第6話 雨の日の学校

6月に入り、俺の好きな季節がやってきた。


何故好きかと言うと、雨の単調な音が心地いいからだ。


でもそれは家での話で、それが外出するとなると話が変わる。


今俺は、朝ごはんを食べていつもどうりに家を出ていく。


(今日雨か…足が濡れるのだけが嫌なんだよな)


雨の中傘をさして、歩いていると前に見覚えがある人が歩いている。


大きく見開いた目で見てみると、伊藤さんが登校しているのを見つけた。


俺は声をかけるか迷ったが、誰にも見られてないことを確認し、話しかける。


「伊藤さんおはよう。」


「…おはようございます。」


後ろから声を急に話しかけられたので、少しビクリとしていた。


「今日は雨だな」


「…急に変ですよ?」


当たり前なことを言ったので、言葉の選択をミスって少し恥ずかしい。


「悪いな俺日本語が下手で」


「日本語にうまい下手もないと思いますが?」


歩きながら、微妙に伊藤さんにフォローされいるがそれが逆に傷つく。


そんな会話をしていたら、雨が強くなってきた。


学校ももうすぐで着くので、伊藤さんと少し走る。


足が少しづつ冷たくなっていることが感じ取れる


(最悪…絶対足濡れた)


足が気持ち悪いが、学校に着いた。


「雨急に強くなったな」


「そうですね」


下駄箱のところで俺と、伊藤さんは少し息を整える。


傘を閉じて、傘さしにさす。


思った通り足が濡れる事態が起きたので即座に靴下を脱ぐ。


俺はタオルを持ってきたが、伊藤さんは忘れたみたいだ。


「髪の毛濡れたのか、これ使え」


正直自分も使いたいが、足が濡れただけなので我慢すればいい。


それに美少女が髪の毛濡れていたら、ほかの男子が群がってめんどくさい事になる。


「いいんですか?」


「お前が濡れてると、男子が群がって来るぞ?」


「…そうですね。」


靴と靴下を脱いで、上履きを履く。


俺の手から、タオルをとって自分の髪の毛を拭いている。


少しこちら向いて不安そうな声で質問してくる。


「いいんですか…こんなところ見られたらめんどくさくなってしまいますよ?」


「それもそうだな、じゃあ先に行ってるな。」


俺はその場所を後にする。


1年C組の教室に着いてドアを開ける。


「涼太〜おはよぉ!!」


今日もこいつは元気だなと思いつつ、自分の席に座る。


無視されたと思い、俊が少しムカッとしながらこっちに近ずいて来る。


「涼太〜無視しないでよ!」


「(棒)はーい」


「酷い!」


そんなつまらない会話をしていると着席のチャイムがなり、それと同時に俊が自分の席に戻っていく。


(伊藤さん、来ないけど大丈夫かな)


その瞬間に、ドアがガラガラと開く。


伊藤さんが俺の隣の席まで、よく学園系の小説で見る登場の仕方で俺は少し興奮する。


(小説で見た感じ、こんな感じなんだな主人公の気持ち)


「どうしたの私に何かついてるのですか?」


こちらを見てきたので、即座に黒板を見る。


伊藤さんが少し首をかしげながら、俺の隣の席に座る。


(やべぇ不審に思われたな)


恥を隠しながら、授業を聞くことにした。


雨の音とともに、黒板にコンコンと書く音が教室に反響する。


俺は雨が降っている外を見て、早く授業が終わらないかなと言う願望を考えていたら、急に先生に当てられる。


咄嗟にたってしまう。


「おーい涼太、ここの計算の答えなんだ?」


「は、はい!」


(やべぇなんも見てなかった。)


