白ノ瀬家の別荘 宿泊一日目(3)

 夕食の怜兄れいにぃ特製スパイスカレーを食べ終わって各々がリビングで寛いでいるときだった。


「──よぉぉぉしっ! 時間もいい頃合いだからこれより幽霊調査を開始したいと思う!」


 玄関のほうから勢いよく現れたれんにぃがやかましい声を上げた。何やら首には一眼レフ、肩には大型バッグが提げられている。


 みんながれんにぃの言葉に困惑する中、長ソファに座って先輩と雑談していた俺は背後にある壁掛け時計に目をやる。時刻は二十時過ぎだった。


 ──幽霊調査? いきなり何を言い出すんだこの人は……。


 れんにぃのあとに続いてリビングに入ってきた怜兄れいにぃがすぐに補足する。


「こらこられん、趣味でテンションが上がるのも分かるけど前置きを話さないと。急にうるさくしてごめんねみんな。今から森で肝試しをしようと思ってるんだ」


 なるほど肝試しのことだったのか。なんとも夏らしい定番イベントだ。


「簡単に説明すると、森の各所にルート看板を立ててあるからそれ通りに二人一組で進んでいって、中間ポイントでツーショット写真を撮って戻ってこれればクリアって感じだね。もちろん参加は自由だよ」


 何にでも好奇心旺盛な先輩が嬉々とした様子を見せる。


「肝試しかぁ。遊園地のアトラクションとかだったら何度も体験したことがあるけど、実際の夜道を出歩いて行うのは初めてかも。面白そうだね」

「うーん、そうですか?」

「あれ? 遠也とおやくんってホラー系苦手だっけ?」

「いえ、特に好きでも嫌いでもない感じですけど。こういうのって驚かし役が複数人いてこそ成り立つものだと思うので単純に人数不足で盛り上がらない気がするんですよね」


 リラックスチェアに座ってだらけている姉貴の様子を見るかぎりこの企画を事前に知っていたのは大人三人だけのようで、元より宿泊すら面倒がっていた姉貴や参加する気満々のれんにぃがお化け役を引き受けるとは思えないからただの夜の散歩と成り果てそう。


「ちょ、ちょっと待てよ怜兄れいにぃ! それはさすがに危険じゃないか!?」


 絨毯の上でのぞむと携帯ゲーム機で遊んでいたリョウが立ち上がる。やけに切迫した顔だ。


「なんだリョウ。もしかして怖いのか?」

「そうだけど違うっ! オレが怖がりなんじゃなくて、あの森には本物の幽霊がいるんだよ!」

「あぁ? 本物の幽霊?」

「毎年だれかが森の中をうろつく白装束を着た人影を目にしてるんだ!」


 なんとも信じがたい話だが、よく見ればのぞむ花咲はなさきに甘えていたのぞみも顔に暗い影を落としている。普段クールな二人が感情を表に出すのは珍しい。


 それに思い出せばれんにぃは大学でオカ研所属だったはず。ノリノリな様子にも合点がいく。


 俺は幽霊肯定派ではないがそこまで必死になられると一気に緊張感が増す。リョウの危惧も妥当に思えてきた。


「弟妹たちよ、勇気を持て! 危険を恐れてちゃあ幽霊の決定的証拠を掴められない! オカルト研究会の代表として今年こそはその姿をカメラに収めてやる!」

「大丈夫大丈夫。懐中電灯はもちろん、何かあった時のための防犯ブザーと知り合いの神主さんに用意していただいた魔除けの護符もあるから」


 やっぱりこの兄たちに『不安』の二文字はないか。


「それと、この試練を乗り越えた暁には報酬として現金一万円をプレゼントするよ」

「加えて、幽霊もしくは未確認生物を写真に捉えた者は俺から情報提供料として更に一万だ」


 未成年を金で釣るとは悪い大人たちだ。でも魅力的な提案であることには間違いない。


「そのことを踏まえて、まずは参加人数を把握したいから肝試しする人は挙手してくれるかな?」


 ここまで用意周到だと断りづらいな。しかも先輩が迷いなく手を挙げたので余計に。


 他も俺と似たような意見みたいで流れに流されるまま手を挙げる。


 ただ一人を除いて。

 彼塚かなづかだけは部屋の隅っこでスマホを弄っているばかりで挙手する素振りはない。集団行動は嫌いと言っていたし、そもそも金持ちだから案の定というべきか。


 だがしかし、他全員が参加の意思を見せるこの状況下でが黙っているはずがない。


 れんにぃはバッグをその場に下ろして彼塚かなづかに近づいていく。


「なんだぁ、真尋まひろは参加しねぇのか?」

「僕は他にやることがあるので」

「何かは知らねぇけど、今じゃなくてもできることなんだろ。一人っきりで家にいてもつまんねぇぞ。俺の幽霊調査を手伝ってくれよ」


 がっしりと彼塚かなづかの肩に腕を回す。

 気弱な人に絡むヤンキーにしか見えない。海水浴の時もずっとウザ絡みされていたしやっぱりターゲットにされてしまったか。


 彼塚かなづかはきっとダメ元だったのだろう、れんにぃの性格はすでに把握していたようで俺の時と違って反抗を見せずに「分かりましたよ……」と渋々スマホをポケットに仕舞った。


