第8話 ふもとの村でワイワイと

 結局メグ様とメグ様のお供にグルイド士爵殿がつくことになった。シュミット、エルザ、メグ、グルイド、グルイド夫人という予定していた以上のメンツでピクニックもとい試験に出かけることになった。

「俺の妻は姫のお世話だ」

「五人も……」

 シュミットは前を跳ねる杖に着いていった。地図を見せて洞窟まで案内するようにと魔法をかけた。

「おまえさ、本気で襲われるとか考えてるのか。仕込みだろう」

「敵国のスパイがいることもあるだろうが」

「二人で登るなら考えられたかもしれんが、お姫様まで来たらただのハイキングだ。近衛兵の皆さんが後ろで隠れてるぞ。鬱陶しい」

「気づかないふりをしてくれ。あれでも必死なんだ」

「何かあれば知らんぞ。おまえが守ってやれよ。士爵の名にかけて」

 霧が立ちこめてきた。杖に魔法のランプ石を付けると、灯りがカタンカタンと鳴らして跳ねていく。

「奴はバージョンアップしたみたいで喜んでる」

「有名な杖か」

「そんなもんあるのか」

「おまえたち魔法使いは師匠から霊木の杖を授けられるとか聞いたが」

「知らんな。俺より詳しそうだな。あれはふもとの教会で貸してくれたもんだ」シュミットは後ろを見た。「ほら。後ろの連中は迷子だ。奴ら登山の経験は?」

「ないな。おまえはあるのか」

「修行中はほとんどの霊山を踏破した。途中で師匠みたいなじいさんがくたばった。惜しい人を亡くした気もするようなしないような」

 洞窟の前まで来たシュミット一行はテントを張ることにした。ラバに積んだ帆布を張るのはグルイドとエルザがした。メグはというと二人に命令していた。夫人はシュミットの隣の椅子に腰を掛けて眺めていた。

「よくこんなところまで着いてくる気になりましたね」

「夫のためにはね。わたしはあなたに賭けたのよ。もう戦争で離れ離れになるのは嫌なのよね。戦争が起きても夫が帝都にいられるように」

「皇太子殿下は不人気ですか」

「どうかしら」

 夫人は登山姿でも美しい。

「いつ霧が晴れるのかしら」

「晴れませんよ。私が魔法をかけてるんですから。今頃兵士たちは同じところをぐるぐるしてます」

「意地悪なこと」

「もう一つ言うと、俺に期待しても何も出ませんよ。たかだか寒村出の魔法使いですからね。どんなに活躍しても爵位すらもらえない」

「五十万人も殺したのに」

 シュミットは立ち上がった士爵夫人を見つめた。

「怖い顔しないで。わたしはあなたの味方よ。これから魔法使いの時代が来るわ。魔法使いは買いよ」

 シュミットは普段は閉鎖されているはずの洞窟の入り口を覗いた。今回のために柵を外して、掃除までしてあるので、試験監督の並々ならぬ努力に敬意を評したい。ふと金属製の箱が目について、魔法の鍵を解除すると、手紙が入れられていた。

「何だ?」とエルザ。

「洞窟の地図だな」

 手をかざすと、夜光塗料のようなの地図が現れた。今度はふもとからの地図と違い、少し複雑なことをしてあるが、指で弾いて仕返した。

 突然、士爵夫人が倒れた。

 夫人はテントの中の簡易ベッドに横えられ、狼狽する子爵に温かい飲み物が欲しいと頼んだ。

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