第3話 〖隣の席の有栖川さん〗

(見理(ケンリ)。お前は兄や妹達と違って普通の子なんだから、もっと頑張って上を目指しなさい)


ふと冬の中学受験の時の父さんとの会話を思い出した‥‥‥‥‥うわぁ~、嫌な事を思い出してしまったなぁ。


僕は僕なりのペースで人生を楽しめれば良いんだ。

それなのに兄弟である兄さんや妹達が優秀な為、父さんと母さんからはもっと頑張れと発破をかけられる日々を送っているんだよね。


せっかく冬の寒い高校受験次期を乗り越えて、新緑の春を迎えて、高校生活をエンジョイしようと思っていた所にあの変な夢‥‥‥‥うん。忘れよう。


僕は評価なんて余り気にしない。マイペースに楽しく暮らしていければそれだけで満足なんだからね。


そして、そんか満足を得る為に必要不可欠なのは部活動だと僕は思うんだよね。梓姉さんに頼まれて料理研究部に入るのはほぼ決まっているけど。他の部活の見学にも行っておきたいんだよね。他にどんな部活があるか気になるし。

だから放課後は一人でゆるりとマイペースに部活動見学にでも行こう。


‥‥‥‥‥そんな事を考えて教室を出る為、椅子から立ち上がると隣の席の女の子が僕に話しかけてきた。


「あら?正道君。何処に行くんですか?放課後は私と喫茶店〖フレイ〗で、絵画について語らい合うという約束がある筈ですよね?」


ん?んんん?‥‥‥‥ん?そんな約束‥‥‥してたかな?


「何を言ってるのかな?有栖川(ありすがわ)さん。そんな約束してた記憶なんて無いんだけど?」


「そうですか‥‥‥じゃあ。今、決めました。放課後は私と喫茶店でお喋り!やりましたね。正道君!才色兼備で学年一の美少女との放課後デートですよ。役得です」


有栖川(ありすがわ)・フローレンス・真理(まり)さんが満面の笑みを浮かべて僕に微笑みかける女の子。明るい金髪で、猫目の様なパッチリとしたお目め。愛らしい顔立ちの美人さん。


イギリス人のお母さんと日本人のお父さんとのハーフで、僕とは中学校からの同級生で同じクラスだったんだけど‥‥‥‥‥何故か同じ高校に入学して、更にまた同じクラスになるなんて思いもよらなかったなぁ。


有栖川(ありすがわ)さんは学生の傍ら、休日は絵を描くのが趣味みたいで、絵画鑑賞の為に学校の長期休暇の時は良く海外の美術館に足を運ぶらしいんだけど‥‥‥‥絵の為に海外まで行くって凄い情熱だなぁ。


僕には真似できない行動力の化身みたいな女の子が有栖川(ありすがわ)さんだ。


そんで僕も昔から少しだけ絵は嗜(たしな)んでいたりしたので、中学生の頃は放課後、喫茶店〖フレイ〗有栖川(ありすがわ)さんの絵仲間と一緒に絵画談義で盛り上がっていたのが懐かしい。


そして、今日もそのお誘い(強制)が発動したんだけど‥‥‥‥今日は一人マイペースに部活動見学に行くと決めてある日なんだよなぁ~、どうしよう‥‥‥どうやって断ろかな。


「役得って‥‥‥自分で言っちゃうんだ。有栖川(ありすがわ)さん」


「はいっ!私は凄い子なんですよっ!正道君」


「それも自分で言っちゃうんだ。有栖川(ありすがわ)さん‥‥‥‥誘ってくれたのは嬉しいんだけど。放課後は予定があるんだよね。だから〖フレイ〗に行くのはまた後日ということで、今日は帰らせてもらう‥‥‥‥‥」


「フフフ、またまたご冗談がお好きなんでから、正道君たら。私の御誘いを御断りする方なんていらっしゃいませんよ。あり得ません」


‥‥‥‥‥‥駄目だ。話が通じない。そして、押しが強いよ。有栖川(ありすがわ)さん。


中学生の頃から変わらないこのやり取り、まさか高校に入学してからも継続する事になるなんて誰が予想できるだろう‥‥‥‥‥。


いや、もう中学生の頃とは違う。回りに流されずマイペースに楽しく暮らすと決めたんだ。ここで折れる訳にはいかない。


「ごめん。有栖川(ありすがわ)さん。今日は一緒に〖フレイ〗には行けないんだ。放課後は部活動見学に‥‥‥」


「南本(みなもと)さんも一緒に来るんですかっ?!」


有栖川さんがいきなり椅子から立ち上がり、僕の両肩を掴んで顔を近づけて来た。

教室に残っているクラスの皆が注目してる‥‥‥‥不味い。


「へ?南本さん?‥‥‥何で?いや、南本さんは何も関係は‥‥不味い」


「その反応。やっぱりっ!放課後部活動見学デートですねっ!」


「放課後部活動見学デート?何その単語?有栖川さん。少し落ち着こう。クラスの皆が‥‥‥‥いや、廊下にも僕達に注目してる人達がいるからさ。ていうか、前に料理研究部については軽く説明した筈だよね?」


「目立ってなんぼの有栖川ですっ!それにそんな事忘れましたわ」


‥‥‥‥‥何処かの漫画の世界のお侍さんみたいなセリフが飛んできた。そうだった。有栖川(ありすがわ)さんは余り人の話を聞かないタイプだったなぁ。


「南本さんは確か一年A組でしたね?」


「う、うん。普通科の方の教室だけど‥‥‥それがどうかしたのかな?」


「乗り込みますっ!付いてきて下さいっ!正道君っ!それから私も放課後は部活動見学に一緒に行く事にしましたのでエスコートお願いしますね。それでは一年A組にカチコミに行きましょう!!GOですっ!正道君っ!」


「‥‥‥‥いや、僕はマイペースに楽して学校生活を‥‥‥てっ!服を掴んで引っ張らないでよっ!有栖川さんっ!切れる、切れるからぁ!!」


こうして僕と有栖川さんの二人は、普通科がある一年A組へと乗り込む事になったんだ。

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