第5話 試験、そして試練

「そこまで! 筆記試験はこれで終了です。受験生は速やかに移動し、実技試験会場に向かいなさい」


 ふう。もう思い残すことはない。実際、私の試験はここまで。できることはすべてやりきった。次の実技試験は二人一組での対戦形式。まわりはみんなお貴族さまの御子息や御息女で、希少な魔法適正をもった人や小さなころから鍛えられた剣の技術を持っているひとたちばかりだ。私は、早々に降参して棄権するつもり。大怪我なんてしてしまったら、私を待っている本当のお仕事先に迷惑がかかってしまう。



 

「13番、ガーランド・サヴォイア。そして292番セレス」


 私の名前が呼ばれた。この試験に参加できたことを心の中で神さまに感謝する。


「なんだ、平民の小汚こぎたねえチビ女か」


 ああ、この人には筆記試験前、会場に入る前に突き飛ばされたんだった。平民。そうこの数百人近くの受験生の集まる会場で平民なのは私だけだと思う。着ていく服が無かったのでシスターが見習い修道女だったときのお古を借りて着ているけど、そんな真っ黒な格好をして場違いなのが余計目立っていた。他の受験生からの陰口も聴こえていたけど、そんなに気にならない。孤児である私たちは町への買い出しのお手伝いなんかで、そんな目にはよく遭うのだ。そんなことよりこの試験に参加できたことの喜びを私は噛み締めていた。この先、子どもを持つようなことがあったら伝えたい。お母さんは精霊騎士の試験を受けたことがあるのよって。


「始め!」


 試験官の声が響いた。私は降参の意思を示そうと木剣を手放し両手をあげようとした。


『左だ。左に躱せ!』


 えっ、何? 理由もわからないまま私は左に避けた。私のいまいた場所の地面が深くえぐれていた。何これ? こんなの死んじゃうじゃないの。いまのは魔法攻撃、それも命に関わる威力のものだ。実技試験ではそんな強力な攻撃は禁止されているって説明されたはずなのに。私は試験官のほうを見たけど何も問題はないと首を振っていた。ああ、これが貴族と平民の扱い。ほとんどを教会で過ごす私たちは知識としては教えられていたけど、お貴族さまと接する機会なんてあるはずもなく。平民に対しては、時として法すらげられるというのは本当のことのようだった。


 なんてこと。私が過分かぶんな望みを持ったからなの? ああ、ごめんなさい神父さま、シスター……。私がもう諦めかけていたとき、またあの声が聴こえた。


『一歩下がれ。同時にそのまま剣に力を込めて横に振り切れ!』


 だ、誰なの? 私は言われるまま剣に体重を乗せて振った。


「ぐぅ! こ、この平民風情へいみんふぜいが。こ、この僕によくも恥をかかせてくれたな」


 私の木剣が脇腹に直撃して膝をつく彼。その顔は憤怒ふんぬゆがんでいた。彼は何かをブツブツとつぶやき始めた。


『この小僧、火炎系魔法をとな。もうこれは度が過ぎているな』


 再び男の人の声が聴こえた。そして私の前に黒いもやのようなものが現れた。どう見てもそれは良くないもののようなのだけど、私には不思議と恐怖心は無かった。


「がっ、ああ! ぐわぁっ!?」


 その靄が対戦相手を包み込む。一瞬で彼は白い骨だけになってしまった。


「あう、あ……(ああ、これはなんなの?)」


 その白い骨も風にさらわれ粉々になって消えてしまった。


「あ、暗黒魔法……。悪魔だ! この女、悪魔だ!」


 試験官が叫ぶ。えっ、私? 悪魔って何?

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