並んだ棚を眺めた。
「相手は男の子?」
「いえ、女の子です」
「友達かぁ。どういう系の子ですかね?」
友達、じゃないけれどわざわざ否定もしない。
店員さんが指で「あれか」「これか」と、何か紙の入った器をまとめてくれている。
「うーん、かっこいい系ですかね? ボーイッシュで王子様みたいな……?」
「あーえっと。顔立ちというより、活発な感じですかね? それとも大人しかったり? 香りの持続とかは普段からいる場所や体温とかで意外と変わるんですよ」
あっそういう……
少し恥ずかしくなって「うーんどうだろうな」なんてあえて声に出して悩んでみる。
活発ではある。けど積極的に運動するかと言われればノー。
ただ大人しいかと言われれば違う。
「活発だけど別に運動部とかじゃないですね。基本教室にいるし出かける時は……喫茶店とかに2人で行きます」
「なるほど……喫茶店とか行く時にはつけないだろうし、活発な感じなら甘い匂いとかじゃない方がいいですかね」
甘い匂い。甘い食べ物が好きな私には少し気になる響きだったけれど京ちゃんは残念ながらそうじゃない。
むしろ甘い物が苦手な部類だ。
だからそんな興味を抑えて京ちゃんに似合う香水探しに専念する。
「清潔感のある女の子なので、あんまり派手な匂いは似合わないかもしれないです」
「あーなるほど。じゃあシトラスか、サボンか……グリーン系のフレグランスなんかも良いかもしれませんね」
そうしたらと用意した器からさらに3つほど選び取り、その器に入った紙をこちらに手渡す。
「紙に香りがついているので嗅いでみてください、どうですかね?」
受け取って嗅いでみる。
お店のアロマのような香りに負けずに良い香りが鼻先をくすぐる。
「っ!」
初めてちゃんと嗅いだ香水そのものの匂いは凄かった。
まとめると石鹸みたいなんだけど、その中にも細かく金木犀やジャスミンのような植物の匂いが感じ取れてそれが段階的に印象に残る。
王子様っぽくてかっこいい見た目の印象と、活発な交友関係、それに子供っぽい内面とか、色々な一面が混ざってる京ちゃんを表したような匂いだった。
「凄いですね。良い匂い」
「いろいろありますよ、これとかも似てますけど少し配合が違います」
また別の紙を受け取って嗅ぐと、似ているけれど本当に少し違う。
香りが鼻をくすぐって、どんな匂いか認識する段階や順序が違うだけでも、全く違う印象を受ける。
言葉にするには複雑な匂いが、ひとつの香りとしてまとまって別の香りになっている。
これでさえ不思議で凄いのに、話を聞いてくれた店員さんが持ってきた香水の香りはどれも京ちゃんに合いそうな素敵なものでさらに驚く。
「人の印象というのは香りも大きく左右しますからね」
これが香りのプロ。店員さんのその言葉には重みがある。
香水自体が京ちゃんそのもののように感じるのに、さらに京ちゃんの匂いに混じるのかなんてことを考える。
京ちゃんの匂いは爽やかで体育の後だと少し柑橘の制汗剤が残った素敵な匂い。
けどこれらの香水はそれとはまた別種の爽やかさを演出してる。
意外と香水の奥は深い。
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