 怜兄れいにぃは大型バックの中から丸い穴の開いた正方形の小箱を取り出す。ビーチバレーやスイカ割りなどで使っていたものだ。


「全員参加で嬉しいよ。それじゃあ二人組を決めよう。このボックスの中にある紙を……そうだね低い年齢順に引いていこう。紙には番号が書いてあって同じ数字の人と組むと同時にそれがスタート順だからね」


 好きな人同士で行くわけじゃないのか。まぁ余りが出たら虚しいもんな。


 しかしこれは良い展開じゃないか。くじ引きなら花咲はなさき彼塚かなづかが組む可能性はある。


 ここまでの彼塚かなづかの気怠そうな雰囲気を見たかぎり心霊の類いはバカバカしく思っていそうだから恐怖感を抱かないだろうし、対照的に花咲はなさきは抱きついてくるのぞみをぎゅっと抱きしめ返すほど怖気づいた様子。吊り橋効果とまでは言わないがこれは彼塚かなづかが良いところを見せるチャンスだ。


 あとは二人が一緒になることを祈るばかり。



     ***



 濃い暗闇が支配する森林。


 明るいときの木漏れ日射す穏やかな情景は一変しておどろおどろしくなり、カサカサと微風で木の葉が擦れ合う小さな物音にも反応してしまうほど心に警戒が生まれ、懐中電灯が照らす木々の樹皮が時おり人の顔に見えてきて恐怖を煽る。


 一歩一歩が重く、思うように前に進めない。


 ただそれは恐れからではなく、ぴったりと俺の腕に絡みついてくる彼女が原因だ。


「うぅ……」


 花咲はなさきは青白い顔で情けないうめき声を上げながら恐々と辺りに視線を向けている。


 俺は心の中でため息をつく。

 まさか俺と花咲はなさきが一緒になるなんて……。


 祈りが通じなかったどころか最悪の組み合わせになってしまった。


 ペアとスタート順は次の通り。

 ①先輩と彼塚かなづか。②俺と花咲はなさき。③れんにぃのぞみ。④リョウとのぞむ。⑤怜兄れいにぃと姉貴。


 花咲はなさき彼塚かなづかがペアになれなかった不運よりも、先輩と彼塚かなづかがペアになってしまったことのほうが大問題だ。一つの懐中電灯の光を頼りに肩を並べて歩く二人の光景を想像するだけで嫉妬に駆られる。


 それに彼塚あいつは新入生の花咲はなさきに言い寄ったほどの悪漢だ。先輩の多々ある魅力に惹かれて手を出してもおかしくない。


 ──やっぱり放っておけない。先輩の身に何か起こるまえに合流しなければ!


 五分間隔でスタートしたから走れば余裕で追いつく……のだが。


「なぁ花咲はなさき。早く先に行きたいから少しの間だけ頑張って走れないか?」


 俺に密着しながら魔除けの護符を握り締めている花咲はなさきはこちら見上げてぶんぶんと首を振る。


「む、ムリです……! 走って足音なんて立てたら幽霊に見つかっちゃって即捕まえられますよ! そしてわたしたちは大きな口で頭から捕食されていくんだぁ……」

「お前の中の幽霊ってどんな化け物なんだよ……。もう少し歩くスピードをだな……」

「ムリなものはムリなんですっ! でも置いていかないでぇ……!」


 より俺の腕を強く抱いて引き止めてくる。


 性格的に怖がりだとはなんとなく予想していたが、まさか介助が必要なほどビビリだったとは。隣にいるのが俺でなく彼塚かなづかだったなら嬉しい誤算になっていたのに、ほんと運に見放されてるな俺。


「置いていかないから子供みたいに愚図るな。それと怖さで忘れてるけど俺男だからな」


 花咲はなさきは腕に胸を押しつけていることにたった今気づいたようで反射的にバッと体を離すが、すぐに「うぅ……」と助けを求める目で見てくる。


 これじゃとても先輩たちに追いつけないな。さすがに見捨てていくわけにはいかないし。


 まぁよく考えてみれば、いくら邪悪な彼塚かなづかといえど複数の目がある中で他人に危害を加えるなんて馬鹿げた真似はしないだろう。それに先輩は大の大人でも叫び声を上げる強烈なホラー映画に誘ってくるほど怖いもの平気だから初めに想像していた嫉妬心を煽る展開にもならないはずだ。


