第4片

 僕は、ウェザーヒーローズ本部の待合室に入り、スマホを触っていた。

「よお、子狐じゃん。元気?」

 

 親友のレオ・ウォーカーが声をかけてきた。


 「元気だよ。あと、その呼び方、嫌いだからやめてって何度も言ってる。」

と、僕が返すと、


「ごめんねー」

レオはスマホを触りながら、適当に謝った。


 僕は昔から「子狐こぎつね」と呼ばれている。理由は、ブラウンが細目で狐に似ていたから。


 僕自身も少し細目なので、そう呼ばれ続けているのかもしれない。だけど僕はその呼び方が嫌いだ。父さんを、狐呼ばわりされることが、だからだ。


 あとは、僕自身、狐に少し似ていると自覚しているので、より一層「嫌だ」という気持ちが強まるのかもしれない。


 

 レオは、切り出した。


「さっき、また夢香ちゃんのこと無視したよね」


 「なんで知ってんだよ」

僕は食い気味に返した。


 レオは、スマホを触りながら「見てたからだよーん」と手を狐の形にして答えた。スマホを触っていると、自然におかしくなってしまうのかもしれない。あと、僕は何気にレオの狐の手にむかついた。


 「なんで、夢香のこと無視し続けんの?」

と、レオが聞いた。


 僕は少し考えて、答えた。


「父さんのことまだ許してないし、あいつといたら、不幸になる気がする」


 僕は、さっき自動販売機で買ったお茶を飲んでいた。するとレオが突然、こう言った。


「夢香ちゃん、お前のこと好きらしいぞ」


 僕は、口に含んだお茶を盛大に吹き出した。


「やめろよ、ほんとに」と、僕は自分のハンカチで床を拭きながら言った。周りは何が起こったのかという

目で2人を見ている。


 レオは追撃した。


「もしかして、お前も夢香のこと」


 「違っ…… 」


僕が手を伸ばして即座に否定しようとした瞬間、待合室にいた人が一斉に動き出した。試験時間が近づいているのだ。


 「とにかく、意地張りすぎんなよ。とりあえず試験頑張れよっ」


レオは僕の肩をポンっと叩き、微笑んだ。そして、踵を返して去って行った。試験に遅れないように足を踏み出した。

 

 僕は、感じたことのない不思議な気持ちになった。自分の胸がキュッと、締め付けられている気もする。


 夢香のこと嫌いなはずだったのに……


 この気持ちの正体がわかるまでは、すごく時間がかかりそうだ。

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