第15話傭兵に絡む愚か者店員の運命の天秤はもう決まっている

表のカウンターに着くと店長はヒラリと体の向きを変えて、変則的お辞儀を見せる。


「お買い上げありがとうよ。

それ結構重ぇんだからタクシー呼んでやるよ。

どうする?」


「それで頼む。良さげなホテルあればそこに泊まるつもりでいるぜ。

ここはいい店だったからな、定期的に覗いておきたいほどだ」


「お客さん、嬉しい事言ってくれるねぇ?

んじゃ、まぁタクシー呼んどくわ。

ついでに行き先決まってたら伝えとくけどよ」


「…あ〜…情報屋、俺の様なもんが泊まっても大丈夫なホテルってビジネスホテルになる、かねぇ?」


「お得意様は見られたら困る物が色々あるもんな。

ん〜客の詮索もせず勝手な情報漏洩もしないって意味での、スタッフの教育が行き届いてるビジネスホテルは……」


情報屋は少し離れて壁に置かれてるソファに座り、ノーパソで調べ物を始める。


「ほい、これ渡しておくぞ。

このカードは売買契約の情報も入っている顧客に渡す為のウチの店専用カードだ。


嗅ぎ回り対策でやってる。カウンターには顧客情報は一切残さないシステムでな、支払いまで済めば誰も入れない部屋にあるオレの顧客専用パソコンと、その専用ードに顧客の情報全て移してすぐに削除処理している」


「旦那も大変だなっと。

ん? 何か不快な視線を感じるんだが?」


「ああ、アイツがあのバカだよ。

あの目つきは懲りるどころか反省してねぇな、ったくよぉ。

オレは弁えねぇ行儀悪くて常識のねぇバカは大嫌いだっつーてんのによ」


実銃コーナーから上機嫌で出るとすぐに粘ついた不快な視線が飛んできて、良い気分台無しな不機嫌モードに変わる。

と、いきなり撮影の音が響いた。

音の発信源を見るとニヤついた顔で傭兵の姿を撮影したようだ。

周りのマトモな店員はそんなバカを見て、あまりの非常識行為に驚き過ぎて硬直が解けていない。


「実銃買ってる証拠撮っちゃった〜!

ネットで裏稼業が銃買いに来てると書かれたくなきゃ、何買ったか見せろよ!

んでもって、おれに触らせろよな!」


そんな巫山戯た事を喚きながら傭兵の受け取った銃の入った黒ケースに手を伸ばそうとした瞬間、バカの背後に回った傭兵が撮影に使ったスマホを取り上げ、空いてる片手で首を掴んだ状態で足払いをして膝で脱臼スレスレまで肩を踏み付けて勝負は決まった。


「なーんで実銃買ってるプロにド素人が優勢に立てると思ってんのかねぇ?

ガンマン遊びしかしてねぇ糞ガキがいちびってんじゃねぇぞ! ごるぁぁ!!」


「ひいぃぃ!?」


「お得意様、災難だったねぇ。今の撮影データおれが全て処分しとくからちょうだい」


「ほれ、他に親族も含め個人情報全てすっぱ抜いてやれ。

バカを世間に放逐したバカ製造血統だ。

マトモな奴以外は地獄見せてやれ」


「お得意様の依頼なら仕方ないね〜。

ねぇ、糞ガキ君? 裏稼業の住人を舐めてないかな〜?

恐らく後で警察に逃げ込もうとしてるんだろうけど、警察は一切助けちゃくれないよ?


だって法改正で傭兵資格持ちに対して自分から喧嘩売る行為した奴は、その傭兵に報復されても殺人以外の被害届を受理される事はないって決まったからねぇ?

分かるぅ? 日本の戦力の示威にも繋がるから傭兵優遇な法律あるんだけど、ホントに分かってるぅ?


まぁ、分からないからお得意様を狙ったんだろうけどお前はバカだよねぇ?

だって実銃を買いに来る客って大体はその傭兵だよ?

正規でも裏稼業でも傭兵資格は持てるんだよ?


ホンモノの裏稼業の住人は舐めて来たバカは始末して来てるはずなんだけど、知らなかったの?

サバゲーマーの間でも暗黙のルールとして拡がってるはずなんだけどねぇ?


外見が若いからいけるだろうと思った?

この仕事、才能と覚悟さえあれば若いうちからプロとして戦場で人殺しやれるんだよ。バァァッカじゃねぇーの?


ちなみにおれは情報関係のプロ。お仕置として糞ガキ君の親族も巻き添えに情報抜き取るから、楽しみにしてるといいよ?

お前の親族は誰一人マトモな生活出来ない状態にしてやるから、お得意様の要望通りにね?」


「あ、あ…うぁ、ぁ……」


一気にまくし立てた情報屋のセリフをようやく理解出来たのか、死人よりも顔色が悪くなっていた。

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