 だがもしも先輩の身に何か仕出かした時は絶対に許さない。宿泊の楽しい雰囲気をぶち壊してでも罪を償わせてやる。


「ふ、藤城ふじしろくぅん~……」


 物事をポジティブに考え直して逸る気持ちを静めていると、ついに花咲はなさきが恐怖の限界に達したみたいで涙目で身震いしている。こりゃ重症だな。


 花咲はなさきの精神が崩壊してしまう前に早いところ森を抜けたいが、すでに道のりは中程まで来てしまっているため来た道を戻ったとしてもそこまで距離は変わらない。それに後続はれんにぃだ。為せば成る主義を押し付けられては心の負担が増すだけ。


 結局のところは花咲はなさきに頑張って前に進んでもらうしかないか。


 今の状態では足に根が生えたように動かないから手を繋いで勇気を分け与える。


「ほら、これぐらいなら男の俺でも大丈夫だろ」

「……はい……ありがとうございます……」

「そう不安になるな。もし何かあった時は俺が盾になるから安心しろ」

「ダメです! 今の藤城ふじしろくんはか弱い女の子だから身ぐるみ剥がされて襲われちゃいます!」

「追い剥ぎかよ。せめて幽霊観を統一しろ。……ったく、いる前提で物事を考えるから怖くなるんだ。今までに見たことがあるのか?」

「それはないですけど…………でもみおちゃんたちが見かけたって……」

「幽霊の正体見たり枯れ尾花って言葉があるだろ。見間違いだ見間違い。幽霊なんていない」

「…………」


 花咲はなさきは少しだけ考える素振りを見せてこくんと頷いた。青ざめた顔色も今は正常に戻って体の震えも治まっている。どうやらさっきよりかは気持ちが和らいだみたいだな。


 俺たちは緩やかな足取りで歩みを再開させた。


 無言でいるとまた神経が恐怖そちらに向かうので会話をして気を紛らわせよう。


「それにしても花咲はなさきがここまで怖がりだったなんてな」

「人を軟弱者みたいに言わないでください。どこでもここでも怖がってるわけじゃないです」

「ほんとかぁ? 強がりにしか聞こえないぞ」

「本当ですっ。ホラー系の漫画や映画だって見れますしお化け屋敷にも入れます。そりゃ好きか嫌いかで言えば嫌いですけど人並みにです」

「じゃあさっきの様子には何か訳があるのか?」


 恐怖心を遠ざけようと敢えてからかってみたが、あの尋常じゃない怖がり方を思い出すと理由が気になってくる。


 花咲はなさきはぎゅっと俺の手を握り、ゆっくりとした淀みない口調で話し始めた。




 中学二年の夏頃に、今のような森の中で迷子になったことがあるんです。


 わたしは美術同好会に所属していて、その日の放課後の活動は風景画を描くことでした。


 校舎の外に出て絵になる良い景色を求めるうちに足は学校の裏山に入っていました。とくにわたしは人の手が入ってない自然の様子が好きだったので素敵な場所があるんじゃないかと思ったんです。


 普段から言われている『山の奥には行かないように』という先生の注意を軽んじていくつもの木々を抜けながらベストな写生スポットを探していると、やがて岩間を流れる小川を発見しました。


 オレンジ色の夕日が水面と木々を照らし出す哀愁漂う様が写生の決定打になりました。


 わたしは近くの倒木に腰を据え、没頭して描き続けました。辺りが薄闇に覆われてきても、あとちょっとだけあとちょっとだけと言い聞かせて描くことを止めませんでした。


 さすがに灯りが必要になってきたところでスケッチブックを閉じました。


 そして良い風景を見つけられて心が浮き立つ帰り道でした。


 自分では校舎のほうに向かっているはずなのに一向に辿り着けなかったんです。徐々に見づらくなる視界も相まって焦りが大きくなっていき、駆け足で森の中を彷徨いました。


 迷子になったと気がついた時には足元も見えないほど周囲が暗闇に包まれていました。


 もう方角どころか数歩先でさえ分からない状況に陥って絶望しました。しかもそんな時に限って怖い話を思い出すんですから人間の脳っていじわるです。


 あまりの恐怖に助けを呼ぶ声も出ず、足が竦んでその場に蹲りました。時間が経つにつれて精神も弱まりきって、このまま帰れないんじゃないか、得体の知れないものに襲われるんじゃないかってマイナスなことばかりが心を支配しました。


 わたしはずっと孤独に涙を流して助けが来るのをただ祈ることしかできなかったんです。




 花咲はなさきはどこか疲れたように肩をすくめる。


「結局のところは懐中電灯を手にした部長が助けに来てくれて事なきを得たんですけどね。だから今でも暗い森の中に行くとあの時の情景が思い浮かんで平静を保てなくなるんです」

