第7話 いざダンジョンへ
屋敷が燃やされたとしても試験はするとのことだ。だいたいシュミットからすると、命を狙われている人をわざわざ家庭教師にすることの意味がわからない。もはやこれはどこか上の方の争いに巻き込まれているとしか思えない。また課された試験というのが、帝都の近郊にあるアララギ山の洞窟に隠された(関係者が隠した)宝を持って来いという、どこかの夏の肝試しのようなものだった。バカバカしくてやっていられないが、宝というのが皇后陛下から姫に与えられたペンダントだということだ。なくなればなくなったでシュミットのせいにされる流れだ。
万が一に備えて随行者を二人まで付けていいとのことで、政治的にどうでもいいエルザを付けた。槍の名手でもあるグルイド士爵も付けたいが、嫁に悪いような気もしたのでやめた。気合いの入れたエルザがいればいいか。彼女は折れたときとのために予備の剣も携えていた。
「斬るのか。内輪の試験だよ」
「わたしはおまえを護衛するために選ばれた。命乞いも許さん」
戦場では鬼と化す百人隊の隊長だということを忘れていた。
溜息を吐いたとき、
「なぜ俺を選ばんっ!」
当のグルイド士爵が叫んだ。こんなふもとの村まで来ていたのか。
「水臭いぞ!」
「おまえには嫁さんがいる」
「嫁の前だからこそいいところを見せたいんだ。俺の強いところを」
「あ、そうなの」シュミットは呆れていた。「嫁には見えんぞ」
「おまえと俺と嫁だ」
「これはピクニックなのか」
するとそこに一人のターバンを巻いた人が現れた。
「わたしが行きます」
シュミットは尋ねるまでもなく気づいた。メグだ。仮装しても見たことのある人なら誰でもわかる。
「ダメとは言えないわよね」
軍と宮廷の監査官は慌てた。ダメだと言われるに決まっている。現地の関係者に決定できるものなどいるはずもなく、持ち帰って検討するとのことを告げられたが、シュミットは延期する気はないと答えた。こんなつまらないことはさっさと済ませたい。メグは家庭教師になる人の実力を見ておきたい、習うのはわたしなのだと訴えた。グルイド士爵も監査官に詰め寄る始末だった。
シュミットは礼拝堂の前の階段に腰を掛けて、頬杖をついていた。何でもいいけど早くしてくれ。せっかく前の日から来ているのに、夕暮れに出発なんて嫌だぞ。片手で袋のナッツを取り出しては、皮を剥いては食べつつ騒動を眺めていた。
「もう一人で行こうかな」あらかじめ渡された地図を広げた。「何も書いてないのか。んなわけないな」
手をかざしてみた。インクが発光して浮かび上がると、ところどころに地図が浮かんだ。誰がこんなつまらない細工をしたのかと思いつついくつかの魔法を試して目的の洞窟の前までは読み取れた。作った奴に当てつけで呪詛を返しておいた。
「決まったのか」
やって来たエルザに聞いた。
「メグ様が折れん。連れていかないんなら雇わないとゴネてる」
「やだよ。お姫様も守らなきゃならないんだろう。訳わからん」
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