急に当てられたことで頭が真っ白になっていると、横から小さい声で「これですよ。」と言っておりそこには、答えが書いてある。


「150°です」


「正解だ。」


ふぅ、吐息を出し隣を見て感謝を伝えようと横を向く。


「ありがとう、伊藤さん」


「どういたしまして。」


俺は、伊藤さんが完璧な女の子と言うことをしっかりと再認識する。


そうすると、学校のチャイムがなった。


(ふぅー終わったぁ)


まだ1時間目だが、6時間終わったような疲れが体をおそってくる。


俺が疲れていると、横から伊藤さんに話しかけられる。


「1時間目で疲れていたていたら、あと5時間やっていけないですよ?」


言葉が心にもろに突き刺さる


「ごもっともです」


俊が後から抱きついてくる。


「イチャイチャするなよぉ」


「抱きついてくるな」


俺は、立ち上がって教科書を自分のロッカーにいく。


後ろから涼太が着いてくる。


「ごめんってぇ」


「いいけど横に伊藤さんいるんだから変なことすんな、気まずくなるから」


俺がそう言うと、OKマークをしてきた。


こいつこう見えて、俺の事昔から友達と唯一見てくれたから少しは信用しようと思う。


会話を終え、自分の席に戻る。


「なんかあったのですか?」


「なんでもない。」


なんでもないって言ったら嘘になってしまうが、いちいちこんなことまで喋っていたら彼女にも申し訳ない。


4時間目まで終わり、昼休みに入った。


「涼太、弁当食べようぜぇ」


「まぁいいけど」


4月に高校に入って、この会話にも慣れてきた。


横を見ると、伊藤さんが弁当を出して1人で食べている。


まぁここで誘うのもいいのだが、俺はそこまで勇気がないので、俊が誘ってくれることを期待する。


「伊藤さーん、一緒に俺たちと弁当食べない?」


「…いいんですか?」


「いいよー!涼太もいいよな?」


こうゆう時に頼りになるのが、俊だ。


「伊藤さんがいいなら俺も問題ない。」


そんな会話をしていると、瞳もその会話に入ってくる。


「私も入れてぇ!」


椅子を持ってきて、準備満タンな感じであった。


「伊藤さん嫌なら言えよ?」


「……分かりました。」


ご飯を食べながら、話をしようとするのだがよくよく考えるとこれは結構まずい感じだ。


何故かと言うと、俺以外この3人は学校でも人気なので困る。


俊はイケメン、女子にモテモテで入学当初最初から連絡先を聞かれるほどだ。


瞳はカワイイ系の女子で、女子にも人気だしもちろん男子にも人気だ。


まぁ伊藤さんは、言うまでもないが美少女で成績優秀とハイスペックだ。


こんな感じで、俺がここに居るとものすごく浮くので非常にまずいのである。


(俺浮きすぎだし、周りに見られるの恥ず)


「亮太さん大丈夫ですか、顔が絶望に浸ってますけど?」


「ああ……大丈夫だ。」


「それならいいのですが…」


口に、ハンバーグを入れるが味がしない。


この展開は俺が望んだことだしここは、この空気に合わせるしかない。


「涼太〜緊張してるだろぉ」


「涼太くん、この瞳と食べれるんだから嬉しいでしょ?」


「いや全然」


「涼太くん酷い!」


このメンバーで、校外学習に行ったけどなんでここまで瞳とも仲良くなってるのか俺も不思議でならない。


俊の彼女としか知らなかったけれど、彼女なりに俺とも仲良くしたいのだろうか。


「涼太さん、弁当美味しそうですね。」


「あ…これは俺が作った、余り物だけどな」


彼女なりの会話を広げようと努力してることが分かる。


その努力に答えようと俺も話をする。


「伊藤さんも手作りなのか?」


「そうですね、親が私もそこまで家に居ないので。」


「2人とも料理できるのすごーい!」


俺と伊藤さんの弁当を見て瞳が俺に、ハンバーグを欲しそうに見てくる。


あげるのはいいのだが、ハンバーグがあと2個しかない。


それに俺の好物だ。


「しょうがないなあげるよ」


「やった!」


嬉しそうに、俺の弁当からハンバーグをひとつ箸でとり、口に入れる。


幸せそうな顔をして食べている。


(俺の好物が…)


横を見ると伊藤さんもなにか言いたそうにしているので、「どうした」と聞いてみる。


「あの、私も食べたいです。」


伊藤さんが食べ物を欲しがると言うことをしてくることが新鮮すぎて、俺は一瞬思考が停止する。


(え?)