「そんな大変なことがあったのか……」

「これでもわたしがただの怖がりだとからかいますか?」

「……俺が悪かった。まさかそんな悲惨な目に遭ってるとは思わなかったんだ。許してくれ」


 立ち止まって謝ると、花咲はなさきはすぐに「ふふ、冗談ですよ」と不服の表情を和らげた。


藤城ふじしろくんが励ましてくれたおかげで今は冷静でいられますから感謝してるぐらいです」

「それはよかった。というかそこまでのトラウマがあってよく今回の肝試しに参加したな」

「だってみんなが参加する空気的に拒否できないじゃないですか」

「みんながみんな心の底からやりたいってわけじゃなかったっぽいし、今の話を打ち明ければ誰かが別荘に残ったと思うぞ。とくに姉貴なんかは人数合わせで仕方なくやってるふうだったからな」

「……あの時は言いたくなかったんです」

「まぁ自分の失敗談をみんなの前で話すのは気が引けるよな」

「それもありますけど……」

「それ? 他に何かあるのか?」

「……いえ、なんでもありません。────それよりも早く暗い森とはおさらばしたいので先を急ぎましょう!」

「お、おう」


 何やらはぐらかされた気もするが、完全に立ち直ってくれたみたいだし良しとしよう。


 それからは学校生活などの他愛もない話をしながらA型看板の矢印に沿って進んでいった。


 やがて先の光景に明かりが見えてきた。


 そこは少し視界の開けた場所で、真ん中には中間ポイントという看板とともにキュートな魂のおばけたちが浮遊するスタンドパネルが用意されてある。……わざわざツーショット写真を撮るためだけにこんな写真映えスポットを作成したのか、イベントを盛り上げようとする熱意がありすぎるだろ。


 そしてその近くには先輩と彼塚かなづかの姿があった。


 すぐに花咲はなさきとともに近寄っていくと、二人も俺たちに気づいたようでこちらを振り向く。


「先輩っ!」

「あ、遠也とおやく……」

「大丈夫でしたか!? 変なこととかされてません!?」

「変なこと? 特に変わったことはなかったけど……幽霊とかにも遭遇してないし」


 何のことか分かっていない反応的に彼塚かなづかとのトラブルはなかったみたいだな。よかった。


「いえ先輩が無事ならいいんです。それはそうと随分とゆっくり進んでるんですね」


 花咲はなさきのことで足を止めていた時間があったにもかかわらず追いつけたのは驚いた。


「そうだね。彼塚かなづかくんと会話をしながら歩いてたからかな」

「会話ってどんな話を?」

「んー、学校のこととか家のこととか色々かな」


 二人の談笑する様子を想像してしまい、ちょっとだけモヤモヤ感がした。先輩の話し上手な性格的に誰が相手だとしても無言でいることはあり得ないので何らおかしいことじゃないんだけど。


