アラサーに高校生のコスプレはしんどい3
「それはいいアイデアだ。あなたは確か、元の世界で子どもに携わる仕事をしていたんでしたね。ぜひ、学生たちを支えてやってください。賃金は学園が支払います」
「はい。お任せください! なんでもやります。掃除・洗濯・料理、一通りできます!」
「ええ。それから、王宮に慰謝料を請求しましょう。あなたは被害者なのですから、せいぜいふっかけておやりなさい。独り立ちに向けて、このグレゴワールが全力でサポートしてさしあげます」
「やった!」
聖ア・ラ・モード学園は全寮制の男子校である。学生たちの世話ができると思うと、腕が鳴る育美だった。慰謝料も貰えるのならありがたい。
「“お守り”を授けましょう」
グレゴワールは杖を一振りすると、魔力を注いだ。七色のまばゆい光が育美を包む。
「わっ?! なに? 異世界スキル?!」
「じきにわかります。どんな“お守り”なのか、お楽しみに」
「はは。いつの間にか変態認定されたり、得体の知れない魔法を付与されたり、面白くなってまいりました……」
この身ひとつで異世界転生した育美に、失う物なんてない。乾いた笑いの後、育美は真顔で問いかけた。
「学園長……この世界に残った異世界転生者もいるんですよね?」
グレゴワールは“ほとんどの転生者は、元の世界に帰っている”と言った。例外もいるとほのめかしているわけだ。
学園の外で生活する、そんなことがはたして育美に可能なのか。もし、先輩がいるのなら、心強い。
グレゴワールは口許に微笑を浮かべ、小首を傾げる。黒く塗られた長い爪で育美の顔の輪郭をなぞった。
「――頭の回転が速いひとは嫌いではありません。ただね、切り札はとっておくものですよ。あなたにとって誰が敵で、誰が味方なのかをじっくりと見極めてから、手の内を明かしなさい。この世界は現実でありながら非現実な乙女ゲームの世界。選択肢をたったひとつ間違えただけで、バッドエンドになりうるのですから」
「おっと! 自分、メタ発言は地雷です! ばいなら!」
不穏な気配を感じ取った育美は、全速力で駆け出した。“ヤンデレと、SNSで自分語りをしている奴からは逃げろ”これが、育美の信条である。
「なんでも屋っていうなら、自分が壊したドアくらい直していきなさいよ……まったく。これだから、異世界人は」
グレゴワールはぶつぶつとひとりごち、魔法でドアを直した。異世界転生者とのやりとりに思いを馳せる。
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