第1章 アラサーに高校生のコスプレはしんどい1

「学園長、ちょっと面貸してください」

「キャアッ! なんですか、やぶからぼうに……」


 育美が学園長室のドアを蹴破ると、学園長――グレゴワール・J・ボリビエは女子のような悲鳴を上げた。

 全身黒装束。透ける素材の布で顔を覆っているが、美形は隠せない。流れるようなぬばたまの黒髪。年齢不詳の美丈夫だ。学園長というより、ラスボスと呼んだほうがしっくりくる。


「転生者さん! あなた、その服はどうしたんです?」


 育美は転生時に着用していた仕事着、エプロン・トレーナー・ジャージを久しぶりに身につけた。保育士の戦闘服だ。エプロンにはウーパールーパーのアップリケがついている。

 育美は異世界エルデベータのア・ラ・モード国に転生し、国王に『聖ア・ラ・モード学園』に通うように任命された。つまり、昨日まで学生として所属していた。

 学園に滞在するのは、伴侶候補――攻略対象が学生だからだ。とはいえ、育美が学生に扮する必要はなかった。

 若く見られる日本人とはいえ、育美はアラサー。学生で通すのは無理がある。


「28歳に制服って厳しくないですか?」

「あら、やっと気づいたんです? なにも言わないんで、好きで着ているのかと」

「くっ……! 知らない間に変態のレッテルを貼られている!」


 聖ア・ラ・モード学園のカリキュラムは独特だ。ハイスクールなのだが3年間ではなく、5年間で卒業する。高等専門学校と同じ仕組みだ。

 ア・ラ・モード国の成人年齢は18歳。学園内では成人した(もしくは間近の)異世界人が、学生服を着て生活している。


(え? わたしも高校生の制服を着るの? おかしくない?)

 そう思いつつも、育美は言い出せずにいた。いきなり異世界転生した動揺もあって、我慢していたのだ。

 もう遠慮や気遣いは無用である。攻略対象の好感度を上げる必要もない。育美はひとまず、『学生ポジション』を訂正することにした。


「わたしなりに努力したのですが、伴侶を選ぶことができませんでした。お見合いは辞退します。学生もやめます」

「おや、選りすぐりの青年たちですのに。お気に召しませんでした?」

「わたしが嫌われているんですよ。若い男の子におばさんをあてがうのは酷でしょう。それに、わたしにも好みがあります。年下は守備範囲外です」


 育美は肩をすくめる。5人の攻略対象は育美から逃げ回っている。おそらく、警戒しているのだろう。露骨に嫌がられるのは胸が痛い。

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