遠也とおやくんたちのほうこそ、とーっても仲良さそうで何よりですねー」


 言葉とは真逆な不満の声で言って、さらにはジト目を向けてくる。


 そこで花咲はなさきと手を繋ぎっぱなしにしていたことを思い出し、急いで離す。ここまでずっと握っていたから違和感が無くてつい忘れていた。


「こ、これは花咲はなさきが怖いって言うから繋いだだけで他意はないです! なぁ花咲はなさき!」

「そうですあかね先輩! 藤城ふじしろくんはわたしの為を思ってくれただけでやましさは一切ないです!」

「……まぁそうとは思ったけどさぁ。少しは私に気遣ってくれてもよかったんじゃない?」

「たしかに配慮が欠けてました……でもほら、恋人繋ぎをしてるわけじゃなくてただ手を握っただけですのでそこまで拗ねなくても……」

「ふーん。じゃあ私も彼塚かなづかくんと手を繋いで写真を撮っちゃおうかな。べつに恋人繋ぎじゃなければ遠也とおやくんは気にしないんだよね?」

「すみません! 全面的に俺が間違ってたので考え直してください!」


 先輩が俺以外の男とツーショット写真を撮るだけでも嫌なのに、そんなことをされたら嫉妬心で気が狂ってしまう。


「んーどうしよっかな~。私の好意を軽く見られてすごく傷ついたしぃ、今後のためにも遠也とおやくんには同じ気持ちを味わってもらったほうがいいような気がするなぁ」

「勘弁してください! これからは気をつけますので!」

「ほんとかなぁ~? 同じ男の子として彼塚かなづかくんはどう思う……って、あれ?」


 先輩が振り向いた先に彼塚かなづかの姿はなかった。

 周囲やスタンドパネルの後ろ側を見てもいない。さっきまでそこにいたはずだが。


「ま、まさか幽霊に攫われたんですか!?」

「なわけあるか。それだったら悲鳴の一つでも上げるだろ」


 大方、俺たちの会話に焦れて先に進んだのだろう。懐中電灯は先輩の手にあるが足元を照らすぐらいならスマホのライトでどうにでもなる。


「一人で行っちゃったのかな……早く追いつかないと」

「放っておきましょう。一人行動が好きみたいだし」

「それならいいんだけど……ここまで来るときも様子がおかしかったからちょっと心配かな」

「様子がおかしい?」

「うん。私が言葉を投げかけたらその都度返事してくれたんだけど、どこか心ここにあらず状態っていうか落ち着きがない感じだったの」

「先輩と二人きりだったから緊張してたとか?」

「歳の離れたれんさんと普通に接してたぐらいだし、たった一つ違いの私にそれはないと思うよ」


 俺が言ったのは先輩が可愛すぎてという意味だったのだが。まぁたしかにあの図太い彼塚かなづかが他人のことで一々取り乱すなんてあり得ないか。


 そうなると理由はなんだ? 今一人で森を突き進んでいることからして幽霊にビビッていたわけじゃないだろうし。まったくあいつの考えは読めない。


 なんにせよ、もし体調不良的な理由だったなら先輩の杞憂も分かる。大事にならないよう一緒にいるべきだ。過去の花咲はなさきじゃないが迷子になられても困るしな。


「分かりました。俺が呼び止めてくるので二人はゆっくり来てください」


 花咲はなさきのことを先輩に任せてすぐに後を追った。


 ルートを逸れている可能性も視野に入れて辺りに懐中電灯を向けながら早歩きで進んでいく。


 ほどなくして彼塚かなづかの後ろ姿が見えた。予想通りスマホの光を頼りに歩いている。


 すぐさま追いついて肩を掴む。


「おい。断りもなく一人で行くな。まだ写真も撮ってないだろ」

「…………」

「おいってば、無視すん……」

「────うるさいなぁ……!」


 怒声とともに肩を激しく動かされて手を振り払われた。こちらを向いた彼塚かなづかの瞳には敵意が宿っていて明らかに苛立っている。


「僕のことは放っておいてくれって何度言えば分かるんだよ!」

「ちょっと落ち着け。何をそんなにキレてんだよ。もしかして先輩と写真を撮るのがそんなに楽しみだったのか、俺と花咲はなさきが来て水を差されたからいじけて……」

「誰がそんな子供じみたことするか! そもそも君の彼女にはこれっぽっちも興味ない!」

「その言い方は失礼だろ! 先輩の魅力を軽視するような発言はやめろ!」

「彼氏からすれば男の僕が関わりないほうがいいでしょ!?」

「当たり前だろうが! ふざけんな!」

「じゃあなんて答えればいいんだよ!? 君は本当にめんどくさいな!」

「そこはもっと気の利いた言葉があるだ……」


 そこで話が脱線していることに気づいて口をつぐむ。こいつと言い合いを始めると小馬鹿にした態度や口調につい乗せられて感情が止められなくなる。


 ため息をついて気持ちを仕切り直した。


「なんにしても、みんなに黙ったまま勝手に行動するな。早く戻れ」

「僕はこのまま一人で行く。君たちのイチャイチャしてる姿を見ると虫唾が走るからね」

「誰もイチャついてねぇよ。っていうかお前の意思なんて知るか。一人にして何かあったら俺たちの責任になるから引き止めてんだよ」

「小さな子供じゃあるまいし考えが過保護すぎでしょ。それともなに? 本当に幽霊がいるとでも思ってるの?」

「思ってねぇよ。俺が言いたいのは──────ッ!?」


 俺は言葉も中途半端に息を呑んだ。


 暗がりの中に薄っすらと、彼塚かなづかの背後──遠くの木立の間に立ち尽くすが見えたからだ。


 顔を覆い隠すほど伸びて荒々しい黒髪に、よれよれの薄汚れた白装束。リョウから聞いていた話と完全に一致した姿。


 俺が見ていることに気づいたのか、ゆらりゆらりと体を振りながら近づいてくる。


 一瞬だけ髪の隙間から血走った眼が見えたような気がして、幽霊の存在を信じていない俺でも『もしかしたら本当に……』と考えが過るほど恐怖と命の危機を感じ、急いで彼塚かなづかの腕を強く掴んで引っ張る。


「──ったいなぁ! 言うこと聞かないなら力づくってわけ……」

「おい、マジで出た! 早く逃げねぇと!」

「はぁ? 出たって幽霊? 君の小芝居は猿以下だね。今どき子供でもそんな手に乗らないよ」

「冗談じゃねぇよ! 後ろ見ろ、後ろを!」

「君の指図に従う気はない」

「こんな時に変なプライド保ってんじゃねぇ! いいから見ろっ!」


 両肩を掴んで強引に体の向きを反転させる。すでに幽霊は彼塚かなづかの真後ろの木まで迫っていてそのおどろおどろしい姿がばっちり視認でき────


「────うわぁぁぁぁっ!!」

「ちょ、おま……!」


 彼塚かなづかが情けない悲鳴を上げながら俺のほうに猛ダッシュしてきてぶつかり、体勢を保てず共々地面に倒れる。突然のことだったため受け身が取れずに背中と尻を強かに打ちつけた。


