第10話違和感を楽しむ怪しい行商人

中国のとある荒野を超えた先の村にて1台の馬車が停まっていた。その馬車を中心に人だかりが集まっている。

そんな中、1人の声が響いた。


「お金ないー? じゃあ物々交換でよろしく!」


景気のいい声で商いをしているのはフード付きの外套で顔を隠した背が気持ち高めの恐らく女性。

どうやら馬車で行商をしているようだ。

馬車の中からどんどん商品が引き出され、次々へと売れていく。

売れる度に補充されていくが、馬車のどこにそれだけの商品が詰まっていたの?というほど、売り切れる事はない。


「にははっ、大繁盛大繁盛☆

こんなに売れるなんて僕って天才だねっ☆」


「行商の嬢ちゃん、本当にこんな物と交換で構わないのかい?

無理しなくてもいいんだぞ?」


「だーいじょーぶ大丈夫! はい、鍋と包丁と綺麗な飲料水1週間分だよ☆」


「有り難い…政府は税金取るだけで何もしてくれない。儂らを助けてくれたのは嬢ちゃんだけだ」


「それって酷いよねー。なーんもしてくれないならお金払う意味ある〜?」


「無いな。払っても苦しめられるだけなら払いたくもないわぃ」


「あっちの山超えた村の人達も同じ事言ってたよ?

中国って枠の国はもう要らないんじゃないか?って」


コソッと後半は他の人に聞こえないよう小声で言い反応を窺う。


「そう、だな。

何もせず金だけ奪っていくだけの政府の言う通りに大人しくしてる意味はないし、価値ももう、無いな…」


「お客さんは首輪嵌められた飼い犬じゃないんだから、少しくらい文句付けてもいいくらいだよ」


「嬢ちゃん、おいちゃんの愚痴聞いてくれてありがとな?

おいちゃんはやりたい事を見つけたからもう行くね?」


「はーい☆ またねー!」


飼い犬じゃないと言った部分で何かを決意したかのような目つきになり、挨拶も程々に足早に行商人から離れどこかへ向かって行く

男性客。

彼は何をしようと言うのか?


「これで植え付け1つ終わり」


遠ざかる男性客を見ながら誰にも聞こえない声で囁くのはそんな一言。

外套のフードのお陰で見えていないが、行商人の顔は狂気が滲む歪んだ笑顔を浮かべていた。


「さーてここでの行商は終わったし、次の村か街に行くとするかっ☆」


浮かべてすぐに消して元の行商スマイルに戻ると、拡げた商品の数々をどんどん仕舞い込み後は自分が馬車に乗るだけの状態になった。


「次はどんな畑かな〜☆ 種植えが楽しみ☆」


馬車に乗って移動を始めた行商人の不穏な一言は誰にも聞かれず、風に溶け込むばかりだった。

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