アラサーに高校生のコスプレはしんどい2

 この世界は女性が減少している。要人の伴侶を見つけるために、大魔術師が異世界から若い女性を召喚している。女性がいなくなれば、世界が滅びる。我々を救ってほしい――王宮の玉座の前に召喚された育美は、そう説得された。

(28歳が若い女性に含まれるかどうかは微妙なところね……)


 育美とて、自分から断れる立場でないことは十分に理解している。ただし、異世界転生者は数年おきに送り込まれる。

 育美を選ばなくとも、次の転生者を待てば、5人は伴侶を得られる。もしくは、この世界の女性を選ぶかもしれない。女性が減少しているとはいえ、まったくいないわけではないのだから。


「役目を終えたら自由の身になれるんですよ。少しの辛抱ではないですか。ほとんどの転生者さんは、元の世界に帰っていますし」

「わたしが気になっているのはそこです」


 伴侶を選べばハッピーエンド……になるわけではない。転生者が元の世界に帰る条件は、“本気の恋をして、子どもを産むこと”――

 言い換えれば、子どもを産んだら、元の世界に帰らなくてはならないのだ。


「お腹を痛めて産んだ我が子を、どうして手離さなければいけないんですか? ましてや、異世界に残していくなんて考えられません」


 育美は、愛情を注いで我が子を育てたいと考えている。肉親の縁が薄いため、あたたかい家庭を作りたいという想いが強いのだ。

 手元に置いておけないばかりか、二度と会えないなんて……我が子が母親の愛情を知らずに育つなんて、想像しただけで涙がこぼれてくる。


「心配しなくても、転生者の子は宝として大切に育てられます」

「転生者はわたしの他にもいるでしょう。だけど、子どもにとって、母親の代わりはいないんです。わたしはこの世界で子どもを産みたくない。たとえ、元の世界に戻れなくてもいやなんです」

「転生者さん……あなたってひとは」


 きっぱりと言い切った育美に、グレゴワールはかすかな笑い声を漏らした。艶っぽい笑みに惹きつけられる。学園長が“隠し攻略キャラ”でもおかしくないと育美は思った。

 タイトルに『ウルトラ』がついているのだ。その前に『スーパー』や『無印』が存在してもおかしくない。いずれかのシリーズで、グレゴワールは攻略対象なのではないか……


「あなたの気持ちはわかりました。それで、今後はどうなさるおつもりで?」

「ゆくゆくは学園の外で生活するつもりですが、まずはこの世界の一般常識や生活習慣を学びたいです。しばらく時間をください。この学園にいる間、なんでも屋を開業しようと思います。自立するには、お金が必要なので」

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