「う……てぇ…………んっ」


 痛みの次はくすぐったいような感覚がして目を開ける。


 覆いかぶさるように目前には彼塚かなづかの顔があり、手が俺の両胸を鷲掴みしていた。


 そのいかがわしい体勢に遅れて気づいたらしい彼塚かなづかはカァーッと顔を赤く染め、


「ち、違うこれは体勢を保つためで偶然こうなって……! っていうかなんで下着をつけてない……いやそれよりも幽霊が……」


 混乱を極めているようで俺の上から退く様子もなくただただテンパる。


 ちょうどそのとき地面を駆ける足音が聞こえてきて先輩と花咲はなさきが現れた。


「さっき悲鳴みたいな声が聞こえたけど二人とも大丈夫!?」

「幽霊ですか!? 幽霊が出たん────…………」


 俺たちの姿を見た途端、花咲はなさきの目からスーッと感情の色が消えた。

 無言でこちらにツカツカと歩み寄ってきて彼塚かなづかの目前で立ち止まった次の瞬間。


「この最低男ぉぉぉ!」


 左手を大きく振りかぶってそのまま彼塚かなづかの頬をぶっ叩いた。静かな夜の森にバチンっと凄まじい音が鳴り響き、茂みに潜んでいたらしい小動物や虫たちが逃げていく。


 しかし花咲はなさきの行動は止まらず、今度は彼塚かなづかの胴体を思いっきり押して地面に尻もちをつかせた。


 そして唖然とする彼塚かなづかを見下す。


「暗がりで女の子を押し倒しただけではなく、む、胸を揉むなんて最低ですっ!」

「ちょっと待ってくれ! これは不慮の事故なんだ! それに藤城こいつは男……」

「言い訳するなっ! このヘンタイ! ゲス! ケダモノ!」


 怒りと羞恥に満ちた真っ赤な顔でこれでもかと罵詈雑言を浴びせる。今もなお近くにいる幽霊の存在に気づく様子はまったくない。


 このままではみんなまとめて幽霊の餌食になってしまう。


 俺は地面に手をついて素早く上体を起こした。


花咲はなさきっ、彼塚かなづかの言ってることは本当だから怒りを収めろ! 今そんなことをしてる場合じゃ……」

「騙されちゃいけません! 故意じゃなければすぐに手を離せばいい話です! それをこのスケベぇ男は感触を堪能するように長時間触れてぇ……! 二度と同じ真似ができないようトラウマを受けつけてやるぅ……!」

「ああもうっ、幽霊がすぐそばまで来てるんだよ幽霊が!」

「……へ? ゆうれ───────にぎゃあぁぁっ!!」


 ようやく気づくと、尻尾を踏まれた猫のような声を張り上げ、なぜかこちらに飛びついてきてまた俺は地面に転ぶ羽目になる。


「なんで俺に抱きつくんだよ!? はよ逃げろ!」

「もうダメだもうダメだもうダメぁ……!」


 一気に感情が恐怖に取って代わったようで涙混じりの声で叫ぶばかり。彼塚かなづか彼塚かなづかで意外にショックを受けたのか身動き一つせずにただただ呆然としている。


 収拾がつかない状況の最中、すぐ近くでカメラのシャッター音が鳴った。


 見るとそこには幽霊の至近距離でスマホを構えた先輩の姿が。


「先輩っ、何やってんですか!? 襲われますよ!」

「初、幽霊と遭遇記念に一枚」

「危機感なさすぎです!」

「うそうそ。よくできてるなぁと思ってね」

「よくできてる……一体なにを言って……」


 先輩の恐れを知らない態度に疑問を抱いている間にも、幽霊が茂みの奥から進み出てきて何やら両手で顔の前の髪をたくし上げた。


「──ごめんごめん、驚かしすぎちゃったね」


 そこには怜兄れいにぃの苦笑する顔があった。




     ***




 ふかふかの敷布団の上で横向きになりながら就寝する。


 目を瞑って視界が閉ざされると他の五感が敏感になり、背後から聞こえる微かな寝息や制汗剤のような甘くて良い匂いがまざまざと感じ取れる。


 俺は肌かけ毛布を頭まで被った。


 ──こんな状況で寝れるわけがねぇ!


