第3片

 デイドリームは、ウェザーヒーローズ本部の内装の豪華さに驚いた。デイドリームが田舎で育ったから余計に驚きが増したのかもしれない。


 中央に大きな階段が連なり、その上には大きな窓。その大きな窓から見える景色は、きれいな噴水。10本ほどある柱は、全て虹色に染まっておしゃれで……とにかくスケールがサイレントタウンとは桁違いだ。


 デイドリームは、言葉では言い表せないほどの感激を覚えた。


 階段を上がると、ウェザーズ本部の庭の噴水が鮮明に見えた。噴水は太陽に照らされ虹色に見えた。デイドリームは幸運を引き寄せたように思えた。周囲の人々も見えているはずだが。


 受験会場は「会議室03」だ。張り紙を見ると、会議室03は右に少し行った所にあるらしい。デイドリームは会議室03へ向かっていった。


 会議室03に着いた。ドアは自動なのだが、なかなか開かない。おかしいなと思いドアに触れようとした時、若い女性に声をかけられた。


「審査の担当の方、まだ来てないので開かないですよ!」


 声の大きい、元気な女性だった。容姿も良い方だと思う。好みのタイプだ。この女性は人生、得して来ただろうと思った。すると、女性が思いがけない声を発した。


「あれっ?デイくんじゃん!久しぶり」

 デイドリームは、本当に誰かわからなかった。初対面のはずなのに。


 女性は、僕の困惑した表情を見て、こう言った

「ひどいよ、デイくん。夢香だよ、古雲夢香こぐもゆめか」


 (好みのタイプだった)という事を撤回する間も無く、デイドリームは我に返るように忘れていた昔の記憶を鮮明に思い出し、心の奥底に沈んでいった……








【15年前 デイドリーム:7歳】

 あの日、デイドリームは家族と『リバティーランド』という遊園地に遊びに来ていた。昔のアメリカという国の巨大な像『自由の女神』が入り口に置かれている遊園地だ。


 「ジェットコースター楽しかったね!」


10歳で、デイドリームの兄であるクリアー・ココは笑顔で言った。


 「そんな訳なかろうがぁ」


 へとへとになったデイドリームの父さんであるブラウンが吐き捨てた。ブラウンはジェットコースターに三半規管をかき乱されたらしい。今にも吐きそうな顔をしている。


 ブラウンは、ウェザーヒーローで曇りの日に射撃が格段に上手くなる能力を持っている。ブラウンは、本部の中で3番目くらいに偉い人らしい。ココ一家の自慢だ。


 デイドリームも、とても吐きそうでクリアーに言い返す気力すら起こらない。


 デイドリームの母さんであるシャイニー・ココがこの状況を見て、少し笑った。


 シャイニーは昔から病弱で、病院にいるので、あまり外に出れない。だが、症状が良くなってきたのもあってか、乗り物には乗らない条件で、特別に病院から許可が降りた。


 シャイニーは病弱で今まで笑わなかった。デイドリームはシャイニーが自然に笑えるようになって良かったと思った。


 「次は何に乗る?」


クリアーが言うと、ブラウンとデイドリームは口を揃えて「ちょっと待った!」と止めた。

 

 また、シャイニーは笑顔を見せた。


 ココ一家は結局、アイスクリームを買って休むことにした。


 「アイスクリーム、おいひー!」


クリアーは、周りが「何事だ?」と思うほどに叫んだ。デイドリームも美味しいと思った。もちろん叫ぶほどではなかったが……


 デイドリームが「静かにしてよ」と言いかけた瞬間、聞きなれた声が聞こえた。


 「このおもちゃ面白い!」


買ってもらった車のおもちゃで遊ぶ、夢香の声だった。笑い声が空に響く。



 デイドリームと夢香は小学校が一緒で、よく遊ぶ仲だった。夢香は女子よりも男子と遊んでいる時の方が多かった。


夢香は運動が好きなので必然的にそうなるのだろう。デイドリームも夢香と一緒にドッヂボールや、サッカーをしたことがある。サッカーは他の男子と大差がないほど上手い。


 夢香は、はしゃぎながら後ろ向きで歩いている。おもちゃに夢中で気づいてないが進行方向には、カクテルホールと呼ばれる気候が入り乱れた荒れている天気の場所がある。


カクテルホールは、ダークウェザーズの行動が原因でできた、といわれている。いつもはフェンスがあるのだが、今日は工事の関係で空いていた。


 夢香は後ろ向きで進んでいって、カクテルホールの中へ入って行った。


それを見ていたブラウンは、「おい!待て!」と叫びながらカクテルホールへと走り出した。そして、その中へ消えていく。


その後、見ていた人達は皆、目を丸くして、立ち止まっていた。皆、入りたくても入る勇気がなかったのかもしれない。


その後は一瞬の出来事だった。


ズドーンと雷が落ち、雷光が視認できた。周囲から悲鳴が上がる。すると、夢花が泣きながら出て来た。タオルで顔を押さえながら出て来た。最初は、おもちゃを捨てなければならない状況だったから泣いているのかと思った。


だが、違った……ブラウンがなかなか出てこない。夢香に聞いても泣いているばかりだった。それから、しばらくしてもでてこないので大体の人が気付きはじめた


その後、クリアーにこう伝えられた。


「ブラウンは、夢香をかばって落雷で亡くなった」


デイドリームは信じられなかった。もう、「父さんに会えない」なんて嫌だと思った。そのまま思考が止まったまま、呆然としていた。



 後日、夢香の病室に行った。夢香は頭にひどい傷を負っていた。そんな夢香をデイドリームは責めた。責め続けた。


 「なんで、なんでお前のせいで、父さんが、死ぬんだよ……」


夢香は泣いて、何も答えられない。


 「おかしいだろぉ!」


デイドリームはそう言って、そばにあった夢香のハート型のキーホルダーを投げつけた。夢香は泣いている。


 デイドリームの叫びは看護師が見つけて、クリアーが止とめに来るまで続いた。


 それから、クリアーとも口論になった。デイドリームはクリアーに「勝手に病室に行くな」と怒られた。


 この頃から、夢香に対しても、クリアーに対しても無視をし続けている。というかまともに話せないのだ。




 「どうしたの?デイくん」


夢香が首を傾げて、デイドリームに声をかけた。


 デイドリームは、夢香のことを無視して去っていく。夢香はデイドリームを呼び止めなかった。


 そして、デイドリームがいなくなった後、夢香は呆然としていた。

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