思考が戻り、この状態をどうしようか考えるがハンバーグをあげることにする。


「嫌なら…大丈夫です。」


「いいよ食べな」


「…いいんですか?」


「あーうん」


伊藤さんが箸でハンバーグをとって自分の口に入れる。


一瞬だけ目が表情が緩くなって美味しそうにしている。


「美味しいか?」


我に戻ったのか、伊藤さんが無表情にもどった。


「美味しいです。」


伊藤さんに美味しいと、思ってと貰えたことに喜びを感じる。


弁当をあげるなんて、昔の俺には出来なかっただろう。


これも校外学習のおかげであるだろう。


「伊藤さんの口に合って良かった。」


そう言いつつ、俺は笑みが溢れると水を差すように俊が話しかけてくる。


「あれぇ、いい感じじゃん」


「そうだねぇ」


俊と瞳がいじってやろうと企んでるので、はぁとため息が出る。


そうな会話の最中に、陰口が聞こえてくる。


俺のことを言ってるらしい、なであいつがとか、俺を批判するようなそんな陰口が聞こえてくる。


そんな中、伊藤さんが小さい声で話しかけてくる。


「私は、気にしていませんから大丈夫です。」


伊藤さんがそう言ってこちらを見てくるので、俺は暖かい気持ちになる。


こんな感情は、いつぶりだろうか……。


俺が、あの虐められてた女の子に放った言葉はこんな気持ちになるのだろうか。


そう感じつつ、まだ温かさを残したご飯を口にする。






ご飯を食べ終えると、みんなも既に食べ終わっていた。


「涼太、また放課後な」


「そうだな」


机を元の状態に戻して、自分の席に戻る。


そうしていると、次の授業開始のチャイムがなるので引き出しから教科書を出して先生を来るのを待つ。


(久しぶりだったなあんな気持ちになるのわ)


ぼんやりとしていると、横から伊藤さんが話しかけてくる。


「私は、あなたのお友達ですから。」


と言い、少し微笑む。


それを聞いた瞬間俺は、友達だと思われていること以前に俺の言葉では表せないほどの気持ちになった。


恥じらいを隠しつつ俺は、「ありがとな」と伝える。


俺はこの事をきっかけに学校が少し好きになった。


放課後になり、俺はカバンの中に教科書を入れていると俊がこちらに来る。


「今日も学校終わったな」


「お前は、サッカーあるだろ」


「サッカーは、楽しいから関係なし」


俊がそう言いつつ、質問してくる


「最近お前変わったよな」


俊は、そう言いながら肩を組んでくる。


それは俺も感じている、今までの俺では女子にも話しかけることができなかったが今の俺にはできる。


「そうだな」


俊が嬉しそうに、「サッカー部に復帰しないか」と勧誘してくるので、


「それは遠慮しておく」


そうすると、俊が悔しそうな顔をしている。


俺がサッカー部の時には、こいつにお世話になったし1番俺の事を信用していた。


「気が変わったらまた言いに来いよ!」


そう微笑んで言うので、少し気恥ずかしくなる。


「あ、やべもうこんな時間か部活行ってくる。」


そう言い残して、この場を去る。


俺の学校は、弓道、サッカーの強豪校で俊はサッカーで活躍している。


それで1年生だから、忙しいと言うことも納得出来る。


(俊も頑張ってるんだな)