 瞼の裏側を見つめてから一時間が経ったが、一向に睡魔は訪れてくれない。


 肝試しが終わったあと、別荘に戻って続々と女子たちから入浴を済ませて一時ひとときのリラックスタイムを過ごしてから就寝時間になったわけだが、もちろん部屋にベッドはなく横一列に布団を敷いて寝ている状況だ。


 最初は女子たちと一緒に寝るのは無理だと思ってべつの所で寝ようとしたものの、先輩たちが気にしないと言ってくれたので素直に厚意を受け取った……のが間違いだった。


 信頼してくれる気持ちは嬉しかったが、それにしてもみんな無防備すぎだ。


 俺の姿が女だから警戒心が薄れているのか、キャミソールやショートパンツなどの肌の露出が多い服装に平気でなった。ふとした動作で下着がチラ見えして目のやり場にかなり困る。


 極めつきはすぐ隣で先輩が寝ていることだ。


 せめて四人との間に姉貴を挟んでしのごうとしたのだが、その前に姉貴が一番すみっこを陣取り、交渉しても退いてくれなかったのだ。

 となると反対側の隅に寝るしか選択肢がなくなり、必然的に誰かが隣に来ることになる。


 花咲はなさきは知り合って数日の仲だから無理。のぞみはいつの間にやら花咲はなさきに懐いていて一緒に寝たいと言い出したから無理。この中では幼馴染のリョウが一番気にしなくていい人間だが、なんか就寝に乗じて襲ってきそうでおちおち寝てられないから無理。消去法の結果、先輩しか残っていなかった。


 添い寝をしているわけではないが、真後ろで恋人が寝ていると思うとやっぱり落ち着かない。


 先輩の怪現象中に一度だけ同じ部屋で寝たことはあるものの、ベッドと床で高低差があったあの時とは違って今は目線が同じ高さにあるため寝返りを打つだけで先輩の寝顔が見えて心が動揺してしまう。


 そんな俺の気苦労なんて露知らず、みんなは遊び疲れたようでぐっすり。俺も体力の限界まで海水浴を楽しめばよかった。彼塚かなづかの介抱に付き合ったときに休憩を取ったのが仇となったか。


「ん……んぅ……」


 そのとき背後から先輩の小さな声が聞こえてきた。何やら呻くような声音だ。


 数十秒してもまなく心配になって振り返る。


 先輩の表情は眉間にしわができるほど強張っていてかなり寝苦しそうだ。

 肝試しのあとだし怖い夢でも見ているのだろうか。一度起こしてあげたほうがいいか。


「ん……んん…………ま……まく……」

「まく……?」

「ま……まく……らぁ……」


 ──ああ、枕か。両手を前に突き出して彷徨わせているから抱き枕を欲しがっているっぽい。


 そういえば、前に俺がクレーンゲームで取った河童のぬいぐるみをいつも抱いて寝てるとか言ってたな。まぁまぁの大きさがあるからさすがに宿泊には持ってこれなかったようだ。


 少し考えて自分の枕を渡してみる。

 両腕の間にそっと置くと、獲物を捕らえるタコの触手みたいに絡ませてギュッと胸に抱く。同時に苦心の顔がスヤァっと満ち足りたように和らいでいく。


「……こりゃ眠れねぇわ」


 先輩の新たなる可愛い一面を垣間見てしまい、余計に眠気が遠ざかる。


 しかたない。ここはもう開き直って夜更かしするか。この部屋にいるといつまでも乱れた心が静まらないから、なにか飲み物でも飲んで思考をリセットしよう。


 みんなを起こさないよう忍び足で部屋を出る。

 

 廊下の棚の上にある置時計は深夜零時を指していた。

 そのままリビングに続くドアを開けると、予想外にも照明が点いており、暗さに慣れた目が自然と細まる。


 誰かいるのかと眩しさに耐えて目を凝らすと、そこには彼塚かなづかの姿があった。


「…………」


 一人佇みながらリビングの壁に掛けられた絵画を見ている。俺に気づかないほど一途に。


 こんな深夜に一人でどうしたのか。なにか悪いことを企んでるわけじゃないだろうな。


 彼我の距離が半分まで近づいたところでようやく向こうも気づき、俺だと分かると顔をしかめる。


「こんな夜更けに何してんだよ?」

「このやつれた顔を見れば察せるでしょ。……まったくあの兄たちはいい歳して枕投げを全力でし始めるし、弟は構ってオーラを出してじゃれてくるし……どいつもこいつも遠慮が無さすぎる。おまけに全員寝相が悪いなんて休まるか」


 そう言って重い息を吐く。白ノ瀬しろのせ家はパーソナルスペースが異常に狭いから、集団が苦手なこいつにはより苦痛に感じるだろうな。


 状況は違うが、どうやら俺と同じで眠れないらしい。


「それで絵画鑑賞してるのか? お前に絵を楽しむ心があるのは意外だな」

「失礼だね。小さな頃から著名人の展覧会に何度も連れて行かれたおかげで芸術分野に関してはある程度の知識があるんだよ」

「へぇ。そんなお前から見てこの絵は凝視するほどのものなのか?」


 アンティーク調の額縁に飾られた抽象画。丸や四角などの図形に、人の目やら手やらが描かれていて雑然としている。色使いも独特で、しっかりと塗っている箇所もあれば筆を振り払ってできた飛沫みたいになっているところもある。何を表しているのか俺にはさっぱりだ。


