第6話 お師匠様んち燃やされる

「誰に気をつけるのかわからん」

 というときバタバタとするのは見苦しい。品がない。殺せるなら殺してみろと暮らしていると意外に何とかなるものだと思いつつ帰宅すると屋敷が燃えていた。執事以下使用人に怪我はないが、家財道具のほとんどが焼失した。ほとんど道具らしい道具はないのだが、使用人の行くアテを探してやらなくてはいけない。

「派手にやるな」と士爵。

「火の不始末らしい」

「信じられん。脅しか」

「偶然だ。組合から急遽集めた使用人らしいし。もともと寒村育ちの俺には贅沢すぎた。どこぞのアパートの一室にでも引っ越すかな」

 エルザが駆けつけてきて、グルイド士爵とともに野次馬の中を追い立てられた。二頭立ての四輪馬車が待ち構えていて、押し込まれるように乗せられると、メグが澄ました顔で待っていた。後から乗り込んできたのはエルザだけで、士爵には話をしておいたと剣で御者に合図した。

「はじめまして。わたしはルベルト王子の娘でメグと申します。偉大なる魔法使いシュミット様にお会いできて光栄てすわ。ぜひ戦争を終わらせたときの話などお聞かせください」

 なかなかの押しの強さに驚いて挨拶を返さないでいると、隣のエルザに肘打ちを食らわされた。

「いいのよ、エルザ。魔法使いの物知らずとはこのことね」

「緊張してるんです」

「どうして?ジィジや皇太子殿下にもお会いしてきたのに?」

「二人とも美しくはない」

 少し間が空いた。

「よく言われますわ」

「私もよく言います」

 メグは笑いながら、もっとおじさん臭いのかと思ったと付け加えた。

「空は飛べますか」

「必要ならば」

「湖の水を飲み干すことは」

「必要ならば。塔に閉じ込められたお姫様を救い出すくらいは」

 エルザが言うには、謁見を済ましたのだから、早く会いたい、見たいと言うことで忍んで来たらしい。

 メグは薄暗い中、エルザに顔を突き出して瞳を輝かせた。

「決めたわ。この人をわたしの師匠にする。合格よ」

「これが試験ですか」

「え?何のこと?」

「燃やしたこと」

「まさかわたしが燃やしたと思ってるの?何のために。失礼な」

 メグは腕を組んで考え始めた。何やら日常生活についての不平不満をブツブツ呟いていた。頭の回転が速いのだが、考えが口に出る。

「犯人を捕まえましょう」

「メグ様、警察の仕事です」

「これはわたしへの挑戦状よ。シュミットがわたしの家庭教師になることを邪魔したい人。三人で力を合わせて捕まえてみせるわ」

「三人……」

 シュミットはエルザに「おまえはどんな教育をしているんだ」と本人に聞こえないように責めた。剣術の稽古と護衛しかしていないと言い返してきたので、おまえが二人できたようなものだと返した。

「ご両親とか」

「ウェルカムよ」

「フィアンセとか」

「……こ、恋がしたい!」

 メグは両手に顔を伏せた。

「家庭教師は延期になるだな」

 シュミットがエルザに言うと、彼女もおそらくそうなると答えた。命を狙われてるかもしれない者を家庭教師になどできないはずだ。

「自作自演!?」とメグ。

「するかっ」

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