そう感じていると、俺も読書部に行かなきゃとカバンを持つ。


教室のドアを開けて、図書館に移動する最中に弓道場の横を通る。


(確か、伊藤さん弓道部だったよな)


練習する音が聞こえたので、少し見ようと観客席から練習を見る。


目を凝らしてみていると、伊藤さんが弓を引いている。


(伊藤さんすごいな)


弓道は、集中力をものすごく使うと聞いたことあるが実際に見ると、全然違った。


雨が降っている中、自分の放った弓矢を取りに行く伊藤さんは必死そうだった。


(伊藤さんも夏に弓道の試合あるんだもんな)


雨の中でも必死に自主練をしている伊藤さんに、本しか読んでない俺が少し恥ずかしくなる。


そう考えながら見ていると、こちらに気づいて近ずいて来る。


「涼太くん、何しに来たのですか?」


「いや、図書館の途中で雨なのに練習の音が聞こえたから見に来た。」


咄嗟に嘘をついたが、本当はただ練習を見に来ただけだ。


伊藤さんは、不思議そうにこちらを見てくる。


「自習練習しないと、試合で勝てないので。」


「頑張ってるんだな」


運動神経がいいとか、色々と言われていたが本当は努力しているんだ。


勘違いをしていた俺が、少しだけ腹立たしい。


「…少しだけ見ていきますか?」


「見てもいいなら」


俺がそう言うと、「いいですよ」と優しい声で返してくれる。


弓道着を着ている伊藤さんは、少しかっこよく見えた。


彼女が、弓矢を引くとミシミシと音が聞こえて相当力を使うことを知る。


(伊藤さん握力凄そうだな)


その瞬間伊藤さんは弓を放つ、綺麗に中心に当てる。


集中していたのか、疲れを顔に出す。


「休憩しないのか?」


「そうですね、少しだけ休憩します。」


そう言うと、矢を取りに行き弓を弓立てに置く。


射場から観客席に座りに来る。


伊藤さんは、カバンから水筒を出して蓋を開けて飲んでいる。


(少し服が透けてるの気づいてるのか、これ)


「どうしましたか?」


顔を即座に別の方向に向けて、指さしながら伝える。


「お前服透けてるぞ?」


「服?………もしかして見ましたか?」


見てないと言うのは違うが、あれは事故だろと考える。


それに恥ずかしそうにしていないのがやはり、いつもの伊藤さんって感じがする。


「見てないって言っても信じないだろ?」


「…これはしょうがないです、悪意を持って見てるわけではなさそうなので。」


「少しあっちを向いていてください」と言われたので、俺は後ろを向いてく。


服を着替えてる思うのだが、伊藤さんは何か抜けているような気がする。


例えば今普通に考えると、更衣室に行くとか、誰もいない場所で着るとかあるのに俺が居る場所で着替えているからだ。


(これが、本物の天然と言うものなのか)


俺の近くで着替えるとは、信用はしてくれていることが分かる。


それはそうと、これは少しぐらい変な気持ちになってもしょうがないだろう。


後ろに美少女が服を着替えているところを考えると、顔が火照っているのが分かる。


「もういいですよ。」


伊藤さんの方を振り向くと、着替え終わっている彼女がいた。


「着替え終わったんだな」


「はい、今日はここら辺で練習終わります…少しだけ図書館に小説を返しに行かなきゃ行けないので。」


俺も時間を見て、そろそろ行かないといけないと思いカバンを持って準備をする。


伊藤さんも準備が終わったらしいので、一緒に図書館に移動する。


「聞きたいことあるんだけどさ」


「なんですか?」


「伊藤さんって俺の近くで着替えてたけど、異性なのに気にならないの?」


少し顔を見えないようにして、小さい声で何か言っている。


「……信用していますから」


聞こえなかったが、まぁ聞かれたくないなら聞かないでおこう。


伊藤さんが顔を上げると普通のいつもの無表情に戻っていた。


「まぁ…とりあえず図書館に行こうか」


「そうですね」


2人で図書館に時間が時間でそろそろ鍵が締められるので、少し急ぐ。


図書館に着くと、まだギリギリ図書館がやっていて先生に「鍵閉めるけど本借りますか?」と言われたので、「はい」と答える。


図書館に入ると、本の香りがとても居心地がいい。


(いやそんなこと考える前になにか小説を借りなければ)