「教養のない人に言っても伝わらないよ」

「教えてくれるぐらい良いだろ。なやつだな」

「端から人に聞く時点で君に芸術は向いてないよ。多視点で見方が変わるから面白いんだろ」

「くっ」


 こいつに正論を吐かれると非常にムカつく。


 しかし何度見ても感想が思い浮かばない。風景画なら綺麗だなとか上手いなとか出てくるものの、この絵はまずどこをどう見始めればいいのか取っ掛かりさえ見つからない。


 これが芸術に携わっている人なら理解できるのか、とても信じられないな。そういえば花咲はなさきは中学時代に美術同好会に所属していたと言っていたし明日聞いてみ………………待てよ。


「お前は絵が好きなんだよな?」

「そうだけど?」

「じゃあ自分で描いたりもするのか?」

「……前は暇つぶしでしてたけど今は勉強で手一杯で全然だね。そんなことしてたら母さんに何を言われるか……」

「なるほど、そうかそうか」


 やっと二人の共通の話題が見つかった。


 花咲はなさきは部に昇格していない同好会に入るほどの熱量だし、彼塚かなづかはこの落書きみたいな絵を見入るほど関心がある。きっと好き同士でしか語れないことがあるはずだ。そこから徐々に打ち解けていければあるいは。


きみ、また余計なことを考えてない?」

「余計って言うな。っていうかどうしてもっと早く絵が好きなことを言わねぇんだ。無駄な気を回すことになったじゃねぇか」

「今したのも無駄な気だよ。本当に君ってやつはお節介者だな」

「俺のどこかお節介者だ。胸を揉まれても普通に接してあげてるだけありがたいと思え」

「だからあれは事故だって言ってるでしょ! あと女の自覚があるなら下着ぐらい着けろ!」

「締めつけた感じがして不便なんだよ。お咎めなしで生の感触を知れたから良かっただろ」

「よくない! 君のせいで僕の心証はガタ落ちなんだよ、少しは悪気がないのか!?」

「あるからそれ含めて印象挽回しようって奮闘してるんだ」


 本当に肝試しの件は最悪だった。


 結局のところ幽霊騒動は怜兄れいにぃ単独の仕業で、毎年あの姿になっては弟妹たちの恐怖心を育てつつ、いつかド派手に驚かせてスリルを味わってもらおうと画策していたらしい。たかがそれだけの為にばっちりメイクまでしていたなんて頭がイカれてる。


 ちなみにれんにぃれんにぃで長年騙されていたことに一つも怒りを感じた素振りを見せず、むしろ「幽霊を捉える上での良い訓練になった!」と喜んでいた。ポジティブ思考すぎて逆に怖い。


 そんなこんなで白ノ瀬しろのせ家のことはどうでもいい。


 問題は花咲はなさき彼塚かなづかに対する評価が地に落ちたことだ。


 幽霊が偽物だと分かって花咲はなさきが落ち着きを取り戻したあと、すぐに胸揉み騒動の経緯を話して誤解を解こうとしたわけだが、花咲はなさきは口では納得しつつも終始しゅうし嫌悪感を抱いた顔だった。内心では憤りで一杯なのだろう。一度は襲われた身だから信用できないのもしょうがない。


「あの時にお前が申し訳なさそうな態度をしてれば花咲はなさきの機嫌も収まったのに……」

「それをしたら非を認めることになるじゃないか。僕は何一つ悪くない」

「そうだとしても空気を読めよ…………はぁ……」

「……そんなに彼女は不機嫌なのか?」

「先輩やリョウに愚痴るぐらいにはな」


 二人がまぁまぁと宥めていたものの、長らく不満の言葉が尽きることはなかった。


 彼塚かなづかは疲れたように額に手を当てる。面倒だとでも言いたいのだろう。こっちの台詞だ。


「悪い状況だって分かってるならさっさと謝れ。お前だってギスギスした雰囲気は嫌だろ」

「…………」

「たかが自分の過ちを認めるだけだろ。何がお前をそんなに意固地にさせるんだよ」


 彼塚かなづかは一瞬うざったそうに目を細めて、「……君には一生理解できないだろうね」と呟く。どこか呆れと怒りを感じさせる語調だった。


 そして俺を一瞥することなく階段に歩みだす。どうやらもう俺と会話をしたくないらしい。


 引き止める間はあっても、言葉が出てこない。自身の性が懸かっているとは言え、今日一日袖にされ続けると説得する気も失せてくる。


 結局そのまま彼塚かなづかが男子部屋へと戻っていくのをただ見ていることしかできなかった。

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