異世界スキル ママ味~年下男子に母性本能をくすぐられています!~

その子四十路

プロローグ 異世界転生者は恋愛ノイローゼ

 中谷なかたに 育美いくみは疲れきっていた。男はみんな赤ちゃんなのだろうか。

 おれさま・脳筋・ヤンデレ・ド天然・女たらし……どいつもこいつも赤ん坊。育美は、問題児揃いの攻略対象を思い浮かべる。


 3か月前――育美は異世界エルデベータに召喚され、5人の青年の中から伴侶を選ぶように命じられた。

 勝手に召喚した挙げ句、強要されるという不条理。しかし、異世界転生は片道切符。要望を聞き入れなければ、元の世界に帰ることはおろか、生命の保証だってない。


 育美は努力した。伴侶候補と親交を深めようとした。だのに、まったく好感度が上がらない。

 伴侶候補の頭上に浮かぶ好感度0のステータスを見て、育美は気づいた。

(あ、これ、乙女ゲームだ。スマホゲームの『ウルトラ・イケメン・ア・ラ・モード』の世界じゃん)

 よりにもよって乙女ゲームの世界に転生してしまうとは……


『ウルトラ・イケメン・ア・ラ・モード』――地獄を煮詰めたようなクソダサタイトルは、忘れたくても忘れられぬ。

 知人の森永もりなががゲーム開発者だったことから、育美は開発途中のβ版をテストプレイしている。美麗なキャラクターデザイン、課題をクリアすると解放されるR18ストーリーがすばらしかった。時間と精神力をごりごりに削られるゲームだったが。

(正式リリースされたら、廃課金勢が続出するだろうなぁ)

 推しの全エンドを見届けたい、スチルをコンプリートしたいという気持ちはわかる。しかし、育美はいまいち入り込めなかった。


「こちとら28歳なのよ……8歳も年下の男の子たちと恋愛するのはきついって」


 攻略対象は美男子ばかり。されど、育美よりもうんと若い、平均20歳。どうしても、子どもにしか見えなかった。

(彼らの中から伴侶を選ぶなんて無理だ。元の世界に帰るのはあきらめよう)


 おぼろげだが、異世界転生する直前に、階段から転げ落ちた記憶がある。こういう場合、元の世界の育美は死んでいるのがセオリーである。

(覚悟を決めたら気が楽になった。明日からは、彼らを子ども……いや、赤ちゃんとして接しよう)


 育美は子どもが好きだ。元々保育士をしていた。母性ならば有り余っている。

 この決意が後にどんな事態を引き起こすかも知らず……育美は微笑みながら眠りに落ちた。

 繰り返すが、育美は疲れており、思考能力が低下していたのだ。

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