伊藤さんも、急いで借りる本を選んでいる。


俺は久しぶりに、吾輩は猫であるでも借りようかと本を手に取る。


「涼太さん、何借りるのですか?」


「俺は久しぶりに、吾輩は猫であるを借りる」


そう言うと、横から伊藤さんが本をとる。


「それなら私も…坊ちゃんでも見ます。」


俺と揃えてきたのは、少し何故かと思ったが伊藤さんも夏目漱石が好きなことに嬉しさを感じた。


とりあえず先生に迷惑をかけていることが明白なので、早めに出ることにする。


「すいません先生」


「本を読むことは、いい事なので続ける事ね。」


この先生は、俺の部活の先生だが少し変な人だ。


急に小説を読んでると泣いたり、笑ったりとかなりのオタクだ。


まぁいい人では、あると思うが━━━


俺が図書館の鍵を閉めて先生に鍵を返す。


「良かったなギリギリ本借りれて」


「そうですね、運が良かったです。」


何回も見てる小説だったけど、この小説面白いからいいかなと思う。


廊下で2人で、本を持って下駄箱まで歩いていく。


「……帰るか」


「そうですね」


下駄箱で靴を履き傘をさして、伊藤さんと帰り道を歩く。


靴が既に濡れてたので、足の感覚がすぐに無くなった。


「涼太さん、家で今日は何するんですか?」


「……料理することぐらいしか」


「妹さんいますからね」


伊藤さんがそう言うと、少し悲しい顔をする。


俺は、なんか変なこと言ったのかと心配になる。


「伊藤さんなんかあったのか?」


「ただ…今日は親がいないんです。」


そういえば前に、たまに親がいないと言ってたような気がする。


俺も中学生から経験しているが、妹がいたおかげでそこまで悲しくはなかった。


でも、伊藤さんは一人っ子らしいのでいつも一人で家にいるのは悲しいだろう。


俺の家には美咲がいるので、少し誘いにくいので美咲にメールで連絡をする。


(俺の同級生誘うけどいいか?)


(えぇー!友達できたの)


(別にいいよ☆)


なんで友達いない判定なのは、意味がわからないがいいらしいので誘ってみる。


「伊藤さん今日も一人なら俺の家来るか?」


「え…いいんですか?」


「伊藤さんがいいなら」


俺も前に、昼飯をご馳走してもらってるし今日は俺の得意な麻婆豆腐なので味は保証できる。


「なら、少しだけお邪魔します。」


これで、少し恩返しできるのであるなら大歓迎だ。


少し歩くと俺の家に着く。


「ここ俺の家、入っていいよ」


「…お邪魔します」


足音が居間から、すごい速さで聞こえてくる。


そうすると美咲が顔を出す。


「友達って……え!?」


(あ〜面倒くさくなるこれ)


