第16話愚者は逃げ、2人の手の平で狂い踊る

「はい、お得意様のデータはコイツのパソコンも含め保管されてないか削除&チェック完了。

返してもすぐ撮影して逃げそうだから、おれ達がこの店出るまで預かっとくね?

……いいよね? ねぇ?」


「ひゃ、ひゃいぃ……」


心が折れたのか返事だけは素直だ。返事だけは。


「旦那ぁ、ロープか何か縛れる物ねぇか?

コイツを動けないようにしとかねぇと安心出来なくてねぇ?

念のため勝手に動けないよう拘束しときたいんだわ、店出るまでな」


「仕方ねぇな。ほれ、窃盗で暴れる奴に使ってるから丈夫なのは保証出来るぜ?」


カウンターの裏からゴソゴソと出して来たのは、鉄製の拘束具である。

手錠のゴツい版というか、アキレスを全て覆うほどの鉄幅で手首の方も同じく、手首の上辺りまで鉄が覆っていた。

短時間の拘束という事で鎖すらない拘束具を選んだらしい。

腕は傭兵が、足は店長がはめて身動き出来ない状態になった。


「て、店長!? 何で従業員護ってくんないんすか!?

何で一緒になって拘束してんすか!?

こんな事される程の事、おれしてないつもりなんだけどぉ!?」


「まぁだ分からんのかこのバカが!

お前は今、その従業員として、客に、何をしたか、全く覚えとらんのかぁ!?

勝手に写真撮って、悪評付けてばら撒くって脅したよなぁ!?


拘束具要求されるほど、お前は人として社会人として信用出来ねぇって判断されたんだよ!

何せオレの店の規則すら守れねぇどころか、国の法律すら守れねぇ、常識無しのド屑バカだからなぁ!?


この兄ちゃんが言わなかったかぁ?

正規も裏稼業も傭兵の資格が持てる、と。お前も裏稼業してる傭兵として言いふらすと脅してたもんなぁ!?

脅し文句に使っておいて知らねぇ訳ぁねぇよなぁ!?


これが紐付きの裏稼業なら、お前はすぐ裏組織にしょっぴかれて舐めた事への報復されてんだよ!

まさかこんな糞な事を繰り返してねぇよなぁ!?

常習犯とは言わねぇよなぁ!?


店長だから問答無用で庇ってくれるなんて思ってんじゃねぇぞ! ごるぅあぁ!

やらかした内容や限度にもよるわぁぁ!」


「ひぃ!? そ、そんなぁ!?」


バカが縋ってきた事にキレたのか片手で襟首掴んで間近に怒声を浴びせまくった。

完全な自業自得である。まさかこれでも反省せず、私欲で客にやらかした自分を庇えと要求してくるとは誰も想定していない。

当然庇って貰えるもんだと甘ったれた事を考えていたのだろうか?

だがそんな自分に都合のいい幻想も壊れ、客に拘束されて怒った店長に引き摺られて行く現実だけがバカに残った。


「ホントにこのド屑バカがスマンな。

こんな事起こすなら、とっととクビにすりゃ良かったぜ」


「そんな!? 横暴だ!」


「ああん? どのツラ下げて横暴ぬかせんだぁ?

てめぇの欲満たす為に客脅す方が横暴だろうが!」


「うっ!」


痛い所を突かれてすぐ黙る…いい加減学習すりゃいいのにねぇ。


「傭兵の旦那、客なのに本当にすまねぇな。

後日、何か詫び贈るから欲しいのあったら言ってくれ。

ちょうどタクシーも来るようだし、このまま客として堂々と出てくれ。

アンタらは何も悪い事はしてねぇからな。


バカのスマホはオレが預かっとく。今すぐ返すには不安しかねぇからな」


「そうだな、あれはまで学習も反省もしないタイプだ。生きてる価値もねぇ」


「そうか、あんがとよ」


傭兵の意図を受け取り感謝するとすぐに傭兵から離れる。店長の手には既にスマホが握られており、傭兵は今回買った戦利品の入ったケースを掴んで既に来てるであろうタクシーへ向かって行く。


脳内は舐めた真似への怒りで少しドロつきながらも、今回に関しての望む事をする為の時間を作れるよう着実に歩を進める。

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