「こんにちは伊藤と申します。スーパーマーケットでお世話になりました。」


美咲は俺の手を握って、目をキラキラさせている。


「お兄ちゃん春が来たんだね」


「はいはいそうだな」


美咲の言葉を華麗に流す。


美咲の近くまで行き注意事項を話しておく。


「伊藤さんは大人しいから、変なことするなよ。」


「任せといてお兄ちゃん」


少しだけここは、美咲を信用してみようと思う。


美咲は、次に高校に上がるのでさすがにそろそろ大人になってもらいたい。


「涼太さん、何考えてるのですか」


「しょうもない考え事してただけだ、きにしなくていい」


とりあえず立たせるのは、申し訳ないので伊藤さんを居間に連れていく。


俺の家に、美咲は妹だけど2人の美少女が居ると言うのは少し妙な気になる。


伊藤さんをソファーに座らせて、俺はお茶をガラスのコップに入れてお盆に乗せて持っていく。


居間にもどると、美咲がなにか話しかけている。


「伊藤さん、好きな人いるの?」


「え…いませんよ?」


お茶を乗せたお盆を持ちながら俺は、少しため息を吐き期待しない方が良かったと後悔する。


とりあえずめんどくさい事にならないようにお茶を伊藤さんに出す。


「美咲、あんま変なこと聞くなよ?」


「わかってるよお兄ちゃん!」


(こいつわかってねぇだろ)


お母さんに、似ている美咲は気になったことをすぐに聞く奴なので伊藤さんに近ずけると質問攻めにされるので少し心配だ。


俺のお父さんは、大人しくて人の話をしっかりと聞くタイプなので妹とは正反対な性格だ。


そんなことを考えながら、俺は伊藤さんに出す料理を作る。


(麻婆豆腐は作り慣れてるから楽しいな)


そう考えながらごま油に乾燥した鷹の爪を入れる、そこにニンニク、しょうがを順番に入れる。


いい感じに火が通ったら、ひき肉を入れて全体に熱を通し豆豉醤と豆板醤を両方大さじ3ずつ入れる。


ひき肉に味が染み込んだら、水を加えそこに切って置いた豆腐をいれる、水で溶かした片栗粉を少しづつ入れて混ぜたら完成だ。


(よし、完成だな)


これが俺流の麻婆豆腐だ。


ご飯と、ワカメスープをお盆に乗せて居間に持っていく。


2人で喋っているのでご飯ができたことを伝え、テーブルの上に置く。


「今日は麻婆豆腐と、ワカメスープ、ご飯だ。」


「やったー!お兄ちゃんの麻婆豆腐美味しいだよね。」


いつもの反応だが、今日は伊藤さんがいるのでさらにテンションが上がっている。


「これ、貴方が作ったのですか?」


「まぁ手作りだから口に合わないかもだけど、食べてみて」


「いえ…凄いなと、食べさせていただきます。」


伊藤さんは、そう言って手を合わせて「いただきます」と小さい声で言う。


美咲は、麻婆豆腐を取ってご飯にかけて食べている。


口を膨らませて食べているので、作る甲斐があった。


伊藤さんも、スプーンでご飯にかけて箸でご飯と麻婆豆腐を掴んで食べている。


(口にあってくれ…)


「…!」


「美味しいですね」


(口にあってよかった。)


俺は安心感と嬉しさで、後ろを向いて手でガッツポーズをする。


伊藤さんが、無表情だが箸がとても進んでいるので相当美味しいのだろう。


見ていると、いつの間にか麻婆豆腐が全部無くなっていた。


「麻婆豆腐どうだった?」


「いつも通り美味しかったよお兄ちゃん。」


美咲は、グットポーズをしてくる。


伊藤さんはと言うと、綺麗にご飯粒まで全部食べてある。


「伊藤さん綺麗に食べるんだな」


「美味しくてつい食べてしまいました」


しっかりとべた褒めされたので、自信がついた。


こうやって2人がご飯を食べているところをみていたら、嬉しくて笑顔が溢れる。


「涼太さん、私そろそろ帰りますね。」


「あ、もうこんな時間か」


つい時間を忘れていたので、伊藤さんを玄関まで見送る。


「またあしたな」


「…はい。」


ドアを開けて、静かに閉じる。


俺は、見守ったあと居間に戻ろうとすると美咲が服の端を弱めで引っ張っている。


「話したいこと…ある」


「急にどうした?」


美咲が、急に少し悲しそうな声出しゃべってくる。


いつもと違う美咲に俺は戸惑う。


この空気はあの時の美咲を思い出す━━





美咲とまだ同じ中学校の時、美咲は親と離れることをとても嫌がっていた。


それはそうだ、まだ中学1で初めての中学校生活なのに親が海外に行ってしまうからだ。


だから美咲は、友達と仲良くすることで親がいないことを忘れようとしていた。


(現実逃避はいけないけどしょうがないよな)


何も出来なかった俺は、兄貴失格だと思う。


ある時、美咲に居間で一緒にテレビを見ている時にふと言われたことがある。


「お兄ちゃんって好きな人いるの?」


「俺のこと好きになるやつなんて、いないぞ学校に」


美咲は、少し微笑んで優しい声で話す。


「いや居るよ」


「え?」


「ここにね。」


そう言いながら、俺のほっぺにキスをした。


初めて頬っぺたにキスされたので、咄嗟の行動に俺は驚いた。


俺の妹にそんな事されると思うわけがないからだ。


「え?」


「お兄ちゃんに彼女ができなくても私がなってあげる!」


その時俺は、美咲のことを守ってあげたいと決意したのだ。



その雰囲気が、高校に入って今また来たのだ。


「どうした?」


俺は、美咲の頭を撫でながら微笑む。


「お兄ちゃん…あのこと覚えてる?」


身長差があるので、美咲が俺に目線を合わせるために上を向く。


俺はその質問に答える。


「忘れるわけないだろ」


美咲は、俺の体を抱きしめて少し涙を流す。


急に抱きしめられてびっくりしたが、優しく抱きしめ返す。


「覚えててくれてたんだ」


「そりゃな妹にキスされたこと、忘れるわけない」


俺がそう言うと、「少しこのままにさせて」と美咲に言われたので言われた通りに気が済むまで抱きしめた。


俺は今まで美咲に何かしただろうか、少しでも何かをしていれば今頃彼氏が出来てたかもしれない。


(本当に兄貴失格だな俺は…)


数分して、美咲が「ありがとうと言って」自分の部屋に階段を上って帰っていく。


その際少しこちらを向いて、「…おやすみ」と一言言う。


俺はその言葉に、「おやすみ」と返す。


俺は、なんで守れなかったのだろうか親のせいにすれば全て終わるがそれは何か違う気がする。


兄貴として、反省しなきゃ行けないことを心から感じる。


(兄弟で好きはダメだよな)


考えながら自分の部屋のドアを開けて中に入る。


ドアを閉めて、ベットに寝転がる。


(あの時のキスはものすごく優しかったな…)


俺は、複雑な気持ちでいっぱいになり頭を搔く。


(とりあえず今日は寝よう)


そう考え、リモコンで電気を切り布団をかけて目を閉じる。


何時間たったのだろうか、目を閉じたが寝ることが出来ない。


久しぶりに美咲に抱きしめられたら、気になって眠れない。


(平常心、平常心)


そうすると、ドアが開く音が聞こえた。


(…誰だ?)


目を閉じていると、耳元で話しかけられた。


「お兄ちゃんが悪いんだよ」


この声は、美咲の声だった。


(え、え?)


頭がテンパって、なんで俺の部屋に来ているのか理解が出来なかった。


「待ってたのに、私悲しいよ。」


そう言いながら布団の中に入ってくる。


美咲の専用シャンプーのラベンダーの匂いがふんわりと香る。


(どどど、どうゆう状態)


美咲が、俺の体に抱きつきながら眠ろうとしている。


戸惑いと可愛さで頭が頭がパンクしそうになる。


「お兄ちゃん暖かい、大好き。」


(大好きか…)


そうだ、小学生から中学1年生まで2人で寝ていた。


俺は最近高校に集中しすぎて、美咲に構ってあげられなかったし遊びにも連れて行けてなかった。


(これぐらいならいいか)


そう考えおれは、妹と一緒に寝ることにした。


雨の音が、部屋に響きながら眠りに落ちる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る